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デザインとコンサルティングが出会うところ

〜「デザイン的態度」と「課題解決の本質」をめぐる対話の記録〜

はじめに:なぜデザインは民主化されていないのか?


きっかけは、とあるnote記事でした。
その記事のテーマは「なぜデザインがいまだ民主化されていないのか」。


いわゆる「デザイン思考」や「UXデザイン」が注目されているにもかかわらず、「手法や形ばかりが導入され、根本的なデザインの力が活きていない」という問題提起がなされていました。

• デザインは形だけではなく、プロセスであり、在り方や態度でもある。
• 真の意味で“デザイン的態度”が根づいていないから、組織の中で形骸化してしまう。
• デザインを民主化したいなら、“問いを立てる力”や“より良い在り方を探り続ける姿勢”こそが重要。

読んだ瞬間、「ああ、これだ!」と腑に落ちた部分が多かったんです。というのも、“デザイン=形づくり” だと思っている人は少なくない。一方で、「社会や組織を変えていく力としてのデザイン」という捉え方は、なかなか浸透していない……。まさにこのギャップこそが「デザインの民主化が進まない理由」なんだなと共感しました。

しかし、このブログをきっかけに自分が思い至ったのは、「コンサルティング」という仕事とデザインが深いところでつながっているのでは?ということでした。

1:noteを読んで抱いた素朴な疑問


まず、noteを読んだ直後、自分の頭に浮かんだ問いや感想を整理すると、次のような内容でした。
1. 「手法」だけ導入してもダメ
デザイン思考の導入が失敗しやすいのは、「ブレストしよう」「付箋を貼ろう」という形(プロセスの一部)に終始してしまい、“なぜそれをやるのか”という根本的姿勢(デザイン的態度)が共有されないからでは?

2. 組織は短期KPIを求めがち
「中長期的に問い続ける姿勢」というデザインの持ち味は、短期的ROIを重視する企業文化と相性が悪い。そこがボトルネックになり、本質を問い続けられない環境が生まれている。

3. 「デザインは形だけじゃない → だったらコンサルと何が違うの?」
デザインが「課題の再定義」「価値の創造」という営みであれば、コンサルティングがやっていることとかなり近いのではないか?
ただ、コンサルという言葉には「お高く止まってる」「高額で敷居が高い」という先入観がある。デザインでいうところの「形づくりだけ」と思われる誤解に近いのでは?

2:問いを深めるための具体的な会話・思考



この段階で、頭の中では「コンサルとデザインは本質的に親和性が高いはずだが、世間的イメージのせいで十分に伝わっていない」という仮説が生まれました。ここで思わず周囲の人やnoteの著者に対して、こんな質問を投げかけたのです。

問1:「コンサルがやっていること」と「在り方としてのデザイン」、そんなに違う?
• コンサルティング: クライアントの課題を再定義し、本質的な解決策を導き出す仕事。
• デザイン的態度: ユーザーや社会の本当の課題を探り、形やサービスで世の中を変えていく力。

両者とも「問いの立て直し」「価値創造のプロセス」「課題解決への実行支援」を伴う点で似ているのでは?と感じました。
一方で、「コンサル」の世間的イメージは、高額・上から目線・パワポでの報告レポート……とあまり良くない側面もある。これは「デザイン=形」だと思われていることと近いズレかもしれない。

問2:「デザインとAI」「デザイン思考と組織変革」の関係は?

noteの中では「デザインはどこにでも存在しうる」とあり、AIにおいても「AIそのものをどう設計・デザインするか?」という話が出てきます。それを踏まえ、自分の現場経験から、「生成AI導入支援」を例に考えてみると、以下のような気づきがありました。
• 企業から「AI使い方セミナーをやってほしい」と頼まれても、そもそも何のためにAIを使うのか、課題は何か が曖昧。
• これって「デザイン思考を形だけ入れて満足」してしまうパターンと同じでは?
• 本質的な問題設定や長期的な変化への向き合い方がないまま、「手法の導入」だけ求められる事態は“デザイン思考”でも“AI導入”でも繰り返されている。

ここに、「デザイン的態度を組織に根づかせるのは難しい」という問題と、「コンサルが“セミナーを売って終わり”では本当の価値が発揮できない」問題が重なっているように見えました。

(補足:実践への道しるべ・「問いの質」を上げる小さな仕掛け)
• AI導入前のチェックリスト
• 「導入の目的は明確か?」「どの業務で使うのか?」「担当者は誰か?」「短期効果・長期効果それぞれどう見込む?」などの質問をリスト化して、セミナーやワークショップの前にクライアントと共有。
• 「とりあえずAI」 を防ぎ、“意図”と“目的”をあぶり出す。

3:著者とのやり取りで見えた新たな視点



上記の質問や感想をnote著者にぶつけてみたところ、さらに深まった議論があります。以下にいくつかのポイントをまとめます。

コンサル×デザイン = 実はかなり近い世界
• デザイン的態度が必要とされる複雑な課題(社会課題・未来構想など)ほど、コンサルのアプローチ(組織変革・戦略策定)が不可欠になる。
• 逆に、コンサルティングの現場も、従来の「戦略提案だけ」にとどまらず、ユーザー中心やプロトタイピングを取り入れる動きがある(サービスデザイン、デザインシンキングの導入など)。
• 結局、両者が“同じ問題”を違う言葉で語っている側面が大きいのではないか?

「コンサル」という言葉がネガティブに捉えられがち
• 「高い」「上から目線」「チュアっぽい」などのステレオタイプがあるため、「実は在り方を問い直すビジネスパートナーです」と言っても、先入観を突破できない場面が少なくない。
• これは「デザイン=ビジュアルづくり」「形だけ」という誤解と同様に、言葉のイメージが実態を歪めている。

「デザイン思考が大事」「態度が大事」と言っても伝わりにくい
• 「それ、どんな成果が出るの?」とROIを問われると、説明が非常に難しい。
• さらに「失敗も評価しよう」と言えば、多くの企業文化では受け入れられにくい。
• だからこそ、実際に小さく試してみる・実際の成功(あるいは学び)を可視化する など、“体験”を通じてしか浸透しにくい。デザイン思考導入が挫折しがちな理由と同じ課題。

(補足:実践への道しるべ?・「体験型アプローチ」の導入)
• スモールスタートの実験プロジェクト
• 1つの部署や1つのサービス企画に限定し、「デザイン思考+コンサル型アプローチ」で試行してみる。
• 例えば1ヶ月以内にプロトタイプを回してフィードバックを得るところまでを目標に設定。小さく始めることで成功・失敗を素早く可視化する。
• 失敗の記録を“学習”として共有
• 週次・月次で「実験結果」をオープンにし、どんな失敗があって、そこから何を学んだかをまとめる。
• 社内SNSや定例会での共有など、失敗を評価できる場があると、デザイン的態度が少しずつ浸透する。

4:コンサルのイメージを超えるための逆説や実践



ここで、著者とのやり取りの中で生まれたアイデアや気づきがいくつかあります。まとめると次のような方向性が見えてきました。
1. 「コンサル」とは言わずに、まずはデザイン的アプローチを体験させる
いきなり「コンサルです」と名乗ると、過去のステレオタイプに縛られやすい。
「一緒に創り上げる共創パートナー」「ビジネス変革ファシリテーター」など、別の看板で入り、実際に問いを立てるプロセス・プロトタイプ検証などを回してみる。
体験後に「実はこれが私たちのやるコンサルティングなんです」と紐づけるのも一つかも。

2. 小さく始めて、成果や学習を可視化する
コンサルティングやデザイン思考の“大規模導入”は失敗のリスクが大きい。
「1つのチーム」「1つの小さなプロジェクト」で試して、短期的な指標(顧客のクレーム減少、内部コミュニケーション改善など)をつかむ。
成功体験を社内共有するうちに、「このやり方悪くないかも?」と周囲が自然と興味を示す流れを作る。

3. 逆説的・アンチテーゼ的なメッセージを敢えて使う
• 「コンサルは古い? だからこそ私たちはこうやって伴走します」
• 「デザインは形を作るだけ? 実は組織や戦略まで変えられるんです」
従来イメージと逆行するメッセージを掲げることで、興味を喚起し、その後に本質論を語る二段構えが有効かもしれない。

(補足:実践への道しるべ?・「ネーミング×導入」の工夫)
• 自分たちの肩書や活動名称を再考する
• 「〇〇コンサル」ではなく、「共創パートナー」「デザイン・ファシリテーター」といった名称を用いてみる?
• それだけで相手の身構え方が変わり、先入観を和らげる効果がある。
• 小さな成果を“見える化”
• 例:UX改善プロジェクトで、実際に問い合わせ件数が10%減った → そういった実績を社内でこまめに広報。
• “コンサル”と名乗らなくても「これって実は深い問いを立てたから成功した」というストーリーを後から共有する。

5:最終的な気づき —— デザインとコンサルティングが出会うところ



一連の思索と著者との対話を通じて、「デザインとコンサルは根本的に近いのではないか」という考えが深まりました。その理由を改めて3点に整理します。
1. “問いを立てる”本質は同じ
• デザイン的態度:ユーザーや社会の課題を掘り下げ、未知の領域に挑む。
• コンサルティング:クライアントの経営・組織課題を整理し、再定義する。
いずれも「何を本当に解決すべきなのか?」を問い続ける行為。

2. “形”だけではなく“在り方”を変えるプロセス
• デザイン:最終的にUI/ロゴを作るかもしれないが、そこに至るまでのプロトタイプ・検証・問い直しが重要。
• コンサル:最終的に戦略レポートを作るかもしれないが、その背後には意思決定や合意形成のプロセスがある。
双方とも、アウトプットではなくプロセス全体が価値。

3. “在り方”の変革には、長期視点・ステークホルダー共創が不可欠
• デザイン思考も、利害関係者との継続的対話なしには形骸化しやすい。
• コンサルも、一度の提案で終わりではなく、“実行支援”や“文化変革”が伴わないと成果が出にくい。
こうした「共創」「伴走」「実験と学習」の視点で見ると、デザインとコンサルは同じ土俵にいる。

さらに補足したい具体例・課題:AI導入や短期KPI文化

ここからは、取り上げられていた具体例や背景を、少し詳しく取り込んでみます。実は、デザイン思考が形骸化しやすい構造は、AI導入やDX推進などでもよく見られます。

1. AI導入支援での「形だけセミナー」問題
• 「AIを導入すればすごい成果が出る」と期待する企業→ しかし何が課題なのか曖昧
• 結局「AIの使い方セミナー」で終わり、「で、どう活用するの?」が深まらない。
• これは「付箋ペタペタのワークショップで満足」→実際は組織が動かない、というデザイン思考の失敗例と同根。
• 真の課題設定・試行錯誤のカルチャーがないと、ツールや手法が先行しても成果を生まない。

2. 短期KPI・正解主義が招く弊害
• 正解主義教育
多くの組織では「ミスをしない」「早く成果を出す」ことが重視される。
しかし、デザイン的態度は“不確実性の中で問い続ける”営みであり、答えがすぐ出ない領域に踏み込むので、失敗や曖昧さをある程度受容する必要がある。
• 短期KPI偏重のビジネスロジック
中長期で育つ新規事業や社会課題への挑戦は、「ROIが不透明」だから敬遠される。
結果として、安全策ばかり選び、デザイン思考やコンサル提案が「形だけ」で終わってしまう。

こうした組織文化や教育・評価制度の問題が、デザインの民主化を阻む大きな要因になっていることが、記事でも強調されていました。

(補足:実践への道しるべ?・「短期KPIと長期展望の両立方法」)
• “二段階KPI”の設計
• まずは短期KPI(例:3ヶ月後の売上増、問い合わせ減)を置きつつ、並行して“学習指標”や“中期的な探索目標”を設定する。
• 「今期は利益に貢献しつつ、次期に向けて別の価値創造のタネを探す」という2つの柱で運営すると、短期/長期の両方が見やすい。
• 失敗を許容する“実験枠”を予算化
• 年度予算の中に“実験用バッファ”を確保しておく。失敗しても「これは実験枠だから」という理由で責められない文化を醸成する。
• 企業カルチャーとして「10のうち1つでも大きな学びや革新が得られればOK」という視点を持てるかが鍵。

今後考えるべき問い:どう実践に結びつけるか?



今回のやり取りの末に浮かび上がった、“じゃあこれからどう実践するか?”に関する問いを、いくつか提示して締めくくりたいと思います。
1. 「デザイン思考」「コンサルティング」という言葉を超えて、どう広げるか?
• どちらの言葉も先入観を生みやすい。
• ならば「私たちは何者として名乗るべき?」というブランドやネーミングの問題があるかもしれない。
• 本質は同じでも、看板のかけ方で相手の反応は大きく変わる。

2. 失敗を評価する組織をどう作るのか?
• デザイン的態度が根づくためには、試行錯誤と失敗が不可欠。
• 多くの企業は短期KPIを重視し、失敗に寛容でない。
• このギャップをどう埋めるか? 経営者やステークホルダーとの合意形成をどう設計すればいい?

3. 社会的インパクトや倫理との兼ね合い
• “コンサルは企業の利益を最大化するための存在”という認識がまだ強い。
• デザインも、時としてユーザーを過剰に誘導する危険性(ダークパターンなど)をはらむ。
• じゃあ「本当に良い世界・社会とは何か?」を問い続ける姿勢をどう担保する?

4. 小さな実践が組織文化をどう変えうるか?
• まずは小さなプロジェクトやワークショップで成功・学習を積み重ねることが近道。
• しかし、それがどのように組織全体の態度変革につながっていくのか?
• その成功パターンやモデルケースをさらに探求・共有したい。

おわりに



デザインは形だけではなく「営みや在り方を通じた課題解決」であり、コンサルティングは「企業課題を分析して戦略を示す仕事」にとどまらず、実はデザイン思考やデザイン的態度と深く響き合う活動でもある。
両者の間には、世の中の誤解や固定観念があるせいでうまく伝わらないジレンマもある。しかし、だからこそ「逆説的に種明かしをする」「小さな成功事例を積み重ねる」「失敗を評価する仕組みを導入する」といった地道なアプローチを重ねることで、組織や社会の在り方を少しずつ動かしていけるはずです。

いまだ民主化できていない「デザイン」。そして誤解されやすい「コンサル」。
それぞれが本質を取り戻し、合流するところに、次の時代のイノベーションや社会変革の可能性があるのではないでしょうか。

もし同じようなモヤモヤを抱えている方がいれば、ぜひ一緒に考えてみたいと思います。

まとめ:形だけに囚われない“態度”が変化の鍵


• デザインとコンサルは、本質的に「問いを立て、本質的課題を解決する」営みで共通する。
• 「形だけの導入」で終わらせないためには、組織の短期KPI・正解志向の文化や言葉の先入観といった構造的壁を理解し、小さな実践からアプローチするのが有効ではないか?
• 失敗を学びと捉え、“問いを立て続ける”態度こそが、複雑化する社会でのイノベーションを生む。
• デザイン思考やコンサルティングを超えた、新しい価値創造のアプローチが、ここから生まれることを期待したい。

こうした小さな工夫と行動の積み重ねが、デザインとコンサルの“在り方”を組織全体に根づかせ、結果的に“民主化”を後押ししていくのではないでしょうか。

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