カタログ「THE DICTIONARY」から学ぶ、 没入感あるブランド体験
私は洋服が好きです。
学生の頃は古着屋のアルバイトをして、稼いだお金のほとんどを洋服に使い、訳のわからない貧乏生活をしていました。。お店を見るのも好きで当時は原宿から渋谷にかけて明治通りにあるセレクトショップや古着屋を片っ端から順に見ては洋服をチェックしていました。
ただ洋服を見るだけでなく、お店に置いてある無料のカタログを毎シーズン(SS/AW)の始まりには必ず取りに行き収集していて、デザインや編集の参考にもしています。
主にファッションなどのブランドカタログは、商品をただ載せるだけではなく、冊子全体を通してブランドの世界観を伝えていて、素敵なカタログはその世界観へと読者を引き込みます。そういったカタログになぜ引き込まれるのか自分なりにポイントを整理して、まとめてみたいと思います。
ファッションが好きな人、カタログを作られる方の参考になれば嬉しいです。
集めたカタログを取り出す
下の写真は今まで集めたカタログです。BEAMSやTOMORROWLAND、UNITED ARROWSなどセレクトショップやファッション以外のものまで数多く集まりました。その中でも特に私が好きだったのはURBAN RESEARCH DOORSから出ていた「THE DICTIONARY」というカタログ。現在はWEBカタログに移行していて、10年前くらいに数年間刊行されていた無料のカタログです。当時の仕事では、このカタログのレイアウトやページネーションや撮影方法など、かなり勉強させてもらいました。
その「THE DICTIONARY」の好きなポイントをいくつか紹介します。
1.雰囲気溢れ出る写真
THE DICTIONARY 2014 vol.14の写真が一番印象的で、ノスタルジーな雰囲気がありつつ、色味やコントラスト、抜け感が繊細でとても好きでした。写真だけど止まった印象ではなく、日常の1シーンがそのまま切り取られていて時の流れを感じ引き込まれていきます。これらを撮影したのは加藤新作さんという方でアクタスや伊勢丹のカタログ撮影をされている人気のフォトグラファーです。
りんごをさらっとカッコよく撮る感じがなんとも素敵だなと思いました。 ただ、どのような依頼の仕方をすれば、このように商品そのものではなくブランドの世界観や空気感を表現したような写真を撮影してもらうことができるのでしょうか。おそらく商品撮影の合間にロケ先で自由に撮影してもらい、使用したのではないかと推察します。(私の案件で念願叶ってご依頼ができたときは嬉しかったです。とても素敵な方でした!)
2.巧みなレイアウトが豊富
このカタログのもう一つの特徴として、紙面のレイアウトデザインがあると思います。エッジの効いたレイアウトがあれば、空間を活かすレイアウトもあって、切り抜きと角ハンの写真の使い方の方法、一見バラバラのように見えて、マージンやフォントの使い方などでカタログ全体としてバランスが取れていて、デザイナーとして勉強になります。カタログを作る時にスタイルやフォーマットをガチガチに決めて数人で作業をすることがありましたが、すべてが揃い過ぎていると綺麗には見える反面、硬く垢抜けない印象になってしまい、見る人を飽きさせてしまう。マージンの使い方に捉われすぎない、動きのあるレイアウトは見ていて爽快でした。
3.読み終えた後の余韻
「THE DICTIONARY」にはストーリーが感じられます。見続けていくと風景が広がったり、コラムが入ってきたり、挿しイラストで心を掴まれたり。そういった情景を経て、着たくなる、使いたくなる商品が程よく掲載されていて、言葉で語られなくても物語へ没入していく感覚があります。
企業やプロモーション用のカタログでは、費用面などからどうしても販売の色が濃く出てしまい、商品に関する具体的な情報を多く掲載しようとする傾向がありますが、こういったページの間の使い方や写真による雰囲気作りがカタログとしての魅力を立たせていると思いました。
引き込まれる感覚とは何か
ブランドに魅力を感じ、その世界に引き込まれていくことに対して没入感という言葉で表現。没入感とは熱中すること、打ち込めていることという意味があり、例えば、映画ではその世界に気持ちが入りこんでいき、熱中しているかどうかが没入感になります。私はこの没入感という言葉が、深く感情移入できそうな期待や状態を表す言葉であり、「THE DICTIONARY」において適した表現ができる言葉だと思いました。
側から見た時に大渦が巻いていて、「ここに入って行けば違う物語に進むんじゃないか」という期待と状態を表したのがこちらのイメージ図です。
「THE DICTIONARY」の没入感
この没入感がこそが「THE DICTIONARY」において私はすごく大事なポイントな気がしています。その理由の一つにこのカタログが無料で店頭に置いてあるものだということ。私みたいな人だったらまだいいですし、好きなブランドであれば持って帰って読む人もいると思いますが、そうでない人からすると100ページ以上あるこのカタログは荷物だし、ただのセールスにしかならない。だけど、どうやったら読んでもらえるか、多くの魅力を伝えることができるか、商品を買ってもらってブランドを好きになってもらえるのか、このカタログの没入感は、読者に対してブランドの魅力そのものを体験してもらいたいという強い思いが感じられます。
無料配布にも関わらず雑誌のような編集が入った構成になっているカタログは、費用面を考えるとここまで作り込むことが難しいと感じてしまうのですが、どうやってクオリティ高く読み物として仕上げていくのか、すごく興味を持って見ていました。
こちらは実際のページネーションです。
・表紙&裏表紙
・扉 ・写真①(ランドスケープ)
・目次 ・記事コラム①(ART)
・特集1(婦人モデル/ロケ) ・商品①(物撮り)
・トピック①(ブランド) ・トピック②(キッズ)
・特集2(紳士モデル/ロケ) ・商品②(物撮り)
・トピック③(フォーマル) ・特集③(ライフスタイル)
・特集④(インテリア) ・記事コラム②(ART)
・写真③(日常) ・奥付
ページが進むにつれて徐々に販売の色が濃くなり具体的な商品情報が増えていくのがわかります。雑誌のような編集がされていて、読者の気持ちが高まってきたところで商品特集が組まれていいます。ブランドとしての見せ方と商品情報の掲載の仕方がうまくグラデーションになっているので、見飽きさせない作りでブランド体験の向上につながっていました。
紙面に占める商品の具体的な情報の多さで色分けしてみると自然なグラデーションができるヒートマップになります。気持ちの遷移が見えてくるような気がします。
デザイナーとして活かせること
ストーリーを作りでブランド体験を向上させる
デザイナーだけでカタログを作る時も、そのページのデザインやパーツへのこだわりだけでなく、媒体全体で考えることが大事です。こちらから一方的に伝えたいことを伝えるカタログではなく、読み手を引き込みブランドを好きになってもらうためには、ページネーションの工夫次第で物語に引き込むブランド体験を求められます。
没入感を考えながらデザインする
プレゼン資料や営業資料においても、没入感の必要性が一定ある気がしました。例えば、章の始まりに扉を設けて間を作り期待感を出すことや、具体的な情報を先に掲載してインパクトを与えてから、内容をじっくり読んでもらうことなど、読者の気持ちを高めて引き込むことができると思います。デザインで強調するだけでも資料としての没入感が変わってくると思いました。
現在、SPEEDAではブランドブックを制作しています。プロダクトで使われているデザインパーツやビジュアル、UIとBXが創り上げてきたブランドに関わるクリエイティブを盛り込んだブックです。ページとしての間の使いかたや印刷方法、ページをめくった時の体験、余白の使い方など、手に取ってくれた方が最後まで目を通し引き込まれるようなブランドブックを目指します。今回のブランドブック制作は、ページの編集で没入感を抱くことよりも、ブックとして紙や加工などすべての作りが丁寧に組み合わさった時に読者の気持ちが高まり没入感に繋がっていくのではないかと思います。
引用: URBAN RESEARCH THE DICTIONARY 2014 AW vol.14
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