【妄想小説】赤い糸
電車の中で私はまた腕時計を見た。
16時45分。さっきから5分おきに腕時計を見ている。
よし、間に合いそうだ。
車窓から外の景色を観る。
いつもの通勤ルートなのに時間帯や目的が違うとこんなにも違うものか。
川を渡りビル群を抜けていく景色は、そのどれもが美しい。
今日は初デート。
SNSで知り合った女性に初めて会う日だ。
アイコンの写真を見た時から一目惚れだった。
端正な顔立ちで年齢はどう見ても20代前半。
コメントのやり取りをしている内に親しくなったが、コメントの中で、
「あなたの痛みも私のものです。」
この一行を読んだ時、私はこの人の事が四六時中、頭から離れなくなった。
HNは「トリス」と云う。後に本名を尋ねると、「栗栖川トリス」素敵な名前だ。
私には一つだけ気掛かりなことがある。
私のSNSのプロフィールには27歳と書いているが、歳はサバを読んでいる。それも実年齢では二倍以上も...。
最後まで言い出せなくて今日を迎えたが、会えば最初に謝ろうと思う。
待ち合わせ場所は、いつどこの街であっても決めている。
ファミマの前だ。
トリスさんは、目印にdocomoの赤い紙袋を持って行くと言う。
電車を降り、駅前のファミマの前に着いた。
なんとファミマの前には赤い紙袋を持った人が二人いた。
一人は黒シャツの若い男でワイヤレスイヤホンでもしているのだろうか、首を仕切に縦振りしている。
もう一人はグレーの和服の女性で歳は50代くらいだろうか。
トリスさんはまだ来ていないようだ。
待ってる間にまた時計を見る。17時10分。もう10分も遅刻している。
まだ来ないかな。早く来て欲しい。何より、早く来てくれないと勘の良い読者にネタバレするではないか。
不意に和服の女性が近づいてきた。
「あのー、タイタンさんですか?」
「あ、はい...。」
「トリスです。
あ、ごめんなさい、私のアイコンは娘の写真です。栗栖川数子と申します。
旧姓は天井、天井数子です。」
数子と名乗った女性は深々と頭を下げたが、今、旧姓を名乗る必要があるのだろか。何アピールだろう。
「こちらこそ、すみません!私も実はプロフィールの年齢を偽っていました。」
「ふふっ、なんとなく分かっていましたよ、オホホホホッ!」
「それは良かった。コーヒーでも飲みに行きますか?」
「ええ。」
「できればお酒で良いかな?」
「ええ。」
「この近くに魚の美味い店がある。それでは参りましょうか。」
「ええ。」
どこかの幼な子が手放してしまったのだろうか。赤い風船が夕暮れの中、空高く舞い上がっていった。
(了)
こちらの企画に参加させて頂きます。
イベントや企画情報はいつもアセアンさんの記事を参考にしています。
素敵な企画、ありがとうございます。
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えっ!ホントに😲 ありがとうございます!🤗