What is the Digital Agency?〜デジタル庁発足によせて
突然ですが「デジタル化」を表す英単語が2つあることをご存知でしょうか。「digitization」と「digitalization」。この「デジ『タイ』ゼーション」と「デジ『タライ』ゼーション」の両者の違いをざっくり言うと、前者は「一昔前の」デジタル化の概念、後者は「いまどきの」デジタル化です。
IT関連の仕事を数多く経験してきましたが、参加者の発言を聞いていると「この人のいうデジタル化って(ひと昔前のデジ『タイ』のまま止まってるんじゃないの?」と思うことがたまにあります。
一昔前のシステム開発では、開発する側が使う側(ユーザー)に詳しく業務の流れを聞き取って、それをコンピューター上に忠実に再現するかのごとく機能が開発されていました。その根底にあるのは、人が紙とペンと郵便と電話で仕事していたときと発想は同じなんだけれども、一つひとつの作業がパソコンとネットで楽になる、みたいな考え方です。これを一昔前の「デジタル」とするなら、いまどきのデジタル化は、ITの特性を生かした発想で「仕事の流れを根本から見直す」要素が含まれています。
例えば、会社の回覧文書に「見ました」という印に閲覧印を押しますよね。手に取った人の指紋なんて目に見えないし、読んだかどうかも証明できないから読んだ印としてハンコを押すわけですが、ITの世界では、ユーザーとしてログインした先にある文書は誰が開いたとか、この人は下までスクロールしたとか、そういう痕跡が残りますので、LINEの既読のような仕組みでもいいし、ネット銀行の誓約書のような、最後までスクロールしたら「理解した」というボタンが現れてクリックできるという仕組みでもいい。リアルの手順の再現にこだわる必要がないわけです。いや、そもそも、そういう方法で文書を見てもらうのが良いのかどうか、という点から見直す必要があるかもしれません。TwitterやFacebook的な仕組みのほうが合っている場合もあるでしょう。
こうした「痕跡が残る」ほか、ITには実世界とは異なる特性があります。違う重力の法則が働いている世界といえましょう。人間が苦手なことがコンピュータにとっては得意だったり、その逆もあります。(そのコンピュータが苦手だったことが、AIや機械学習で克服されつつあるわけですが。)いずれにしても、そうした特性を踏まえて新たな発想で仕事の仕方から見直す、というのが「デジタライズ」ということです。
デジタル庁の英語サイトでは「digitalization」と、「いまどきの」デジタル化を指す単語が使われています。その言葉通り、digitizeではなく、ditigalizeを行う組織であることを願うばかりです。
せっかくですから英語サイトを覗いてみましょう。のっけから、いきなり謎のコンマ、そして初歩的な文法ミス(現在完了形と日付の併用)、いやそれ以前に小学校6年生の書いた作文のような文体。いやそれ以前にこのタイトル(What is the Digital Agency?)ってどうなのよw?というのが気になります。あ、誤解の無いように言っておきますが、訳した人に文句を言いたいのではありません。曲がりなりにも国家機関のウェブサイトの、海外の多くの人の目に触れるであろう英語版をプロの手を一切借りずに作った(であろう)ことを危惧しています。
プロの翻訳者が訳してネイティブスピーカーのチェックを経た文章を掲載しろ、と言いたいのではありません。いや、それも最低限必要なことなんですが、ここで言いたいのはそうではありません。
ちょっと話は飛びますが、以前、日本のどこかの観光地で「ここに入ると危険です」という看板が「Enter here, or it will be dangerous」のような文章で訳されているのを見たことがあります。これ危ないですよね。思わず入ってしまいそうになる(笑)。私のように、家電のマニュアルを「読みながら」操作するようなタイプの人間は特に。
こういう場合、「NO ENTRY」とか「DO NOT ENTER」とか書かなければならないわけです。どこに、って目の前に池があるんだから、池にきまってるでしょう、と。同様に、ウォシュレットで「洗浄」といったら、何を洗うってお尻に決まってるんだから、お尻と書かなくてもよいでしょう、と。これは厳密には「翻訳」ではないかもしれません。翻訳という名の下に外国語(この場合は英語)で看板を「作成」していると言ってもよい。入ってはいけない場所があって、そこに人を入れないようにするという「目的」がまずあり、その目的に対し同じような状況で英語圏ではどのような表現が使われているか調べ、それを採用する、というプロセスです。(この話はこれ以上深入りすると「翻訳とは何か」と言う議論になってしまいますので、ここでやめておきますが。)
ウェブサイトの作成もこれと同じようなところがあって、日本版をただ翻訳しただけでは良いグローバル・ウェブサイトになるわけではないんですよね。まず、海外に向けてどのような情報を伝えたいかを決めて、それを効果的に伝えられるような「見せ方(演出)」をしなければなりません。「翻訳」ではなく、目的に沿ったウェブサイトを英語で「作成」するわけです。これには、翻訳者やネイティブチェッカーはもちろん、英語圏で活躍するコピーライターやウェブデザイナー、いや、そもそもウェブサイト全体の戦略的な構成を考える優秀なコンサルタントの関与も必要になってくるのではないかと思います。「プロの手」と書いたのはそう言う意味です。
こう書いていくと、「デジタル化」そのものと考え方に共通点があるような気がします。人間のニーズをうまく解釈してデジタルで実現するという。ただ置き換えただけじゃダメだという。
ちなみに、台湾政府のデジタル組織のウェブサイトはこちら。
うん、なんかレベルが違いますね。まぁ、日本がウェブサイトだけ立派でもこれまた批判の種となってしまいそうなので、身の丈に合ったサイトってことなんでしょうかね・・・。
それはそうと、わたくし「デジタル監」という言葉、今回初めて聞きました。英語ではChief Digital Officerだそうですね。(ワシントンポストの記事)それにしても、この「デジタル庁」というパネルを二人で持っている状況、とてもシュールです。何かのジョークなのかとすら・・・。このデとジの濁点にすごいこだわりが隠れているらしいですね。What the **** is the Digital Agency?.... そんな疑問が頭をよぎります。その答えをこれから見守っていきましょう。