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ガラスの家が好きな理由

■リナ・ボ・バルディの家

ページのトップの写真は、2回にわたって写真で紹介してきた私のすきな建築である「ガラスの家/Casa de vidro」で設計者リナ・ボ・バルディの自邸の床のガラスモザイクタイルです。とても美しいです。

リナ・ボ・バルディはサンパウロ美術館(1968竣工)の設計者としても有名ですが、その前にこの住宅は作られました。ローマ出身のリナは32歳になった1946年にピエトロと結婚し、ブラジルに移住します。夫となったピエトロ・マリア・バルディは美術商・美術評論家で、移住の際に膨大な自分の本と美術コレクションを運んだそうです。そのコレクションでリオデジャネイロで開催した「イタリア古代絵画展」は行われました。ピエトロは展覧会をきっかけにサンパウロ美術館の共同設立に誘われます。リナは1957年からサンパウロ美術館の設計にかかわるようになります。この家をつくった1951年にブラジル国籍を取得しているのでブラジル人建築家として扱われます。(リナ・ボ・バルディについてはバルディ研究所のサイトが詳しいです。)

■ここまで2回でみた『ガラスの家』の建築的特徴は

  • サンパウロ郊外の丘の上に建っているガラスと鉄とコンクリートのモダニズムの住宅。

  • 細い柱でメインフロアが持ち上げてピロティをつくり、地形に合わせて建物を配置しすることで、見晴らしを確保すると同時に自然を保全している。

  • 内部空間は透明性が高くて内と外がつながって自然の中にいるかのように感じる

でした。
↓ この2つの記事で写真を紹介しています。

さてようやく内部を紹介します。

■建築の内部空間で人は…

建築の内部空間で人は過ごす時間が長く、空間の中で見えるものに手で触れたりじっくり観察したりしやすいため、モノの質感やモノへの「作り手のかかわり度合い」が見えてきてしまいます。
手をかけて作ったものなのか、時間をかけて作ったものなのか、頭をひねって作ったものなのか…。モノができるまでの背景を感じとってしまいます。
ですから室内には人の手が感じられる、丁寧につくられたものを置きたくなりますし、それがあるとホッとします。

この『ガラスの家』では、外観は白い平滑な塊りといった印象ですが、室内は丁寧な「手仕事」による内装仕上げや家具に溢れています。モザイクタイルの仕上げが床や壁や家具とあちこちにあります。木製の重厚な家具やリナ自身がデザインした椅子など新しいものもあります。
そしてさすがイタリアから膨大なコレクションを運んできた美術商(夫)の家なので絵画や彫刻も飾られています。でもその間にリナ自身が興味をもっていたという土着の文化のもの、ブラジルの木彫りの動物などもあふれていました。

Dinning area in the glass house in Sao paulo. Photo by Sayaka Kono
大理石のダイニングテーブルが目を引くこの場所から、右奥(リビング)のリナがデザインした椅子があるエリアに続き、そして左奥(書斎)へと1つの空間でつながっている。部屋の平面形は「コ」の字の形。カーテンで手前の食堂エリアは仕切れるようになっている。(Photo by Sayaka Kono)
1つ前の写真の右奥部分にあたるリビングエリアから、書斎スペース(突き当り)を見る。床のモザイクタイルもテーブル天板のモザイクタイルも手が込んでいる。手前の金色の球はリナのデザインの椅子の一部。(Photo by Sayaka Kono)
外から階段をのぼった突き当りの外壁に埋め込まれたモザイクタイルの作品は、ジョルジュ・デ・キリコの《コンポジション》を表している。この左手に玄関扉がある。(Photo by Sayaka Kono)

■理由は「土地の活かし方+シンプルな形+ヨーロッパ美術文化」

3回にわけて写真を紹介してきて自分自身でもようやく「いちばん好きな建築」である理由が分かってきました。

  1. 土地の特性を活かしている ⇒ 丘という高低差を利用した空間構成(ピロティと2階が接地階)/ブラジルの熱帯雨林の樹木に覆われるようにしている⇒ 無理がなく自然に溶け込めているのが心地よい

  2. シンプルな形で複雑な距離感をつくっている⇒ 「コ」の字型の平面形のワンルームの空間に玄関・書斎・居間・食堂を配置している。それがガラスで透けて重なって内と外が見える⇒ 空間にいる他の人との距離感が近かったり遠かったり複雑に感じて面白い/外との境界が弱くて自然に囲まれている感じがする

  3. ヨーロッパ美術文化⇒ モザイクタイルによる装飾表現を床・壁・家具に使っていて、石やガラスタイルを古くから使ってきたイタリアの伝統がふんだんに入っている⇒ 伝統技術から美しさと人の手の安心感が感じられる

こういった理由に行きつきました。
そしてこの建築が存在できるのはブラジルだからだと思います。
豊かな自然があって、当時はオスカー・ニーマイヤーなどモダニズム建築でいろいろな表現をする建築家がいて、そこに移民たちが自国の文化の美意識を持ち込んでくる。それが融合してできたのが、この『ガラスの家/Casa de Vidro』だと思います。

今回は考えながら書いて、自分自身の理解が深まるいい機会でした。
質問してくれたハタチの女子に感謝です。


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