制作会社からインハウスのデザイナーになって、デザインブックを作ったら、初めて海外賞を取れた話
はじめに
SPEEDA DESIGN BOOKの制作過程について振り返りながら執筆しました。様々な過程を経て完成し、ようやく披露することができて嬉しいです。
今回の制作過程が、制作会社からインハウスデザイナーになって、賞の応募に挑戦する際の参考になれば幸いです。
Red Dotの受賞は私たちの取り組みが評価されたことで、デザイナーとしての自信を深めることができました。
SPEEDA DESIGN BOOKは、SPEEDA事業の経営者、デザイナー、エンジニア、マーケター、セールス、そしてプロダクトマネージャーを対象に、デザインシステムとブランドについて、横断的かつ包括的に理解を深めることを目的として作られました。 本書をコミュニケーションツールとして、多様な専門領域を持つチームメンバーが、職種を超えてデザインシステムとブランドに対して、興味を持ち、デザイン活動に参加することを可能とします。
Red dot受賞の背景
Red Dot Design Awardは、 iF DESIGN AWARD、International Design Excellence Awards (IDEA)と並ぶ「世界三大デザイン賞」の一つで、国際的に権威のあるデザイン賞です。
今回「Red Dot Award: Brands & Communication Design 2023」においてSPEEDA DESIGN BOOKを出品し、Winnerに選出されました!
私たちは 、SPEEDAブランドを1000年以上保存するためにバインダー型の本というメディアを選びました。 紙の本は劣化しますが、WEBよりも保存性が高いためです。日本には1000年以上前に作られた万葉集も現存しています。
一方、WEBはサーバーが壊れるとデータが無くなるリスクがあります。 SPEEDA DESIGN BOOKをバインダー型の本にしたことで、後世に引継ぎ、長い年月保存することが可能になります。
SPEEDA DESIGN BOOKのデザイン
SPEEDA DESIGN BOOKの表紙はグロスニスで光沢感のあるロゴを印刷し、繊維を感じ取れる黒い紙を選びました。
なぜなら、WEBサービスの背景デザインでは、ノイズ処理を表現される質感を使用し、光を感じるを表現をSPEEDAのアイデンティティとして、大切にしているからです。これにより、ブランドの世界観をWEBサービスとバインダー型の本でつなげています。
また、ページの判型は3種類あります。182mm×257mmサイズの通常ページ、それを153mmにカットしたページ。
そして、三つ折りサイズのページです。通常ページには、原則やプロジェクトの情報を掲載し、カットしたページにはコンポーネントの情報を掲載しています。三つ折りサイズのページには、フォントや色彩、アイコンなど基礎的な情報を掲載しています。そうすることで、情報を伝えるだけでなく、ページの形状や内容の違いを楽しみながら、より深い没入感へ導きます。
それでは写真でSPEEDA DESIGN BOOKをご覧ください。
制作過程について
SPEEDA DESIGN BOOKは、2022年6月から約1年かけて編集・制作されました。この1年の間、私たちは様々な議論を重ね、綿密な検討を積み重ねながら、このブックを創り上げることができました。
制作過程の各ポイントについてご紹介いたします。
掲載内容のアイデア出し
デザインに関わるチームメンバーは、各自がブックに掲載したい情報についてアイデアを出し合い議論しました。この段階では、SPEEDAに関連するデザインをリストアップしながら、それらをどのように提示し、伝えるかについてアイデアを展開し、掲載する情報を検討しました。
全員がすべてのプロジェクトに関与しているわけではないため、プロジェクトの内容や成果を共有しました。
ページネーション(台割)の構成を考える
まず、掲載する情報が固まった段階で、コンテンツの順番や各ページに割り当てる情報量を調整しました。ページの流れを確認しながら、情報の属性が近いものや関連性のあるコンテンツを自然な流れで配置し、読者がストレスなく最後まで読み進められるよう工夫しました。
大きく3つの構成にグルーピングし、それぞれのグループごとに異なる判型(ページのサイズ)を採用することで、ブック全体を通してのメリハリをつけ、読者が1冊通して楽しめるような構成にしました。
手書きのレイアウトを組む
構成が決まったら、手書きでラフな紙面レイアウトを組んでいきます。手書きにすることで柔軟にレイアウトのアイデアを考えることができます。
また、レイアウトしながら、どの写真や文言を使うと誌面のレイアウトが良くなるか見えてきます。ブック全体のバランスを見ながらデザインの方向性を固めていきます。
デザインの検証、ブラッシュアップの繰り返し
レイアウトの方向性が確定し、掲載情報が整理された段階で、具体的なデザイン作業に着手します。デザイン作業は2人で行いました。デザインを完成させた後、実際のサイズでプリントし、壁面に並べて確認します。
この段階では、全体を客観的に見ながらフィードバックを得て、レイアウトの調整を行います。繰り返しのフィードバックと調整を通じて、品質を向上させるためにブラッシュアップ作業を行いました。
ブックのリファレンスを集める
ブックの仕様イメージを具体化させるために、他社のブランドブックやバインダー型の本、三つ折りや箔押しなど、製本の参考になりそうな書籍をメンバーと共有しながら収集しました。実際の紙や装丁、バインダーのリングなど、物理的な仕上がりや質感を手で触りながら確認し、ブックの実際の仕様イメージを具体化する作業を進めました。
紙の選定を行い、束見本を作る
紙の選定に際して、神保町のTAKEO 見本帖本店を訪れ、紙の質感や白のバランス、ハリなどを直接手で確かめながら決定しました。実際の印刷物を見ながら、紙と印刷の仕上がりも手に取って確認できます。
紙の選定後、印刷会社に束見本を作成していただき、めくりやすさやリングに対するバランスも考慮して、紙の斤量(厚さ)を決めました。以下はSPEEDA DESIGN BOOKの仕様です。
バインダーの設計について
バインダーの設計において、開閉の方法やリングの仕様、本紙とバインダーとの余白のバランスなど、さまざまな要素を検討しました。
特に重要だったのはリングの選定でした。リングの開閉方法や穴の数、取り付け方、素材感などを慎重に検討しました。穴の数が多すぎると事務的な印象になり、少なすぎると機能面に問題が生じます。
多種多様なリングを検討した結果、本紙(B5)と非常にバランスが良かったのが3つ穴のD型リングでした。このタイプのリングはページの端に位置し、読んでいても気になりません。また、一般的なO型のリングでは後のページの重なりがずれることがありますが、D型のリングにすることでページが綺麗に重なるようになり、読みやすく、書籍のような没入感を演出することができます。
色校の確認
印刷物であるため、色校の確認を行っています。通常、印刷物はCMYKで印刷されますが、SPEEDAはデジタルのプロダクトなので、すべてのデザインはRGBで設定されていました。そのため、色校の確認は計3回行い、細心の注意を払いました。また、ブランドカラーに関しては、チームメンバーで画面と照らし合わせながら、今回のブックのためにパントーンで色の設定を行いブランドカラーの再現性や効果を検証しました。
SPEEDAのデザイナーが目指す未来
SPEEDAは「誰もがビジネスを楽しめる世界を作る」ためのWEBサービスです。その目的のもと、後世にSPEEDAを引き継ぎながら広く普及させることで、理想の世界を築いていくことを目指しています。
私たちは、SPEEDAのデザイン要素をバインダー型の本にまとめることで、その資産価値を最大化しています。このアプローチによって、情報を長期的に活用し続ける仕組みができました。
その結果、私たちは理想とする世界の実現に向けて、持続可能な活動を支援し続けていきます。引き継ぎや進化を通じて、より良い未来への貢献を目指しています。