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行事・暦の俳句 12月(季節を味わう#0089)

世界で一番短い詩、俳句。
2024年度からは毎月第3水曜日の「季節を味わう」で その月の行事や暦をピックアップ、関連する俳句をご紹介します。
さまざまな行事・催し・暦の中から私の好みで選びました。


【顔見世】

顔見世は冬の季語です。
江戸中期から幕末にかけて、興行主は毎年11月に俳優(歌舞伎俳優)と契約更新していました。そして新しく契約した俳優を披露する興行のことを「顔見世」と言いました。
明治以降は顔見世興行が廃れていきましたが、今でも京都四条大橋の袂にある南座の十二月興行は顔見世と呼ばれ、江戸時代の名残を止めていますし、独特な書体で俳優の名前を書いた「まねき」を飾る「まねき上け」は季節の恒例行事として毎年ニュースになります。
私は20年ほど前、母と二人で顔見世を見に行ったことがあります。普通のプレイガイドでチケットを入手しました。実際に座席に座ってみると、どういうわけか、周囲が全部「玄人さん」ばかり。舞妓さんや芸者さんの真ん中に私たち二人がポツンと座っている状態で、眼福な反面、自分たちが場違いな気がしました。その日は雨まじりの雪の降る日で、私たちは洋服でしたが、周囲はもちろん着物です。雨ゴートや雨用の草履など、芸舞妓さんたちの雨の日の用意をまじまじと見られたのは勉強になりました。また、お隣に座った芸妓さんは黒地にクリスマス柄の帯を締めておられ、一年のごく数日しか身につけられない帯をお持ちなんだなぁ、さすがだなぁと思った記憶があります。

顔見世の楽屋入まで清水に  中村吉右衛門

この句の詠み手は初代 中村吉右衛門。明治末から昭和にかけて活躍した歌舞伎俳優です。『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助などの時代物の立役から『恋飛脚大和往来』(封印切)の忠兵衛のような世話者まで、幅広くたくさんの当たり役を持っていました。
趣味は弓道と俳句で、俳句は高浜虚子のお弟子さんでした。
この俳句は、京都南座の顔見世興行に出演している時の句で、楽屋入りする前に清水寺に参拝したという句です。
清水寺から南座までは早足で20分、のんびり歩いたら30分くらい、十分歩いて移動できる距離です。千秋楽まで、無事に公演が行われることや、大入りを祈願したのかも知れませんね。
ちなみに、ドラマ『鬼平犯科帳』でお馴染みだった故 中村吉右衛門さんは二代目で、俳句より絵の方がお得意だったようです。

(2024年12月18日)


「季節を味わう」は大阪府箕面市のラジオ局 みのおエフエムの毎週水曜日午前11:30と午後8:40から放送しています。
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