【掌編】永遠の宿命
湯山博士は不老不死の薬を開発した。
NMNサプリを摂取して体内でNADに変換するものではなく、直接体内にNADを取り入れる画期的な新薬だ。新薬の名はKYKと呼ぶ。
新薬の噂を聞きつけたWHOはすぐにこの薬の販売を禁止した。
こんなものの服用を許可したら、人類のライフサイクルに支障をきたし、いずれは人類の滅亡に繋がると判断したからだった。
WHOの振舞いを見て、湯山は呟く。
「実につまらない」
薬の販売が禁止され、今この薬を服用しているのは湯山だけだった。
ところが、こんな画期的な新薬を世界の要人達が見逃すわけはなかった。
先ず、チャールズはKYKにBBCと別名をつけ、服用するようになった。
次にプーチンはこの薬をTKGと呼び、服用を続けた。
またバイデンは最近、BBQという名の新薬を飲み出したと言う。
💊💊💊
KYKを服用しだして100年が過ぎた頃、湯山博士は振り返る。
周りの人達はもう誰も知らない。
私の研究室は経費削減のため50年前に無くなり、朝から晩まで引き篭もりのような生活だ。
書斎の窓からは子供の泣き声が聞こえる。
「ぴえん、ぴえん!」
がしかし、この泣き声では、湯山に悲しみは伝わってこなかった。
最近では、若い人の言葉は半分以上、理解できなくなっていた。
若者達はスマホばかりを見つめ、挨拶一つしてこない。
大好きだった研究の職を離れ、朝昼晩と飯を食い、散歩に行き、お風呂に入り、決まった時間に就寝している。
幾つもの猛暑を乗り越え、幾つもの雷雨を乗り越え、幾つもの寒波を乗り越え、幾つもの天変地異を味わった。
それでも、身体は一向に衰えない。
たまには誰かと話そうとオンラインツールを立ち上げると、画面は自動的に同世代を選択してくれるのだが、全く興味のない各国の国王や大統領しか出てこない。
湯山は一人っきりの書斎で、インスタントコーヒーを啜りながら呟いた。
「実につまらない」
💊💊💊
そんなある日、我が国の首相から一本の電話があった。
「湯山博士か。折り入って話があるんだ。君が100年前に発明した新薬、KYKを実用化して全世界に売り出したいんだ。
君もご存じの通り、我が国の国力は低下して、今では円は1ドル800円まで下落している。
どうか我が国の力になってくれ!」
「実につまらない」
湯山は投げ捨てるように言い放ち、電話を切った。
この日から湯山はKYKの服用を中止した。
(ぱひゅん)
オリジナリティ溢れる新キャラの登場ですね♪
また今度!
えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗