§10.3 無意味なひまつぶし/ 尾崎行雄『民主政治読本』
無意味なひまつぶし
一体人民から選ばれた代表が一堂に会して会議を開くのは,何んのためであるか.いうまでもなく,それらの代表が,どうすることが最大多数の最大幸福であるか,どうすれば国会の安全と繁栄が期せられるかという立場にたって,思う存分に意見をたたかわし,これをきんちょうした各代表が,何ものにもしばられない完全に自由な良心をもって,議案の是非善悪を判断した結果,多数の賛成をえた意見をとり上げて,民意を政治に反映せるためである.
ゆえに真正の会議においては,少数党のいい分でも,正しければ多数の賛成をえて可決せられ,多数党から出した議案でも,議場の討論において,多数議員の良心を首肯させることができなければ否決せられるのでなければならぬ.もし多数党のいい分なら,何んでも通り,少数党のいい分なら何一つ通らないということが,会議を開く前からわかっているなら,会議を開くことは,全く無用無意味なひまつぶしである.
底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年4月4日公開
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