[MTT記事和訳]アグレッシブなcold callerをExploitする
はじめに
あなたはとあるポーカートーナメントにやってきました。
エントリーを済ませて着席しプレイを開始してみると、あなたの左隣には見慣れないおじさんが。このおじさんはあなたがopenするとめちゃくちゃcold call=横callしてきます。でも、そんなときに限って開くFlopはハンドと絡まず。ポジションがない時には無理をしない、と決めていたあなたはその度にcheckします。
するとおじさんはそれを見て、必ず安くbetしてきます。Kハイボードだろうが、ペアボードだろうが、コネクトボードだろうが、モノトーンボードだろうが、どんなボードでも必ずbet。
「そんな都合良く毎回ボードと絡むか?」
そう思いながらも、あなたのハンドはことごとくボードと絡みません。気まぐれに2overだけでおじさんのbetにcallしてみても、Turnでさらに都合の悪いカードが落ち、おじさんからbetを畳みかけられ、結局は毎回ポットを献上する羽目に。
「鬱陶しいなぁ。何とかギャフンと言わせたい…」
そんな風に思うことありませんか?僕はあります。
そんな折、GTO Wizard Blogにこんな記事が。
"高頻度stabしてくるcold callerをExploitしよう"
この記事では、Preflopで3betする大胆さはないのに、なぜかPostflopで積極的にbetしてくるタイプのプレイヤーの対策が紹介されています。
僕なりに翻訳・校閲してみたので、ぜひ読んでみて下さい。
導入
SRPにおいて、ポジションを取っているIPとポジションを取られているOOPの関係性は通常、「攻める側」と「守る側」にくっきり分かれる傾向にあります。
一般的に、OOPのcaller(BBなど)はdonk betを打たずに全レンジcheckし、その後IPのraiserは高頻度でCBを打ちます。逆にIPのCB頻度が低くなるようなボードでは、OOPがFlopでdonk betしたり、Turnから打ち出したりすることが多くなります。
しかし、OOP=raiser、IP=cold callerという構図のとき、この傾向は当てはまりません。この場合のFlopの均衡戦略をSolverで解析してみると、両者ともに高頻度checkが推奨されるボードが多く確認できます。
それを知ってか知らずか、多くのプレイヤーはOOP raiserのFlopのcheck=IPのcold callerが広いレンジでbetする絶好の機会、と捉えがちです。
もちろん、OOPのraiserのcheckレンジがアンバランスで過度に弱くなっている場合はその認識は必ずしも間違いではありません。
しかし、IP cold callerが均衡から逸脱して高頻度でbetしすぎると、そこにはExploitされうる隙が生じています。
この記事では、OOP raiserであるあなたがFlopでcheckした際、IP cold callerが過剰にbet*するタイプのプレイヤーだった場合、どのようにExploitすればいいか?を検証・考察していきます。
検証方法
Exploit戦略を構築するツールとして、今回はGTO WizardのCustom SolutionとNode Lock機能を使用します。
検証するのは以下スポットです。
Effective Stack: 40BB
Solution: MTT-ChipEV
Preflop: CO(open) vs BTN(cold call)のSRP
今回の検証では、最終的には多くのスポットで使えそうなヒューリスティック(≒法則性)を見つけたいのですが、そのためにはまずcold callが均衡上高頻度で存在しそうなスポットを題材として選定したいところです。
それを踏まえると、CashよりもMTT-ChipEVの方がcold call頻度が高くなりやすく、中でもCO vs BTNは最も高頻度でcold callが発生するスポットなので、今回の検証対象としてはピッタリです。
Flopのbetサイズは以下4種類で設定します。
[小] pot 33%
[中] 3ストリートのGeometric(3e)
[大] 2ストリートのGeometric(2e)
[特大] all-in
raiseサイズは↑から3eを除いた3種類で設定し、Turn以降も同様設定を引き継ぐものとします。
これで準備が整いました。
ここからは、以下のステップで検証を進めます。
1. 特徴的なFlopをいくつか選定する
↓
2. CO, BTNの均衡戦略を確認する
↓
3. BTNのcheck頻度が均衡の半分になるようNode Lock
↓
4. その際のCOのExploit戦略を確認し、均衡戦略と比較する
特徴的なFlopの選定
まず、COがcheckした後のBTNのcheck頻度が最も高くなるFlopの1つであるA♠ J♠ 3♠を確認します。このボードでBTNのcheck頻度を半分にすると、bet頻度が大幅に増加することとなり、CO側のExploit戦略に劇的でわかりやすいパターンが生じます。
次に、COがcheckした後のBTNのbet頻度が最も高くなるFlopの1つであるJ♠ J♥ 3♠を確認します。このボードでBTNのcheck頻度を半分にした場合、bet頻度の増加幅は先ほどのA♠ J♠ 3♠と比べるとかなり小さくなりますが、この場合のCOのExploit戦略にも同様のパターンが生じるかどうかを確認します。
この2つのFlopはA♠ → J♥と変更するだけで事足りるので、簡単に検証することが可能です。
Flop1: A♠ J♠ 3♠
このFlopは両プレイヤー共に高頻度でcheckすべきボードの一つです。
均衡戦略
COがcheckした場合のBTNのアクションがほぼcheck backとなるにも関わらず、その反応を踏まえてなおCOは約90%の頻度でcheckしています。
COがcheckした後のBTNの均衡戦略は77%頻度でcheckします。残りのわずかな頻度でbetする場合は、ほぼpot63%(3e)のサイズのみを使用します。
これはstatic(静的)なボードでは理にかなった戦略です。IPのBTN側はRiverで自分のハンドの強さを高精度で予測できる可能性が高く、Flop時点でprotection betをする動機もほとんどないため、betする場合はpolarなbetとなり、Riverまでにall-inすることを目指すのです。
このようなpolar betに直面した場合、COはraiseする動機がほとんどないためcall or foldのみとなり、その頻度はほぼ50:50となっています。
前述の通り、BTNが均衡状態でpot32%の安いbetサイズを使用する頻度はほぼありませんが、Solver上はBTNから安betされた場合の均衡的なCOの反応を確認できます。その場合は当然call頻度は増加しますが、それでもraise頻度はほとんどありません。
FlopでのExploit戦略
過度にbetしてしまうcold callerを想定して、BTNのcheck頻度を77%→38%となるようNode Lockしてみましょう。
すると、COのbet頻度は完全に消失します。
ゲームツリーの特定の分岐で相手がミスを犯すと予想される場合、その分岐に相手を導くことでアドバンテージを得ることができるため、この戦略は理にかなっています。均衡上はbetできるようなvalueのあるハンドを持っている場合でも、betの代わりにx/rすることで、BTNの不適切な頻度のbetから利益を獲得できます。
COのcheckに対するBTNの戦略は、Node Lockでcheck頻度を無理矢理減らした結果、均衡戦略ではcheckしていたハンド群にもbet頻度が追加されています。興味深いのはbetサイズで、Node Lock前と同様にpot32%よりもpot63%のbetのほうがかなり多くなっています。
このとき、BTNのpot63%のbetに対するCOの反応は大きく変化します。fold頻度が大幅に減少し、かなりのraise頻度が出現します。これはBTNのbetレンジが弱くなったことと、COのcheckレンジが強くなったことの両方が作用した結果です。均衡状態ではFlopでCOのbetレンジに含まれる強ハンドが、Node Lock後はcheckレンジに含まれています。
BTNのpot32% betに直面した際のCOの反応はさらにアグレッシブで、fold頻度は非常に少なくなり、大きくpolarなraiseも見られるようになります。
BTNが均衡状態の倍以上の頻度でbetするようNode Lockした場合のFlopでのCOのExploit戦略をまとめると以下の通りです。
全レンジcheckしBTNがミスする機会を与える。
BTNのbetに対してはタフに反応し、fold頻度をMDFを以下にする。
大きくpolarなbetにもraiseレンジをつくる。
小さくlinearなbetにはより積極的にraiseする。
しかし、上記はBTNがbetしてきた場合のExploit戦略に過ぎません。BTNの高頻度bet戦略は、BTNのcheckレンジにも影響を与えており、Turnでそのcheckレンジはさらに脆弱になります。COがそれをどのようにExploitするか見てみましょう。
TurnでのExploit戦略
定義上、staticなFlopの後に落ちるTurnのほとんどはラグと言えます。Flopがxxで回った後にTurnで6♦が落ちた時のCOの戦略を、Node Lock前後で比較してみましょう。
図の左側がNode Lock前、右側がNode Lock後の戦略です。
ここでの大きな差分はoverbetの増加で、9%→19.9%となっています。FlopでCOのcheck後にBTNから過剰にbetしてしまうプレイヤーがcheckした場合、そのcheckレンジに強ハンドが残っている可能性は低く、COにとってはTurnでoverbetする絶好の標的になっています。
Turnを6♦→6♠に変更した場合でも、COのExploit戦略は非常に似たものになります。
Flop xx後のCOのアグレッション増加傾向が同様に確認でき、主にoverbetの増加という形でそれが現れています。
Flop2: J♠ J♥ 3♠
このボードはBTNのbet頻度がかなり高いボードの一つです。
均衡戦略
このFlopでもCOのcheck頻度は非常に高くなっています。
COのcheck後、BTNは50%以上の頻度でbetします。
このFlopは非常にdynamic(動的)なボードなので、均衡上は小さなサイズでの薄いvalue bet/protection betがはっきりと推奨されています。
BTNからの小さくlinearなbetに直面すると、COはよりアグレッシブな戦略を取ります。ただし、COのraiseサイズも小さなものが採用されます。なぜならCO側もまたdynamicなボードでは薄いvalueの獲得を目指すからです。
FlopでのExploit戦略
BTNのcheck頻度を47%→22%となるようにNode Lockすると、このボードでもCOのbet頻度は完全に消滅して全レンジでcheckし、BTNがミスする機会をできるだけ多く与えようとします。
BTNは依然としてpot32% betのみを使用し、COもpot33% raiseのみで反応します。
興味深いことに、COはNode Lock前の均衡戦略とほぼ同じ頻度でfoldします。主な違いは、Node Lock前はcallとなっていたハンドの多くがNode Lock後にはraiseとなっています。
TurnでのExploit戦略
Flopがxxで回った場合もCOのアグレッションが向上しbet頻度は増加しますが、Node LockによるFlopでのBTNのcheck頻度の減少幅がそこまで劇的ではないため、TurnでのCOのbet頻度の増加幅は限定的です。
結論
OOP raiserのcheckの後、IP cold callerが過剰な頻度でbetすると予想される場合にOOP raiserが取るべきExploit戦略は、ボードに関係なく以下のような共通点があります。
IPのミスを誘発するため全レンジでcheckする。
Flop x → IPからbetされた場合
積極的にx/rし、特に小さなbetに対して / dynamicなボードで、その傾向を強める。
Flop x → IPからbetされなかった場合
IPのレンジが均衡状態よりも脆弱であると見積り、Turnではoverbetを含め積極的にbetすることを検討する。
上記を踏まえ、今回確認した異なる2種類(static/dynamic)のFlopでのCOのExploit戦略に顕著な相違点が生じているのは、BTNのbetに対する反応です。
これは「BTNが過剰にbetするのはなぜ誤りなのか?」という根本的な問題に起因しています。
IP cold callerのいるSRPにおいて、IP側は著しいEQアドバンテージを持っているからbetしているわけではありません。OOPとIPのPreflopレンジは同程度に強いので、一部のFlopはIPの方が有利かもしれませんが、例えばvsBB callerで高頻度betが正当化されるようなEQの偏りが生じるFlopは存在しません。
つまりIPは単にポジションの優位性からbetしているのです。これにより、レンジEQが同程度であっても、IPはOOPより少し気楽にポットを大きくすることができます。
staticなボードでは、高頻度でbetしようとすると非常に弱いハンドでもbetする必要が生じます。定義上、staticなFlopにおいて弱いハンドでbetした後、Turn以降で逆転を狙うのは困難です。
この場合、COは広くcallすることでBTNの広すぎるbetをExploitします。BTNのbetレンジの下限にはそれほどEQがないため、x/rしてそういったハンドからEQを奪うことに執着する必要はありません。そのため、COは多くの強ハンドをcallレンジに残すことで、レンジ内の弱いハンドを守ることができます。
dynamicなボードでは、BTNのレンジの弱いハンドもそこそこのEQを持っています。こういったハンドでBTNがbetしてしまうと、COにcallではなくraiseされることでそのEQを放棄させられてしまう危険性が生じます。
このことから、COはNuts級のハンドも含めてraiseする動機が高まります。しかし、多くの強ハンドをraiseレンジに割り振ってしまうと、callレンジを十分に守ることができず、Turn以降のbetに対してとても脆弱になってしまいます。その結果、均衡状態と比較してraise頻度が大幅に増加しても、fold頻度は均衡状態とほぼ同程度となるのです。
以上、Wizard記事の翻訳でした。
概ね原文の構成を引き継いでいますが、一部内容の文意が通るように意訳したり文章の順番を並び替えています。
内容としては興味深い部分が多かったのですが、最後に補足的な考察を追加しておきます。
追加考察: static / dynamic とは?
今回の記事では「static(静的)」「dynamic(動的)」という単語が何度も出てきました。
辞書的な意味は以下の通りです。
これは他のWizard blog記事にも出てくる頻出単語なので、今後のためにも個人的な解釈を追記しておきます。
static:静的なボード
Flop時点で決定される各ハンドのEQ(≒役の強さ)がTurn以降で大きく変化しにくいボード。
アウツの多いドローハンドが少ない= Nuts級のhandが捲られない
monotone
rainbow
オーバーカードが少ない=Top pair, 2nd pairが捲られない
Highest card → A
Middle card → K~9
Lowest card → 5~2
今回の記事を参考に、MTT-ChipEVのCOvsBTNでのCO → BTNのFlop集合分析を確認し、check頻度の多い順にボードを並べてみます。
これを見ると、以下のようなボードが特にcheck頻度が多く、staticなボードと言えそうです。
A-hi monotone
A-K-Low rainbow
確かに、monotoneボードで色無しのTop hitを持っている場合、パッツモflushを捲るためにはランナーランナーフルハウスを作るしかありません。
自分がQXsを持った状態でA-K-Low rainbowボードが開いた場合は、A hitやK hitを捲るにはランナーランナー2p, trips, straight, flushを引く必要があります。
このように、レンジ内の多くがBackdoorの薄い確率でしか捲れない弱ハンドに成り下がる=EQが著しく低下して挽回が困難になるボードが、staticなボードと言えるでしょう。
dynamic:動的なボード
Flop時点での各ハンドのEQがTurn以降で大きく変化するボード。
アウツの多いドローハンドが多い= Nuts級のhandが捲られやすい
twotone
Connected, OESD possible
オーバーカードが多い=Top pair, 2nd pairが捲られやすい
Highest card → A以外
dynamicなボードは先ほどのstaticなボードの逆、と考えれば良さそうですが、上記が当てはまるボードはかなり種類が多く、具体的に「このボード!」と特定するのは難しそうなのでここまでで止めておきます。
おわりに
今回は僕が興味を持ったWizard blogの記事を和訳してみました。
僕自身あまり英語が得意ではなく、Wizard blogを英語原文で読むのに苦労する部分があり、かといって現状の自動翻訳機能やAIでの翻訳だと若干表現に違和感があって読みにくいなと感じたので、後から自分が読み返す用にガッツリ校閲してみました。自分用にとどめてもいいのですが、せっかくなので公開してみました。
万が一Wizard側にこの形式でダメ出しされた場合は公開停止するかもしれませんが、特に問題なければ他にも興味の湧いた記事を気まぐれにアップしてみようかと思います。(おそらくMTTの記事中心になると思います)
そしてこれまで特に公表していなかったのですが、かなり前にGTO Wizardのアンバサダーになっていました。
https://gtowizard.com/p/gakubtn
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