![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/26398450/rectangle_large_type_2_062b9f1e10b28671f74956418b62f507.png?width=1200)
至福の25分間はGoûter(おやつ)。
イチコはクレープをつくった。
本当は少しめんどうくさかったけれど、子どもたちが「食べたーい!」と、数日前に言っていたから。作るとしたら今日だけど、マキシムは会議続きでクレープを作る時間はなさそうだし、じゃあ、イチコがやるか、ってなもんで、午後4時のGoûter(おやつ)に合わせて、予告なきクレープ。日本では『おやつの3時』だが、フランスでは『おやつの4時』なのだ。
そのおやつ時間のすこし前、庭で妹リリーと遊んでいたお姉ちゃんエマが、ふたり分のGoûter(おやつ)を取りに家の中に戻ってきた。と、同時に、イチコがクレープをつくっていることに気づいて、「わー!Bon surprise !!(びっくり!)Merci !!!」と、大喜び。エマは、まだお庭にいるリリーもおどろかせてやろうと、クレープをきれいにお皿にセッティングして、すてきなおやつセットをつくります。
と、何にも言わないのに、クレープのおいしいにおいに釣られて、会議の合間にすかさず、マキシムも仕事部屋から降りてきた。
「あれ、今日はもう会議終わったの?」とたずねると、「うん。でもあと25分後にまた別のがある」らしい。「あーじゃあ、クレープをみんなでゆっくり食べる時間、ないね」と、いじわるい顔で言ってみたら、できあがったばかりのクレープを見てマキシムは、もんのすごく、うれしそうな顔をした。
「食べるよ。食べたいっ!」
おっけー。では、Nutellaと砂糖、ひとり2枚のクレープに2つの甘い味を添えて、みんなでお庭で食べましょう。
「リリー!Goûter(おやつ)ですよー!」
「うん!ん?それなに??…あ!クレープー!!!」
「…んあぁぁ…おいしい」
至福の顔でクレープをほおばるマキシムとその娘たち。みんな、おんなじ顔をしている。わざわざ作るのはめんどうくさかったけれど、こんなしがないクレープ de イチコで、こんな顔になるんだったら、(まあ、たまにはこんなサプライズもいいな)と、イチコは思った。