§9.6 リンコルンの潔白/ 尾崎行雄『民主政治読本』

リンコルンの潔白

 1860年5月アメリカの共和党は,時期大統領の候補者を決定するために,シカゴで大会を開いた.多数の候補者がだんだんふるい落されて,最後にシワルドとリンコルンの決戦となった.リンコルンは家にいて大会のなりゆきを心配していた.そこへ共和党の有力な委員から電報で“君が大統領になったら,某州の某々2人を君の内閣に入れてくれることを約束してくれたまえ,もしその約束をしてくれるなら,シワルドと君との決選投票では必ず君を当選させてあげる”といって来た.これをみたリンコルンはその不正の選挙と請托をにくみ,ただちに“御好意ありがとう,しかしお申し込みのごとき約束をすることは,おことわり申す”ときっぱりした返電を出した.それでも,リンコルンはこの決選投票で勝って,共和党の大統領候補に決定した.
 どうすれば選挙権を正しく使って,立派な代議士を選び,絶対に有権者をうら切らない立法府をつくることができるか.つぎにかかげる色々の点を注意してやれば,だいたいまちがいのない選挙をすることができるであろう.


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底本
尾崎行雄『民主政治讀本』(日本評論社、1947年)(国立国会図書館デジタルコレクション:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1438958, 2020年12月24日閲覧)

本文中には「おし」「つんぼ」「文盲」など、今日の人権意識に照らして不適切と思われる語句や表現がありますが、そのままの形で公開します。

2021年3月26日公開

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