長いものに巻かれろ、の長いものとは

部下と社有車で移動しながらラジオを聞いていたら、リスナーの投稿をDJが読み上げていた。詳しく覚えていないが、「トラック運転手をやって30年になりますが、やはり長いものには巻かれるべきです」という話だった。

「長いものに巻かれるんじゃなくて、自分が長いものになるのが一番ですよ」
と部下は言う。
正直、よく言うわと思った。
彼は決して権勢を振るえるようなタイプではなく、車の運転はできないし私が運転している横で寝たりしているし、帰り道に電柱に激突するなど生活も不器用なほうなのだが、言われてみると確かに、それで良しとしているふてぶてしさとか、なんだかんだで私が色々やらざるを得なくなっている状況を考えると、ある意味彼は人をうまく使っていて、長いものになる素地があるのかもしれない。
しかしそれを認めるのは癪なので「長くなる野望はあるんですか」と問うてみたところ、「まあなれないでしょうね」と答えていた。

長いものとは何か

ところで、我々が巻かれるべき「長いもの」とは一体何なのか。
慣用句にしてはなんだか抽象的ではないか。
「寄らば大樹の陰」みたいに、もっとわかりやすい比喩であれよ。
長くて巻けるものと言えばロープだとか帯だとかがあるけれども、これまでの人生を振り返ってみても、「長いものに巻かれてよかったな」と思った経験はない。
長いものは短く束ねて整理しておくのが良いと思う。が、それでは単なる生活の知恵になってしまう。

長いものには巻かれろ
読み方:ながいものにはまかれろ
別表記:長い物には巻かれろ

強い権力を持つ者や、強大な勢力を持つ者には、敵対せず傘下に入って従っておいたほうがよい、といった処世術を表す言い回し。

Weblio辞書

辞書を見ても、「強いものには従え」と言えばいいのではないかというような説明しかない。どうして強さが長さになったのか。「長いものに巻かれろ」って言いかえた結果わかりにくくなっているように思う。

語源を調べてみたら、辞書サイトには記述がなかったが、「古代の中国の猟師が象の鼻に巻きつかれてしまったが、結果として象の墓場に連れられて象牙を大量に得ることができた」という故事成語を紹介しているサイトがいくつかった。なんだそれは。仮にそれが語源だったとしたら「象に従え」とか言えばいいだろ。

巻かれて取り巻きとなる

強い権力を持つ持つ者の周りには「取り巻き」がいることがある。
「取り巻き」を改めて調べてみると「人にまつわりついて、機嫌をとること。 権勢のある人にこびへつらうこと」だそうだが、「長いものに巻かれろ」とは、そういう取り巻きの輪に巻き込まれておいたほうが良いということかもしれない。
きっと取り巻きの連中がグルグルと何重にも輪をなして長くなっているのだ。そういう長さに巻かれて束縛される面もあるだろうが、それを上回るメリットもあるのだろう。

従うべき相手

従うべき相手について述べたことわざとしては他に「老いては子に従え」がある。権勢を振るう長いものも老いるので、「子≧長いもの」という図式になるだろう。
一方で子というのは世の中のことを分かっておらずいたずらに権力に噛みついたりすることもあるが、それは結局得策ではないので、子は長いものに巻かれたほうが良い。つまり「長いもの≧子」となる。

「子≧長いもの」かつ「長いもの≧子」。
この二つの不等式を満たすのは、当然ながら「長いもの=子」のときであり、「力を持った若いものに従う」という状況だ。有力者の息子に取り巻いて、甘い蜜を吸うのである。
いやだなあ。
直感的にいやだし、組織がこういう状況になってしまったらだいたいの場合悪いほうに向かうのではないか。

であれば、長いものには巻かれないほうがいいのだろう。


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