宝塚歌劇 初舞台公演あれこれ(2023年4月)
みのおエフエムで毎月第4週目にお送りするコーナー『今月のMyスポットライト』は大好きな舞台やエンターテイメントを熱く語る時間。
今月のテーマは「初舞台生」。
タカラジェンヌとしての第一歩、初舞台について、思い出をまじえながら番組内で語ったものを文字化した。
時間の都合上、番組内で語れなかったことも掲載する。
なお、芸名は敬称略で失礼する。
口上
宝塚歌劇団に入団する入り口はただ一つ、宝塚音楽学校のみ。宝塚音楽学校に合格し、2年間舞台人としての基礎を学んで卒業した生徒だけが宝塚歌劇団に入団することができる。
宝塚歌劇団に入団した生徒たちは4月の公演で同期と共に初舞台を踏む。その後5つの組に配属されるため、同期全員で同じ舞台に立てる最初で最後の機会だ。
初舞台生は、初舞台公演では通常、口上とラインダンスを披露する。
口上は、通常公演の開演前に行われるのが通例だ。そのため、初舞台公演では口上が始まるとしばらくは客席に出入りする事ができなくなるため、早めの入場を促すアナウンスが流れる。
影アナウンスによる組長からの紹介の後、緞帳が上がると、舞台上には初舞台生がタカラジェンヌの正装である黒紋付に緑の袴で一列に整列。その列より前に3人が代表として立ち挨拶するのが宝塚歌劇の口上の定番だ。
ちなみに、緑の袴と紋付は宝塚音楽学校入学時に採寸・発注されるものだが、この口上で着用するのは劇団が用意している衣装であり私服ではない。
口上は多少のアレンジはあるにせよ、内容は毎年ほぼ同じである。
・私たち第○○○期生はこの公演で初舞台に立たせていただきます
・創始者である小林一三先生の教え「清く正しく美しく」を守って精進いたします
・今後もご指導ご鞭撻をお願いいたします
この3点を3人(初日からのローテーションによっては2人の時もある)が割り台詞で語っていき、最後にセンターの一人が「よろしく」と言った後、後ろに控えていた生徒も全員が「お願いいたします」と声を合わせて、お辞儀をする、というのが定型だ。
背筋が伸びた生徒たちのお辞儀は美しい。沸き起こる拍手とともに、オーケストラが独特なイントロを奏で、宝塚歌劇団歌の合唱へと移る。
この歌劇団歌が良いのだ!「宝塚、我が宝塚」で始まるこの歌は、マーチのような勇ましさすら感じる導入部から、男役と娘役の美しいハーモニーの中盤、歌い上げる終盤へと続いていく。歌詞もメロディーも覚えやすく、何年か宝塚歌劇を見続けていれば自然と覚えてしまい、歌詞カードなどなくても歌える人は多いと思う。私ももちろんその中の一人であり、客席で初舞台生を見守りつつ、心の中で一緒に歌うことを毎年の楽しみとしている。
ところが、公演によってはこの歌劇団歌が歌われない年もある。
宝塚歌劇の代名詞である「清く正しく美しく」の歌に合わせてひとさし舞う年もあれば、日本物の場合、お芝居の中に初舞台生の口上を入れる場合があるのだ。それは劇中劇の趣向なので、衣装も黒紋付きに袴姿ではなく、ピンク色の着物姿の禿に扮していたりする。背の高い男役の中には禿姿がびっくりするほど似合わない生徒もおり、のちに本人も自分の初舞台の写真を見て笑うこともあるようだ。今ふうに言えば、ちょっとした「黒歴史」かもしれない。
どのような形であれ、タカラジェンヌ人生においてただ一度の初舞台口上は初々しく素晴らしいと思う。
だが、私個人の好みとしては、毎年紋付き袴姿でご挨拶、歌劇団歌の合唱にしてほしい。一緒に歌いたいから。
ラインダンス
ロケットダンスともいう。
全員が一列になって脚を揃えて踊るラインダンスは、通常公演でも行われているが、初舞台生のラインダンスは約40名、通常公演のラインダンスより人数が多い。
ラインダンスの振り付けが行われた後、グループごとに練習を重ねる。聞くところによると、初舞台公演が行われる組の上級生が各グループの指導にあたるらしい。上級生の顔に泥を塗る事があってはならない、と、稽古に励むモチベーションになると聞く。グループごとに磨きをかけたあと、全員揃って踊るラインダンスの最初の観客は初舞台公演を行う組の上級生たちだ。完成したラインダンスを稽古場で上級生に見てもらう場面を関西ローカルニュースなどでご覧になった方も多いと思う。
そして本当の舞台へ。おそらく、本衣装を身につけて踊るのは、レオタード姿での稽古とは違うであろう。初舞台生の衣装は公演によって素材も飾りも違う。レオタードと同じように伸縮性のある衣装の時もあれば、見るからに動きにくそうな衣装の時もある。条件は違っても毎年初舞台生は満面の笑顔で踊っている。そんな初舞台生を見ると、親や親戚でもないのに目頭が熱くなるのは私だけではないと思う。
ラインダンスといえば、全員で同じ振り付けを踊るように思われるかもしれないが、初舞台のラインダンスでは、数人がピックアップされ目立つ振り付けが行われる事がある。また、通常公演よりたっぷり時間をとっていることと、ポーズを決めた後、一列になり銀橋を渡るのも初舞台ならではだ。
ちなみに、私の中では初舞台生のロケットといえば、喜多弘先生の振付が印象深い。
例外
通常、初舞台生の出番は口上とラインダンス、そしてフィナーレだけであるが、周年記念公演などの場合、それ以外にも出番がある年もある。
だが、たいていの場合、初舞台生にとっては出番の間隔は長すぎる。そのため楽屋で食べ過ぎ(コロナ以前は食べ物の差し入れがOKだった)初日から千秋楽の間に体重が増加、別人のようにコロコロになってしまったというエピソードもたまに聞く。おそらくラインダンスの衣装がレオタードのような素材の場合、太っても着る事ができるためそのようなことも起こるのであろう。
メイク
最近の初舞台生はメイクが上手になっていると思う。
私が宝塚歌劇を初めてみた昭和50年代(1970年から1980年ごろ)、初舞台生の中にはびっくりするくらい珍妙なメイクの人がいた。はっきり言ってメイクアップではなくメイクダウンだ。珍妙ではないにせよ、まだ自分の顔のどこを際立たせればより綺麗に見えるのか、わかっていない状態の人が多かったのだと思う。
ところが最近の初舞台生は、化粧が上手な人が多いと思う。もちろん不慣れな感じはするけれど、二度見するほどひどい化粧の人がいなくなった。良いことなのだが、ちょっと寂しい気もする。
いずれにしても、初舞台生が持っている初々しい輝きは独特のものがあり、観客に感動や元気、勇気をくれるものだ。
チャンスがあるならぜひ初舞台公演を見てほしい。
(2023年4月26日)