APEX ALGS GHS引き抜きで大揉め?契約のプロ視点から
自分ではAPEXをやらなくなりましたが、ちょこちょこチーキーの配信なんかを見てます。LEO様がプレに到達したときなんかもよく見てて、それで1tappyを応援してたのですが、今回移籍やらなんやらで揉め揉めなのでちょっと個人の感想を落とそうかなと思った次第です。
以下の3部に分けてお話させて頂きます。
1.簡単な経緯のおはなし
2.引き抜き?に関してのルール整理
3.最後に私見(まとめ)
1.簡単な経緯の流れ
APEXではALGSという世界大会があり、年に2回、世界のどこかでプレイオフという世界大会が開催されます。プレイオフ2の後にチャンピオンシップという年間総決算みたいな大会があって1つのシーズンです。
Year4となる2024年は、5月の頭にプレイオフ1があり、6月にはプレイオフ2に向けた地区予選が行われるというタイトなスケジュールの為、世界大会出場組については、メンバー入れ替えは限定的なのではないかと思われていました。
ところがプレイオフ1の決勝にも残ったKNというチームが、M選手脱退からのチーム解散、というのが本件のはじまり?です。本件では、あとの2人がKNに残らず謎解散したのが、火種だと思わなくもないですが。
プレイオフ2地区予選本番の1週間前、やっと、1選手、α選手に加え、P選手が加わり、GHSというチームで地区予選を戦うことが発表されました。しかし、P選手のブランクは想像以上に大きかったのか、大会3日前というタイミングで、今度はA選手がGHSに加わり4人体勢という発表があったのです。P選手は抜けていないようでしたが、スクリムにも参加させてもらえない、という状況の様で、ファンからはどうなってんだ?という疑問が沸き上がり、焚火程度には燃えていた気がします。
2.引き抜き?に関してのルール整理
1選手の配信では、「引き抜き~」というワードで批判が飛び交っていましたが、法律・契約のプロ視点から見ますと結構謎です。
というのもe-sportsにおける所属契約は有期契約のはずで、しかも契約終了後の移籍に関する事前接触は、原則として制限されないからです。一般の方が、転職先を決めてから、勤め先に辞表を出しても違法になることはまずないのと同様です。新卒くんが複数の内定をもらっても違法ではありませんしね。少なくとも、法令で禁止されてるような話ではありません。
で、次に、統括団体等が事前交渉を禁じていることが考えられますが、APEX(どころかe-sports全般)は、その様な規定を有する統括団体は、ほぼ無いと思います。この辺は、NPBやJリーグといったプロスポーツ団体での話とは異なる状況かと思います。
従って、所属選手に対して、所属期間中の移籍交渉を禁じたい場合、チームと選手間の契約において、他のチームとの事前交渉を禁ずる旨の契約を巻いておかなければなりません。しかも、その場合は、所属チームと選手の間でのみ拘束力を有しますので、他のチーム等は拘束されません。
他のチームが有効な契約が存在する事を知りつつ、期間満了を待たずに契約を破棄させるように仕向けたり、事前接触の禁止を知りながら接触を続けた場合には、共同不法行為等が成立しえますが、契約書を外部に表示できる工夫をしなければならないので、かなりハードルは高いでしょう。(個人的には、こうすれば良いかなという案くらいは浮かびますが。)
一方、移籍する選手は、元チームとの契約で、事前交渉が禁じられる場合、他チームからの勧誘を受けた際に「元のチームとの契約で、〇月〇日までは交渉できない」等の返答を誠実に行い、勧誘を断らなければならない義務は生じます。実際上は、責任は移籍する選手が負うのが大前提で、選手が移籍先にきちんと説明するかどうかにかかっています。
反対に、誘う側は基本的に、なんらの責任も負わないのが原則で、声をかけるのも自由なのです。引き抜きすんなといった意見は、法律・契約のプロである私から見てちょっと的外れだと思います。
不倫関係に似てますかね。婚姻の事実を知らなければ、交際相手は違法ではありません。ただ、婚姻の事実を認識しながら付き合うと、共同不法行為が成立しえます。事前交渉の禁止という特約事項は、婚姻関係よりも認識可能性が低いため、誘う側の責任は事実上ないに等しいでしょう。もっとも、本件では、チーム間において状況確認等の接触はあったようですが。
ちなみに上記の理屈は「契約中の事前接触禁止を契約で決めている」場合の話であって、そうでなければ原則的に誰も拘束する事は出来ません。契約期間満了後の別の契約は、進行中の契約に悪影響を与える類の者でなければなんら咎められるいわれが無いからです。
最後に私見
本件では、P選手はプロ契約はなく、アマチュア同士の口約束で一緒にやろうと言っていた程度かと推測されますし、A選手については、元チームのオーナーがLFT(Looking for Team)を許可していたと言っていますので、問題にしようがありません。
3人の相性が重要な競技であるため、選手間で話が先に進む事が一般化しているようですが、20歳前後の選手たちが、上記の理屈を正しく理解することはちょっと期待できず、配信等で適切な説明がなされない(そもそも何を話すべきか、話すべきではないか把握していない)事が散見されます。
本来、所属チームがフォローし監督する立場だと思いますが、今のところ、残念な感じになっちゃってますね。というのが本職法律関係オジサンの意見です。以上!