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正直にいきる。
イチコは、やさしくない。
イチコの仕事道具で遊びたいとお願いされたら、いくら子どもたちの目がキラキラしていても煩わしく思うし、子どもの分も含めた服の洗濯がしょっちゅう続くと(なんでイチコが)と思う。ごはんの支度も。
イチコはやさしくない。
やっときた週末にゆっくりしようと思ったら、子どもたちが友達を家に呼びたいと言い出し、マキシムとふたりでゆっくり過ごしたいと思っても毎週末は叶わない。エマが鼻を噛んだティッシュがリビング中に落ちている。少し着ただけの服が椅子やソファ、階段にほうられている。片付けても片付けても、1週間後には元のもくあみ、おもちゃやなんやでまた溢れかえる。(こんなもの捨ててしまいたい)と思っても、イチコの独断ではなにもできないのが腹だたしい。
イチコは全然やさしくない。
マキシムと子どもたち、とその母親が、かたちは違えど紛れもなくひとつの家族であること。それを垣間見るたび、いまだに胸がキュッとなって(ひとりになりたいと)思う。
イチコは、これっぽちもやさしくない。
たまに出現するみぞおちの奥の黒い塊のせいで、マキシムの、イチコが好きの気持ちに対して、素直に応えられないことがある。そのくせ、大事なことばを後回しにしながら、思ったことはすぐ口にする。
イチコは…
やさしくないけれど、こんなやさしくないイチコも全部抱きしめてくれるひとは、ひとりしかいないと思うのです。みぞおちの黒い塊も、顔をあわせてことばをかわしていると、気づかないうちにどこかへ飛んでいってしまう。たまに見せるなんちゃってマジックのおかげでリリーが信じてやまないように、きみは本当に凄腕マジシャンかなにかなのかい、マキシムよ。
エマとリリーが満面の笑顔でイチコにかけよってきた。変わりものと少なからず言われてきたイチコ。本当にそうだとしたら、それと一緒にいられるきみたち親子も、相当の変わりものなんでないかい?正直に言う。イチコは変わりものが好きだと思う。