3月20日は「LPレコード」の日

先週の話だが「金沢蓄音機館」に行ってきた。

そこには、なんと100年前にエジソンが発明した蓄音機があり、しかも現役で動いていたのだ。蓄音機に円盤より古い、円筒のレコードをセットするとおぼろげなハワイアンミュージックが流れてくる。実に100年前の音が聞こえてきたのであった。

レコードとは実に原始的で、「糸電話」を想像してほしい。コップに向かって声を出したら糸が震えて声が伝わる。そのとき、コンピュータを使わなくても声が「糸の振動」というデータに変換されているわけだ。糸ではなく、針をつけるとどうなるか。針先に板を置いておくと、振動にあわせて板に傷がつくわけだ。それがレコード。音が記録できるのだ。

はじめはトイレットペーパーの芯のような円筒の形をしていたレコードは、音質や、かさばりにくさを研ぎ澄ませていくうちに円盤になっていった。ちなみに蓄音機の場合、ラッパの材質によっても音が変わる。鉄なのか木なのか紙なのか。どれがいいという話ではなく、硬水と軟水のように、耳あたりとも言うべき音質を選べる。事実、6台ほど聞き比べした後で、どの蓄音機が欲しいですか?と聞かれたとき、お客さんが選んだ蓄音機はみんなバラバラだった。音の好みというのはこれほどまでに千差万別なのだ。ちなみに、金沢蓄音機館には500以上の蓄音機がある。

館長さんの話によると、蓄音機のレコードを聞いて、突然泣き出してしまったお婆さんがいたそうだ。幼いころ、父が同じ曲を蓄音機で聞いていて、完全に忘れていたその記憶が蘇ったらしいという。こんな話もあった。ハイレゾと蓄音機とどちらがいいかという話になったとき、当時の蓄音機は高価で一部の限られた人しか聞けない音だったのだとしたら、現在は10万も出せば誰でも聴けるハイレゾのほうがいいのかもしれないと答えたお客さんがいたという。なるほど、とぼくは思った。

いずれにせよ、館長さんが言いたかったのは、レコードがいい、デジタルがいい、という優劣はないということ。ただ、レコードには記憶が詰まっていて、当時の音で蘇る記憶や世界があるということだ。レコードの時代に生きていないぼくでも、じわっと胸が熱くなった。100年前の音を、100年前の人たちと同じように聞く。そこには、記録としてのレコードではなく、記憶としてのメモリアルが、確かにあると思うのだった。

3月20日は「LPレコード」の日

1951年のこの日、日本コロムビアから日本で初めてLPレコードが発売されたことに由来。


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