§9.10 官尊民卑を追放せよ/ 尾崎行雄『民主政治読本』
官尊民卑を追放せよ
9,これまでの日本の選挙では,大臣や政務官になると,投票は必ずふえた.ふえればこそ今でも英国製のビスケットとけなされる政務官の椅子を,ちょうどやせ犬が腐った肉を争うようにして奪い合う.これは官尊民卑の奴れい根性をばくろしたものである.また多数党でなければ何もできないから,投票しても損だと考えることも,長いものには巻かれろ式の封建思想のなごりであって,多数少数は有権者が投票してきめるのだという民主政治のいろはさえもわきまえぬもののたわごとである.この官尊民卑と事大主義による投票は,今日以降の選挙では,きれいさっぱり清算したいものである.
川上を濁しておいて,川下の清きを期することはできない.川上の選挙がにごれば,川下の政治もにごるのが当り前である.腐った水にぼうふらがわくように,腐った選挙からは自堕落政治のぼうふらがわく.
日本の民主化の大建築は,正しい選挙の土台の上にでなければたてることはできない.
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政界不可思議問答――(問)衆議院をおとなしくする法ありや.(答)高利貸を雇って政府委員とすべし.(問)政党は何の為めに出来たりや.(答)日本を貧乏にするためなり.(問)選挙に勝を制する方法如何.(答)黄金仏に願かけすべし.(問)田舎者をいけどる法如何.(答)地租軽減を唱うべし.(問)日本一の頓馬は誰か.(答)未来の大臣を抵当に金を貸す男――(明治25年1月9日付『東京日日』)
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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)
本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。
2021年4月1日公開
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