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【掌編小説】ハジメの一歩
姫野 一(ハジメ)には特技があった。
私のようなド素人小説家が一番困るのはキャラクターの初期設定だ。
前段の説明が長すぎると退屈で読んでもらえないし、かといって面白おかしく進行しながら、さりげなく設定を織り込むような技量は持ち合わせていない。
なので、はしょるよ。
ハジメは三分だけ時空を超えて未来に移動できるのだ。僅か三分だ。
過去には一ミリたりとも移動できない。
勿論、修行して得た能力ではなく生まれ持っての能力である。
ブッとオナラをした瞬間に大きく息を吸い込むと三分だけ未来へ移動できるのだ。
一度試してほしい。凡人には先ずこれができないだろう。
三分未来に移動できたとて、大したことはできない。
ただ、目の前でこれから起こる嫌な事を済ませてしまうことができた。
小学生のころ、ハジメは少年野球をしていた。
当時、エラーをするとケツバットというお仕置きがあり、コーチ、といっても近所のおっさんだが、そのコーチがフルスイングでミスをした子のお尻をバットで叩くのだ。
ハジメのポジションはセカンドであったが、ある日、二回連続でエラーをしてコーチに呼ばれた。「ハジメ、ダッシュでここへ来い!」
コーチの元へ走っていくと、コーチは既にバットを構えている。ケツを出せとアゴだけで指図する。
ハジメは恐る恐るお尻を出しながら、この恐怖心からどうしても逃れたくなった。
思わず、お尻からブッとオナラをすると同時にスーッと息を吸い込んだ。
その刹那、ハジメはグランドをのたうち回っていた。三分前の出来事だが、恐怖心からは逃れたもののジンジンとしたケツの痛さは残っている。明日の朝にはハジメのお尻は青く内出血しているだろう。
後で友達に聞くと、直前に屁をかましたものだからケツバットを二回連続で受けたらしい。
この特殊能力を使ったことで、果たして得をしたのだろうか。
◇◇◇
カランカラン♪
ハジメはほんわか商店街の奥にある洋食屋ハーゲイのドアを開ける。
二十歳になったハジメには真剣に付き合っている彼女がいた。ラーメン屋の休憩時間を使ってここに来たのだ。
奥のテーブルには彼女が待っていた。
「待った?」
「いえ、私も今来たところ」と森永雪見は微笑みながら答える。
なかなか言い出せなかったが、今日こそ雪見さんにプロポーズしよう、ハジメはそう決めていた。
「ハジメさん、どうしたの?今日はなんだか表情が硬いわ」
ハジメは緊張し、緊張のあまり口角は左だけが上がっていた。決して笑っているわけではないのだ。
「雪見さん、ぼ、僕と、け、結婚してください!」
ハジメは思い切ってそうゆうと雪見の表情を伺う。
答えを聞くのが怖い。この答えを待つ時間に耐えられなくなる。
ハジメは思わずお尻からブッとオナラをし、同時にスーッと大きく息を吸い込んだ。
店のカウンターの横には小さなテレビがあって、画面からは今日も我須首相が訴えている。
「国民の皆さま、どうか今しばらく外出は控えてください」
愛と光が口癖で、世界平和を願ってやまないマスターだが、今日はウトウトと寝ているようだ。ネコとオッサンだけは兎に角よく寝る。
オナラをしたその刹那、ハジメの前に雪見は居なかった。
テーブルの上には、今日渡そうとしていた結婚指輪が箱のまま置いてある。
テーブルには置き手紙があった。
ハジメさんへ
オナラをした後、意識が飛んでいることがたまにあるので念のために手紙を書いておきます。
ハジメさんは優しくて一緒にいるといつも楽しいんだけど、結婚相手として考えたことはありませんでした。ごめんなさい。
雪見
「こんな特殊能力はない方がましだ」そう呟いたハジメはこの後、暫くは席を立てなかった。
この先、目からピーッとお尻からブッの共演があるのでは、なんて先読みする読者を、筆者は余り好まない。
(つづく)
BGM
また今度!
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