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§10.4 サル芝居/ 尾崎行雄『民主政治読本』

サル芝居

 先進国のお手本通りに憲政を運用しようとつとめた初期の議会では,少数党の主張が通ったときもあることは,先に述べた通りだ.しかるにその後,我流でやるようになってからは,政党のはたらきは,全く封建的私党の実質をばくろするにいたった.ことに政党がやや発達(?)して,政友民政の二大政党が対立するようになってからは,議会は全く朝野両私党の喧嘩場と化し,議案の運命は,会議を開く数日前からちゃんときまっている.これでは,先ず死刑を宣告しておいて,しかる後裁判を開くようなものではないか.かくて議会の討論は,サル芝居のせりふ以外の何ものでもないまでに堕落してしまった.
 頭の悪い議員は,どちらが国のためになるか,多数国民の幸福になるかの判断がつかないから,党の幹部の命令通り立ったりすわったりしたのかも知れぬ.しかし,議場でひとをなぐったり,けがをさせることのいいか悪いかぐらいは,どんなばかにでもわかるはずだ.ただ,はじめから道理を眼中におかない私党にとっては,いいか悪いかは問題ではない.ゆえに事理をきわめて明白な懲罰事犯でさえ,多数党のやったことは無罪放免で,なぐりどく,少数党はなぐられ損ということになる.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月6日公開

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