§12.9 憲政の常道/ 尾崎行雄『民主政治読本』
憲政の常道
選挙の結果,政府党が少数で敗れた場合はただちに,去って多数を占めた在野党に席をゆずり,次の選挙で再び多数党になればまたとって代るというのが,いわゆる憲政の常道で,イギリスではこれがきわめて円滑に行われている.
日本では,A内閣が倒れた場合はA党がまだ議会の多数をもっていても,そんなことにはおかまいなく,ともかく反対党のB党に政権を譲ることが憲政の常道だと心得ている人があるようだがそれは違う.その場合A党になお適当な後継者があれば,それを立ててA党内閣をつづけていって一向さしつかえはない.その際B党の人々に,人心はすでにA党を去った,総選挙をやれば,必ずB党の方が多数を制し得るという自信があれば,ただちに内閣を明け渡せと云わずに,まず議会解散を要求し,A党内閣の手で総選挙をやらせた結果,B党が多数を得た時に始めて政権をうけとるのが憲政の常道である.これまでのわが国の政党内閣のように少数党として政権をとり,自党政府の手で総選挙を行って,多数党になるというやりかたが憲政の邪道である.
今後日本の政党内閣が,院外の直接行動やモッブやゼネストや暗殺や陰謀で倒されるようなことなく,選挙を通して,堂々と憲政の常道にもとづいた進退をするようになるために,私はもう一度,立憲政治は有権者中心の政治であることを強調したい.ここでもまた私はよくも悪くも政党は……その政党による政府は……その政府のやる政治は“鏡に映った有権者の影である”とくり返し念をおしておきたい.
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東海寺問答――海に近きを遠(東)海寺とは,これ如何?大軍を率いても小軍(将軍)というが如し.ちょっとうまい.
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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年4月26日公開
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