「ごはん山盛之介」第二話:ツナマヨの嵐
パンひろみ 15歳。
フランスパンの姿をした彼女は西洋風のだだっ広い食卓の中で一人、朝食にコーンフレークを食べていた。
パンの時代が来たからといって、パン以外を食べていけないわけではない。ましてパンの姿をしているからと言って、パンだけを食べているわけでもない。彼女は全日本フード選手権準決勝におけるシリアル・コーンの戦いに感銘を受け、最近は、もっぱらコーンフレークを食べていた。
「シリアル・コーン、すごかったなぁ。あの大筒、私に交わせるかしら。」
ひろみはそう思い出しながら、ふふふと笑った。のちにジャムパン・ザ・キラーに挑むことになるこの若き女性は、スライサーを操り、あらゆる食材を武器にする天才戦士である。
(舞台は、ごはん道場に)
ニヤリと笑うシリアル・コーンは、斬りかかるごはん山盛之介のめざしソードをひらりと交わし、ごはん美味過ぎ丸の繰り出す肉もまたひらりと交わしていった。しかし、美味過ぎ丸の肉は方向を変え、コーンを追尾していく。
山盛之介は未熟なので、まだ山ゾウ直伝のEPAウイングがうまく使えない。なので、剣の軌道が直線的でしかなく、自身で身体を向き直り、コーンに再び斬りかかろうとした。
その刹那、ドヒャーン! とコーンはミルクの大筒を床にぶっ放した。その反動で天井まで高く飛ぶコーン。こうして二人の攻撃を交わしたコーンは反転して天井に足を向けるなり、大筒からミルクを若者達に注ぎまくる。
「うわーーーーー!!!」
ミルクまみれになるごはん山盛之介、美味過ぎ丸、ホオバル、マイウーの四人。さすが、吉之助だけはこれを避けていた。
そこにコーンの身体からコーンフレークの雨が注がれる。
「イタタタタタタ」
身体に当たるコーンの雨も痛いが、足元を見ろ。コーンフレークと牛乳が混ざり合い、足場が悪くなっていた。四人はそれに足を取られ、滑って転んで、あたふたしている。
「ははは、準決勝の山道先生との戦いで見た奴じゃないか。みんな何をやってるのか」
吉之助はそう言うなりジャンプして、壁に足をかけた。そして、素早く、とん! とコーンの方に飛んで斬りかかる。
マイウーも自身の身体に粘性があるため、ドロドロの足場には慣れている。身体を鞭のように変化させ、細身に変形し、コーンの方に襲い掛かっていった。
シリアルを放射して身体がしぼんだコーンは一転ピンチである。しかし、コーンは慌てない。ミルクの大筒に自身の身体を入れてスピン回転し、自身の身体を大筒の中で混ぜ込んだ。そして、大筒をマイウーの方に向け、自身が弾丸となって飛んでいく。
「栄養満点! シリアルバーアターック!!!!!!!!」
ドヒャッ!
見事命中し身体が四散するマイウー。柔らかかったはずのコーンの身体はシリアルバーのようにカチカチになって、マイウーの身体を貫いた。
これで一人脱落。
「おいおい、どこが山道より強いんだ、小僧ども。全然じゃねえか」
そう言って大口を叩いた若者たちをコーンがたしなめる。
ガキーン!
同時に吉之助がたくあんソードを繰り出したが、コーンの身体はカチカチのため、たくあんソードを受けてもダメージはない。
「くっ」
慌てて身を引く吉之助。
吉之助が引いたと同時にホオバルは梅干しの種の弾丸を繰り出した。
カンカンカンカンカン!!!
コーンの身体に梅干しの種が当たるも今のコーンのカチカチの身体には効かなかった。
「まだまだだなー、小僧ども」
一瞬立ち止まり戦いの最中に余裕をこくコーン。
そこに山盛之介のめざしソードがやってくる
「産地直送 DHAーー!!!!」
ヤバい! と目を見開くコーン。
ドコサヘキサエンサーーーーーーン!!
ガキーン!!
めざしソードは命中し、コーンはゴロゴロと転がった。しかし、これではまだコーンは倒せない。
「くっ、まだまだだな、小僧」
身体は少し削れたが、軽く起き上がるコーン。
コーンは身体を反転させ、山盛之介の方に大筒を向け、自身の身体をセットした。焦る山盛之介。
と、そこに三角おにぎりの形をした一人の男がふいに現れた。
「そこまでだ!!」
現れたのは、山盛之介の父・山道である。
「コーン、貴様の相手は私がする。再び受けてみよ。我が最大の奥義
ツナマヨハリケーーーーン!!!!」
言うなり、 山道の腹の海苔がカパっと開き、そこからツナマヨが飛び出した。
ブオオオオオオオオオ!!!!!
ツナマヨの勢いは止まらず、準決勝の時のようにコーンの身体が砕け散った。大筒の中からコーンの身体がどろっと下に落ちる。
その威力の凄さに驚く五人の若者たち。
「凄い。これが山道先生の力か。普段、稽古でやっていたのはただのお遊びだったんだ」
美味過ぎ丸はそう口にして、自身の力の無さを嘆いた。
「やはり、山道先生スゴイデース!! この技、間近で見られて感動シマシター!!」
マイウーはそう言って、素直に感動した。
「はー、よかったー。コーンが余りにも強くてびっくりしちゃったよー」
ホオバルはそう言って素直にこの戦いが終わった事を安堵した。
「親父! これから俺が倒すつもりだったのに、余計な事しやがって!」
あくまでコーンを倒すつもりだった山盛之介は父・山道に食ってかかった。
一人、吉之助だけは黙して語らず。彼には実は必殺の技があったが、まだ誰もその技を知らないので、心の内では大会前にライバルたちの前で技を見せずに済んでよかったと安堵していた。
こうしてコーンと五人の若者たちとの戦いは終わった。
溶け落ちたコーンだが、ミルクが乾くにつれてシリアルも固まりだし、だんだん再生していった。
そして、ようやく喋れるレベルにまで回復したその時、コーンはこう言った。
「おい、山道。コイツらじゃ、ジャムパン・ザ・キラーを倒せねーぞ。ごはん山盛之介を俺に預けろ。俺が修行してやる」
「ほお」
そう言って、山道は顎を撫でた。
「おいおいおい!! なんで俺がシリアルのもとに行くんだよ!! 俺はじいちゃんと修行するから、お前なんか関係ねえや!」
納得がいかない山盛之介はそれを断る。
しかし、そこに祖父・山ゾウが現れて、こう言った。
「いや、行って来い。山盛之介。今こそ武者修行の時じゃ!!」
「え! じいちゃん、なんで?」
焦る山盛之介。山ゾウは続ける。
「じいちゃんも昔は餅やステーキと切磋琢磨していたものじゃ。お前も他のごはんに揉まれて、勉強してくるがいい」
それに言葉を重ねる父・山道。
「そうだ。山盛之介。井の中の蛙、大海を知らず! 大海を見てこい! 良い機会かもしれん」
山道は自信満々の山盛之介の態度が普段から気にかかっていて、息子を旅に出す機会を前からうかがっていた。
「そっかー。わかった、じいちゃん。俺、行ってくる!!」
親父はともかく、尊敬するじいちゃんに言われたら従うよりない山盛之介。
「良いんだな、山道。息子を連れてくぜ」
そう言って、コーンは山盛之介を掴んで連れて行こうとした。と、そこに
「良いなー、山盛之介。そう言われると僕も行きたくなっちゃうなー」
と、山盛之介の親友、ごはん美味過ぎ丸が、ぼそっとそう言った。
「ん? 良いぞ。お前も来るか?」
「えええ!!! 良いのー!!! ノリで言ったけど、じゃあ僕も行くぞー!!」
そう言って、美味過ぎ丸はノリで修行についていく事にした。
「他の三人はどうだ? 来る気はあるか?」
そう大声でコーンは他の三人に呼びかけた。しかし、それを山道が遮る。
「いや、他の三人は責任を持って、この道場で育てよう」
「そうじゃな。他にも修行先はいくらでもある。全員が同じ事を学んでは面白くあるまい」
山ゾウもそう言って、コーンを遮った。
「そうか。分かった。じゃあ、この二人はもらってくぜ。次に会うのは、五ヶ月後だ。楽しみにしておけ」
コーンはそう言って、山盛之介、美味過ぎ丸と道場から出ていった。
五ヶ月後というのは、全日本フード選手権、朝ごはんの部 ごはん食部門の全国大会の時期である。今は味方のこの五人もそこでしのぎを削るだろう。
フッ。腕を組み、不適に笑いながら、それを見送る雑炊吉之助。
あくまで陽気なリゾット=マイウーは山道についていく
「ワターシも頑張らなくちゃね! シハーン、お願いしまーす!」
ホオバルは山ゾウの言葉が気になって、こう尋ねた。
「山ゾウさまー、僕もどこかに修行に行けるのー?」
これに答える山ゾウ。
「ふふふ。お主には夜ごはんの帝王、ステーキ=マツザカを紹介してやる。夜ごはんではあるが、マツザカはジャムパン・ザ・キラーより遥かに強い猛者じゃからの。奴に修行をつけてもらえば、鬼のように強くなるじゃろう」
「ええ!!! そんな凄いところを紹介してくれるのー!! ありがとう! 山ゾウさまー!!」
こうして五人はそれぞれの道を歩むことになり、五ヶ月後、全日本フード選手権、朝ごはんの部 ごはん食部門全国大会で相見える事になるだろう。
果たして、次回のごはん食部門を制するのは誰なのか!?
大会は、この道場以外にも各地から猛者が集まって、雌雄を決する事になるっ!!!!
(つづく)
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