【掌編】祈り 〜蒼と優の物語〜
世の中にはどこが好きか分からないけど、何故だか気になる異性が一人は居るものである。
立花蒼はやっぱり塚本優の事を忘れられず、付き会うことにした。
蒼自身、優のいったいどこが良いのか良く分からないのだが、最近は優のアパートに入り浸りだ。
今日も蒼が作った夕食を、二人で仲良く食べている。
「この肉じゃが、どうかしら?」
「うん、とっても美味しいよ!蒼は料理が上手だね」優が微笑む。
「優、このアパートは二人で暮らすには少し狭いわ。私も半分くらいなら家賃を出せるから引っ越しましょうよ」
「同棲ってこと?うん、そうだな、考えておくよ」
蒼はずっと気にしている事を、思い切って聞いてみることにした。
「優、私がこのアパートに通い続けて、もう一ヶ月になるわ。
なのにあなたはキスどころか、私に指一本触れてくれない。
どうして?そんなに私は女としての魅力がないの?」
「実はね、蒼、僕は幼い頃に父を亡くし母子家庭で育ってきた。
母さんは小学校の教員をしながら女手一つで僕を育ててくれたんだ。
僕はずっと母さんの苦労を見てきた。
だから蒼のような箱入り娘のお嬢さんを見ると、どこか憎らしくて、どうしても素直に愛することが出来ないんだ。
きっとマザコンってやつだね」
「そんなことが理由だったの?」
「ああ、バカな考えだと頭では分かっていても、心がついていかないんだ」
「素直に愛せないって……」蒼は泣き出した。
大粒の涙を流しながら蒼は突然、白いブラウスのボタンを外し出す。
ブラウスを脱ぐと今度は淡いピンクのスカートを脱ぎ出した。
やがて真っ裸になり優の前に立った。
「ヨガの経験はないけど、新体操をしていたから身体は柔らかいわ。
どんなポーズでもリクエストがあれば、優の好きなポーズを取るわよ」
優は泣きながら目の前に立つ蒼を見て、今までは気付かなかったが、その豊満な肉体と透き通るような白い肌に驚いた。
(本当に綺麗な人だ)
この夜、蒼と優は一つになった。
◇◇◇
翌日から蒼はアパートに来なくなった。
電話をしても繋がらない。
二週間も経った頃だろうか優の電話が鳴った。
「もしもし、塚本優さんですか。
立花蒼の母です。
蒼は今、入院しているのですが、どうしても優さんに会いたいと言い出しまして……」
優は蒼が入院している総合病院の名を聞き出すと、急いで部屋を飛び出した。
◇◇◇
病室の前に着くとお母さんらしき人が立っていた。
「優さんですね」
「はい。蒼さんの具合は?」
「昨夜から意識不明のまま眠っています。
急に連絡してすみません。
実は、蒼は末期的な病に冒されていて、お医者様からは余命一年と宣告されておりました。
昨夜、優さんに会いたいと言ったきり意識不明です」
◇◇◇
ピッ、ピッ、ピッ♪
優は心電図モニターの音だけが小さく響く、蒼の静かな病室に案内された。
蒼は安らかな顔をしていて、まるで眠っているようだ。
「蒼、駅前に今のアパートより少し広い二人の新居を見つけたんだ。
蒼、冗談だろ?目を覚ましてくれよ。
蒼が来なくなった日から、僕は一日中、蒼のことが気になって、夜も眠れないんだ」
優は蒼の手を握った。
蒼の手が少し握り返したような気がした、その時。
ピッ、ピッ、ピーーーッ♪
心電図モニターの音が止まった。
「ヤッホー!」と、病室の窓の外から、元気な蒼の声が聞こえた気がした。
(おしまい)
BGM
ショートショートコンテストから産まれた二人のキャラクターで創作してみました。
第一話
第二話
また今度!