ショートショート:【面接官の本音】
鳥島田(とりしまだ)は株式会社タテマエに務めていて、今は課長をしている。
今年も新卒採用の時期なのだが、鳥島田は憂鬱だった。
タテマエ社では面接官を各課の課長が当番で回すことになっており、今週は鳥島田の番だったのだ。
(あー、めんどくせえなあ。最近の学生ってなんでこう、クソ難しい質問してくるんだろ。舐められないように答えるのメッチャだるいんだよちくしょー)
9時50分。
今日一人目の面接がもうすぐなので、面接室に向かって重い腰を上げた。
「持ち前の元気で御社に貢献したいと思います!」
「元気なのは武器になりますね。」(どうせカラ元気だろうが)
「御社の製品は世界一です。それを広めたいです!」
「いい製品を届けるのは我が社の義務ですかえらね」(ぶっちゃけ競合のホンネ社のが品質いいけどな)
「自由な社風にあこがれまして!」
(はいはい表向きはなー)
「部長とゼミ長とサークル長とバイトリーダー兼務してました!」
(この時期そういうの増えるよなー)
「私の長所は・・・!」
「私の強みは・・・!」
「私・・・・!」
「・・・」
(あーーーもう!めんどくせえええええ!)
「はい、次の方どうぞ」(お、この子けっこう美人だな。内外崎りりか、さんか)
そのような不純なことを考えるのも、面接をし始めたころは多少罪悪感があったが、もはやこれくらいしか楽しみがない、というのが鳥島田の本音だった。
今日最後のこの面接もその他と同じように進んだが、最後に最も嫌な質問をしなければならなかった。
「何か質問はありますか?」
これを聞くとたいてい、意識の高い学生は小難しい質問をしてくるのだ。どうせ興味なんか1ミリも無えだろうという薄っぺらい質問が来る。鳥島田は身構えた。
「質問ではないんですけど・・・」
(キタ!これはめんどくさい兆候!ウゼエ!)
「求める人材、という項目に、本音で語れる人材とありますが、他の学生さんはどれくらい本音で語りましたか?私ももっと本音で話したいと思うんですが・・・」
「あ、ああ。本音、ね。そりゃあね、けっこう皆さん本音でバシバシと。ははっ。どうぞ、あなたも本音で」(なんだコイツ!?)
「ありがとうございます。あの、ぶっちゃけほんとに本音で話されてますか?」
(はああ?めんどくせえよーーもうー帰りたいよーー。)
泣きそうになりがながら、鳥島田の中で何かがプツッと切れた。
「いやあ、すいません。私もね、ぶっちゃけると全然ホンネじゃないです。ほんというと、面接とかまじでダルくてやってられません。特にあなたみたいな質問してくる学生とか災害レベルです」
「そうですよね。私も面接とかクソだるくて、今日もほんとめんどくさかったんです。ぶっちゃけ御社にもほぼ興味ありませんし、まあスベり止めです」
「ですよね。まあぶっちゃけ面接に来るやつらなんてほぼウソとか建前ばっかりですから。そんな人間はクソです。内外崎さんはほんとに本音だしイイですね。カワイイし、個人的には採用したいです。」
「エロい目で見てるんですね。嫌いじゃないですけど。私も本音をぶつけられる会社に入りたいと思ってます。鳥島田さんとお話ししてて、最初この人ウソばっかだなーって思ってました。でも本音出して下さって嬉しかったです」
「本音出してきますねー。ぶっちゃけウチの製品とホンネ社のやつ、どっちがいいと思います?」
「そりゃあホンネ社ですよ。タテマエ社のはクソです」
「わかります。てか本音言うと面接とかもうめんどいんで、終わりでいいですか」
「私もそう思ってました。ムダに長げーなーって。」
「で、鳥島田くん。今期の採用者は?」
「はい。えーっとこの2番目と5番めと、、、」
履歴書をペラペラとめくって内定者をピックアップしていく。
一番最後の履歴書で一瞬止まった。
「その学生は?」
「あー、ええ。不採用です」
そう言って採用以外の履歴書をぺっと脇にはねた。
「社長。採用はこれでいきたいと思います。この子たちはしっかりと自分の意見を本音で語っていました。我が社に必要な人材かと。」
りりかはカズトでポテトをつまみながら、同じく就活生のミホと駄弁っていた。
「りりかー就活どうよー」
「さっきタテマエの最終面接だったの。マジダルかったー。」
「で、どうだったの?」
「さあねーぶっちゃけ行きたくなかったし。本音で言っちゃえばよかったかなー」
「面接で入りたくないですとか言うやついるー?ウケるー」
「だって本音で語れる人材がほしいーとか言ってたよー。面接官の人はわりと良かったけどね。ノリが合ったし」
鳥島田は退勤し、家路につく。
カズトを通りがかると、夕方の店内は混み合っていた。
(あー疲れたー。いい子だったけど本音で語られちゃうとな採用なんかできないよなー。今年もウソとタテマエを語り、ウソとタテマエの人材を採用しちまった。ビールでも飲んでこ。)