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ルールメイキングで社会を幸せにしたい~2021年の振り返り①~
こんばんは、Gakkyです。
今年もあと少しで終わりということで、2021年の振り返りを行っていこうと思います!
※ちなみに去年の振り返りと目標はこんな感じでした。
今年はロースクール最終学年ということもあり、将来について考える機会も多く、その中で徐々に自分のやりたいことも具体化されていきました。
そこで、2回に分けて2021年の振り返りを行い、今回は自分の興味分野であるルールメイキングについて学んだ・考えたことをまとめてみたいと思います。
そして明日、僕個人の1年間について振り返りをし、2022年の目標を立てる予定です。
法律の知識がない人も読める内容にしているので、是非読んでみてください!
1 なぜ今ルールメイキングが注目されているのか?
さて、そもそもルールメイキングとはなにか?ということですが、ざっくり言うと、法律だけでなくルール一般を民間側も積極的に作っていこう!というものです。
最近このルールメイキングという言葉が少しずつ注目されているように感じますが、これにはどういった背景があるのでしょうか。
ここで、身近なルールとして馴染みのある校則について考えてみましょう。
僕の中学校もそうでしたが、校則の中に「ツーブロックの禁止」というのがあるとします。
こういったルールは、ツーブロックという髪型がかなり特異なものであり、ツーブロックと非行が結びついているというような状況であれば、ある程度合理性があるかもしれません(そんな時代があったのか僕にはわかりませんが)。
しかし、髪型を含め多様性を強調する時代になるにつれて、画一的な髪型を要請するルールは不適切なものとなってしまいました。その結果、ブラック校則というような言葉が生まれ、ツーブロックだけでなく様々な校則が問題視されてきたと思います。
このように、ルールは前提が変わればその合理性の有無も変動するわけです。
そして、現代は科学技術の進歩が速く、ルールの合理性を支える前提が変化する速度もどんどん速くなっています。
その結果、「法の遅れ」が度々指摘され、ルールの不合理性が目立つようになっていきます。
このような不合理なルールを解消するためにも、官公庁だけでなく民間もルール作りに関わり、スピーディーにルール作りをしていく必要があるのではないか、そういった問題意識からルールメイキングと言う言葉が注目されるようになっているわけです。
2 法はルールメイクの適切な手段か?
ルールの中には、法だけでなく、会社の中のルールであったり、「部屋に入るときはノックをする」といったマナーといった、様々なものが存在します。
その中で、上で述べたスピーディーなルールメイキングをするにあたって、法は適切な手段と言えるのでしょうか?
ここで、どういったルールが適切なのか?ということを把握する上で、適切な情報を有しているのは必ず民間側であると言えます。
例えば、Amazonでは、私たちの商品の閲覧履歴や購入履歴から、私たちが必要としているであろう商品を把握し、個々人に合わせた広告を行うという、行動マーケティング広告が行われています。
このような行動マーケティング広告は、Amazon側や商品の売り手だけでなく、買い手にとっても自分の欲しい商品が見つかりやすくなるという利益があると言えます。
一方で、行動マーケティング広告はプライバシーの観点から問題があります。すなわち、購入履歴や閲覧履歴といったものが網羅的に取得されることにより、個々人の性向が把握されてプライバシーが侵害される危険性があります。
さらに、こういった行動マーケティング広告がされることにより、自らの趣向がAmazonによって限定されていってしまう(自分の興味のあるものしか見えなくなる)といった問題もあります。
そこで、何らかのルール作りをして、上記の問題点を解決しつつ、欲しい物を見つかりやすくして取引を促進するという状態を作り出したいところです。
しかし、官公庁の側が行動マーケティング広告について規制をしようとすると、次のような問題が生じてしまいます。
まず、行動マーケティング広告の技術的背景を知っているのは企業側なので、その情報について官公庁は取得する必要があります。また、行動マーケティング広告が取引の円滑化にどの程度貢献しているのかについても情報取得をする必要があります。
これらの情報を踏まえた上で法律を作成し、国会にこれを提出し、可決されて初めてルールが生まれるという形で長いプロセスを経ることになるわけです。
しかし、行動マーケティング広告を支える技術的背景はどんどん変化していくので、ルールができた頃には既に時代遅れということになりかねません。
このように、従来のような法規制によってルール作りをしようとすると、民間側から情報をくみ上げるというプロセスが必要になり、さらに法律そのものの制定が大変なので、必然的に法は時代遅れになってしまうと言えます。
3 法の限界を克服する手段
こういった法の時代遅れ問題を解決するためには、積極的に民間側がルール作りに関わる必要があります。
そこで、民間側がルール作りの主体となるためにどういった方法がありうるかという点について、ここでは①柔軟な法解釈、②民間側が法を変える制度の創設、③共同規制、④ロビイング、という手段を検討してみたいと思います。
①柔軟な法解釈
まず、①の柔軟な法解釈についてですが、これ自体はこれまでも行われてきた方法であると言えます。
法律を勉強していない方に向けて、法解釈について軽く説明を加えておきます。
例えば、強盗罪について、「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪と」するとされています(刑法236条1項)。
ここで、「暴行又は脅迫」といっても様々な程度のものがあり、どこまでがこれに含まれるのか?といったことは法文には書いていません。
そこで、強盗罪は人を反抗不能の状態にして財物を奪い取ることに特徴があることから、「暴行又は脅迫」も「社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧するに足る暴行又は脅迫」でなければならないと考えられています。
このように、法律が定められていても実際には解釈の余地があり、その意味で法には未だ定まっていない余白部分が存在すると言えます。
そこで、法の遅れに対応するためにも、新たな事例が登場したときには、法律の文言にとらわれすぎず、実質的な考慮をしながら柔軟な解釈をすることが方法として考えられます。
もっとも、法解釈の最終権限は裁判所にある(正しい解釈を決定するのは裁判所である)のですが、裁判所がそのような政策形成の機関として適切かという点についてはかなり怪しいところがあります。
すなわち、裁判所は限られた時間と情報の中で判決を下すことになるので、その判断には偏りがある可能性が高く、制度設計の主体としては適切とは言い難いわけです。
したがって、法解釈による対応にもやや問題があると言えます。
②民間側から法を変える制度を創設
次に、時代遅れな法律があったときに、民間側から法律を変えるために働きかけをする制度を創設することが考えられます。
実際そのような制度は存在しており、その中に規制のサンドボックス制度というものが存在します。
この制度はざっくり言うと、新たなビジネスを始めるにあたって邪魔となる法律があった場合に、実証実験を実施して特に問題が生じないことが判明したときは、実証実験の結果を規制の見直しに結びつけるという制度です。
このように、時代に適合しないルールか否かを判断するための情報を持っている民間側が、自ら実証実験をして規制の不適合性を証明するというのは、法の遅れに対応するために適切な方法のように思われます。
もっとも、新たな事業を開始しようとするベンチャー企業等が、このような実証実験を行うというのはコストのかかることであり、中々現状の制度でこれを利用するのは困難な点もあるように思われるところです(実情は実務家の先生方の方が詳しいと思います)。
また、変更したルールは全員に適用されることになることから、変更した者だけでなく他の事業者にとっても有利に作用することとなります。
制度の利用者には先行者利益が期待できるのでこの点は問題とならないかもしれませんが、全体の利益のために特定の企業が自ら進んで負担を負おうとするのかどうかといった点も気になります。
③共同規制
②はあくまで規制の作成主体は官公庁側でしたが、そもそもルール作りの主体を民間に移してしまうということが考えられます。
共同規制とは、ざっくり言うと、ルール作りに民間と政府が共に関わっていくというものです。
例えば、法律では達成すべき目的だけを定めておいて、その目的達成の手段をどのようにするかは各企業に一任するということが考えられます。
このように手段自体は各企業に任せてしまうことによって、技術の変化のたびに政府が情報を集めて規制を作りなおすことは必要なくなります。
一方で、政府が関与することによって、目的達成ができていない場合には罰則が与えられるというような形で、企業にもルール作りをするインセンティブを与えることができます。
このように、企業をもルールの作り手として認識し、政府は各企業が作るルールが適切なものとなるようにガバナンスをするという仕組みをとることで、法の遅れを根本的に解決することが期待されます。
④ロビイング
最後に、これも今までにも存在する手段かつ今後も必要な手段だと考えられますが、政府に対して直接交渉をするということも考えられます。
4 法の在り方とともに弁護士の役割は変わる?
さて、このように法の遅れに対応するため民間側から積極的にルール作りを行うことが求められると、弁護士にも新たな役割が求められるように思われます。
弁護士はビジネスの障害となる法規制の有無を尋ねられる立場にあるため、時代遅れとなった規制の有無について一番最初に把握することができるとも言えます。
そのため、弁護士がルールメイキングのスタート地点に立っていると言え、弁護士が民間主体のルール作りを主導していく必要性があると言えます。
そこで、弁護士としては障害となる法規制を発見したときには、①解釈でなんとかする余地はないか?、②法規制を変える算段が立たないか?、といったことまで含めて検討をする必要があると言えます。
このとき、①②のどちらの手段をとるにしても、なぜこのようなルールが存在するのか?というルールの存在理由について深い理解が必要となり、さらに法規制を変えようとすると必ず反対者がでてくることから、そこをどのように説得していくのか?という視点も必要となります。
さらに、③共同規制的な法規制がなされる際には、民間側のルール作りを担っていくことが考えられます。
その際には、行政が達成してほしいゴールを適切に理解し、それを民間側に翻訳していく行政と民間のつなぎ目のような役割が要求されるように思います。また、実際に民間側でどのようなルールにすれば目的達成ができるのか?という点についてもアドバイスすることが考えられます。
こういったルール作りを担う場合には、ただ単に法律を理解しているだけではなく、どういった制度が円滑に回るのか?という政策形成のスキルも求められると思われます。
5 ルールメイキングで社会を幸せにしたい
かなり長くなったのでここまでの話をまとめておきます。
①時代の変化の速度が速くなり、スピーディーなルール作りが求められる
②適切なルールを作るための情報は民間側が持っており、情報のくみ上げに時間がかかる上に、法律制定のプロセス自体に時間がかかることから、法が時代遅れになるのは必然的である。
③このような法の限界を克服するための手段として、柔軟な法解釈、法を変える制度の導入、共同規制、ロビイング、といったものが考えられる。
④③のような手段が浸透することで、弁護士としてもルール作りを視野に入れたアドバイス、さらにルール作りそのものが求められるようになる。
ルール作りの主体が民間に移ることにより、〈国ー民間〉という構図だったのが、政府から民間企業含めて全て「公」という状態になります。
そして、民間主体のルール作りをするためには、官公庁だけでなく民間側にルール作りの担い手が必要です。
民間側のルール作りの担い手となり、時代に適合し円滑にワークするルールを素早く生み出し、日本を発展させ社会を幸せにする、これが僕の今やりたいことです。
6 最後に
かなり長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!
まだまだルールメイキングはその手法が確立されていない分野だと思うので、弁護士になってどんどん自分のやれることを見つけていきたいと思っています。
さて、最後に僕がルールメイキングを勉強した手段を挙げておこうと思います。
・ルールメイキングコミュニティ
・文献
「情報社会と共同規制」生貝直人
「ルールメイキングの戦略と実務」法律事務所ZeLo
「ルールメイキング ナイトタイムエコノミーで実践した社会を変える方法論」齋藤貴弘
「GOVERNANCE INNOVATION Ver.2: アジャイル・ガバナンスのデザインと実装に向けて」経済産業省
・大学の授業
特に稲谷龍彦先生のゼミで勉強
・インターン、エクスターンシップ
ルールメイキングを扱っている先生にお話を伺う
それでは、とりあえず1年の振り返り第1弾はここまでにしようと思います!
みなさんよいお年を!!
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