§9.8 “出たい人より出したい人を”/ 尾崎行雄『民主政治読本』
“出たい人より出したい人を”
2,“出たい人より出したい人を”これは先年,トーキョー市政刷新運動が起ったとき,さきにトーキョー市長をつとめた人から標語をつのったことがある.その求めに応じて私がつくった標語である.有権者のための選挙である以上かくあるべきが当然であろう.
3,金銭や,ごちそうや,因縁や,情実で投票しないのはもちろん,選挙の費用は,有権者の持ち寄りにしなければならないこと.一足とびにそこまでゆけないとすれば,なるべく候補者に金を使わせないように工夫すること.
4,売収,ごちそう,哀訴,嘆願など,一切の不正な選挙運動をする候補者には,絶対に投票しないこと.
5,一から十まで政府に反対する議員もこまり者だが一から十まで政府に盲従する議員よりはましだ.つねに政府党が勝つ選挙よりも,どちらかといえば,在野党の方がうけのいい選挙の方が,民主政治の趣意にかなっている.
6,“人物よりも政党に入れよ”というのは,真の政党が存在していることを前提とした公式論で,まだ真の政党にまで発達していない現在の日本の政党(現在の日本の政党は,まだ私党徒党の域を脱しきらない未熟な政党で,公党とはいえないことは,次の章で詳しく説明する)を相手としては,無条件で賛成することはできない.しかし立憲政治が結局政党内閣制度によって,運営せられねばならぬのであるから,今の政党を向上させて,真の公党に育てあげる準備のためにも,各政党の政網政策をまじめに研究し,自分の希望するような政治をやる政党はどれか,よく見きわめてから投票すること.
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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年3月30日公開
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