街道をゆく〜松壽路〜
音と光の最中に見る逢瀬は言葉を用いない。それは私の衝動に徹底的に対峙する様相を呈し、空間として確かに佇んでいる。その一瞬間を永遠に保とうとする愚行に人は人を見出す。
2023年7年15日の話である。
盛り場が持つ特有のぎこちなさに水を差された男たちはまず林森北路に向かう。仕切り直すにはもう遅すぎるぐらいだが、まるで同志との再開を思わす旦那方との出会いは一気にその風向きを変えたようだった。
彼らは香港に商社と金融の仕事を持ち、目立たない身なりとは裏腹に相当に余裕があるらしい。この時間にも空いているバーを探すが生憎今晩はこの辺り我々を歓迎していない様子である。しかし、最後の台湾の夜であれば付き合わないわけにはいかない。異国で出会う同郷との関係において、不思議と時間は必要ないらしい。同じ日の再会を誓いこの場を後にした。
1人は日本語と英語に加えて広東語と中国語も流暢らしい。彼が黒服に耳打ちをするとソファー席に通される。慣れた手付きでサインをしているらしい。それに書かれた金額を見て、冷や汗が出る。しかし心配するなと言葉に出さずとも伝わるように柔らかな笑顔を投げかけてくる。目の奥に見る経験の深さには、どうにも敵わない。せめて今日だけは兵隊としての務めを果たさねばならない。
グラス片手に手を添える。ぎこちない笑顔は相手が訝るには十分だが、向こうを指させば、その理由を理解しない者はここにはいない。徐々にその数は増えていき、あっという間に空き瓶が転がっていく。
どうやら私たちも既に夢見心地らしい。彼らは軽い会釈にまたあの笑顔を向けてきた。重く軽い足取りでエレベーターに乗り込んだが最後、あっという間に夏の太陽が私に降り注いでいた。
相も変わらずこの国の日差しは意味を持っているような気がしてならない。首元がどうにもむず痒い。これが愚行の代償の序章であったことを、この男はまだ知らない。
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