フランス語ネイティブの気の使い方 その1:vous savez

こんにちは、井上です。

今回は、ブルデューではなく、フランス語ネイティブの気の使い方について説明していきたいと思います。なんでそんな話をするかと言うと、フランス語ネイティブがフランス語を話す際にどう気を使っているかというのは、フランス言語学でよく出てくるトピックなのに、日本の市販の教材などでは意識されておらず、そのせいでフランス語学習者が損をしているのではないかと思うことがよくあるからです。

フランス人も気を使っている

で、突然ですが、僕はフランス言語学、特にその中でもモダリティ、具体的には接続法と直説法の使い分けを研究しています。なので、フランス語母語話者の書いた論文をよく読むんですが(日本人の書いた論文も読みます)、そこでよく思うのがフランス語母語話者の書いた論文では「どう気を使っているか」がよくトピックとして取り上げられるなということです。

まあ、考えてみれば当たり前ですよね。本人たちは、コミュニケーションする時に色々気を使っているし、その気の使い方が言語として現れている以上、それは言語学の研究テーマになります。でも、日本では「フランス人はストレートで気を使わない」というステレオタイプが強いせいか、そういう「フランス人がコミュニケーション上でどのように気を使っているか」という側面が少なくとも市販の参考書、そして仏検の問題集などではほぼ意識されていないと言えるでしょう。

そのせいで、フランス語ネイティブと話していても、相手がこっちに気を使っていることに気がつかず、解釈をミスってしまいコミュニケーションがうまくいかない…。そんな例が結構見受けられます。それだとよくないので、フランス語母語話者の書いた論文の中から、フランス語で気を使う時にどんな表現が使われているかを取り上げた例について説明していく、それが今回のノートの目的です。

 Vous savezの例

さて、今回ですが、Denis APOTHÉLOZというフランス言語学者の書いた論文から、vous savezについて取り上げたいと思います。

alors vous savez que les bonzaïs/ y a une sorte de de d’éthique à respecter/ on n’aime pas tellement y mettre dessus des produits chimiques (in Gülich & Kotschi, 1983, 347)
「さてあなたもご存知でしょうけど、盆栽には守るべき規範というべきものがあり、だから化学物質を盆栽に使用することは、あまり好まれないのです)

これは会話を書き写したものなので、句読点ではなくスラッシュ(/)を使って話の切れ目が表現されています。また、y a une sorteは本来であれば、存在を表すil y aです。しかし、会話ではilが発音携行されない傾向にあり、ここでもそのようなilの脱落が起きたため、表記上でもilが省略されています。なお、bonzaïsは盆栽です。坊主をフランス語ではbonzeと言いますが、/ボウズ→ボンズ/と同じような音変化が/ボンサイ→ボンザイ/でも起きているのかなと。あと、yはà bonzaiかなと。で、dessusは「その上に」という意味です。

で、ここで出てくるvous savezについてAPOTHÉLOZ本人はこの述べています。la face positiveとかl'atténuationのようなテクニカルタームがわからないと読みにくいので、飛ばしてしまって構わないのですが、要するに「相手の面子を傷つけないために、vous savez queと言うし、そのこと自体言語学の分析対象となっている」ということを理解してもらえればいいかなと。

Littéralement, le locuteur informe le destinataire d’un fait ou d’une norme (les bonzaïs/ y a une sorte de de d’éthique à respecter/) tout en pré- sentant ce fait ou cette norme comme connus de lui (vous savez que). Ici la manœuvre tient également de l’atténuation mais de façon moins immédiatement visible. Elle consiste à prévenir l’effet potentiellement “menaçant” que constitue tout apport d’information, selon une logique qui est la suivante : informer quelqu’un de quelque chose, c’est nécessairement présupposer un non-savoir, et c’est précisément cette présupposition, susceptible d’affecter la face positive du destinataire, que vous savez que permet de désamorcer.
(文字通りには、話者は対話者に対して「盆栽には守るべき規範が存在する」という事実、あるいは規範を知らせているが、その時話者はvous savez queを用いることによってこの事実、あるいは規範を受け手にとって既知のものとして提示している。ここでは、vous savez queを用いるという操作もやはり軽減の影響を受けているが、そのやり方はより間接的なものになっている。このように軽減を用いる意図は、なんであれ情報の寄与がもたらしかねない、潜在的な脅迫効果を予防するためである。それはすなわちこのようなロジックに基づいている:誰かに何かを知らせること、それは必然的に無知の想定を伴うことを意味する。そして、この無知の想定は、対話者の正の面子に悪影響を及ぼしかねない。だからこそ、こうした想定をvous savez queを用いることによって、和らげているのだ。)

むかしどこかで、高名なフランス文学者が「フランス人はcomme vous savezといって、こっちが知らないことでも”ご存知のように”とやってくるから、押しが強い」みたいなことを言っているのを読んだ気がするんですが(調べてないから気のせいかもしれません)、この説明を見ると全く解釈が逆で、むしろ日本人がプレゼントをする時に「つまらないものですが」というように、どちらかというとへりくだる表現であることがわかります。

ただ、そのへりくだり方が日本語と違うため、日本語話者には理解できず、だからディスコミュニケーションが生まれているということです。長くなったので、次回また書きますが、とりあえず「フランス人はダイレクト」というのはステレオタイプであり、むしろどちらかというと、世界中にダイレクトにものを言うような人はいないと考えていた方がいいと思います。

長くなるので、ここで終わりにします。

では!

井上大輔

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外国語怨念解消note
高度な外国語力を身につけたい人、テストで結果を出したい人に向けて役立つ情報をつぶやき中。TOEIC980点。早稲田英文→早稲田仏文修士→上智外国語学部修士→上智大学博士課程在学中。英語・仏語・西語・伊語の参考書&翻訳書も出版。著書一覧→http://amzn.to/jzUDtr