見出し画像

§12.2 陰謀成功/ 尾崎行雄『民主政治読本』

陰謀成功

 本当なら2.26,5.15事件が起こったとき,全政党人に奮然けっ起,憲政擁護の大はいをひるがえして,軍人の直接行動を痛撃する一大国民運動をまき起すだけの勇気と信用があったら,政党解消,ファッショ的大政翼賛会の出現,トージョー内閣の成立,戦争開始という一連の筋書きによる軍人の謀略は決して成功しなかったであろうと思う.しかるにそれが易々成功したのは,政党と国民を離間する軍人の陰謀が図にあたったからである.その陰謀が図にあたったのは,国民に,政党が悪いのは,自分の投票の仕方が間違った結果であるという自覚なく,反省なく,自責の念がなかったからである.
 もし“日本では私党はできても,公党はできない”という前章の私の所論を読んで,それは議員諸君が悪いので我が関するところにあらずと思う人があれば,その人は軍人に盲従した議員は責めるが,そういう議員に投票した自己の責任は少しもかえりみない人々と同様,とうてい有権者中心の民主政治を担任する資格はないといわなければならぬ.


←前:§12.1 軍人とはそりが合わぬ

次:§12.3 御意のまま→

目次に戻る


底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年4月19日公開

誤植にお気づきの方は、ご連絡いただければ幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?