時代遅れのシュプテンと現代を歩いてみよう
はじめて欲しいと思ったスニーカーは「シュプテン」。正式名称は「Air More Uptempo Supreme "Suptempo" Red」。
出会いはおそらく2017年。雑誌の表紙を飾っていたのを見て「懐かしい」と思った記憶がある。中学・高校時代はバスケ部だったので「モアテン」を履いていた部活メイトを思い出したのだ。ぼくは後追いでマネしたと思われるのが嫌でアシックスを履いていたが、そのデザインをカッコいいなぁと密かに憧れていた。
そう、モアテンは1996年に生まれたバスケットシューズ。ブルズのピッペンが履いて有名になったが、当時の時代背景をもとにポップアートやグラフィティにインスピレーションを受けたモデル。アッパーに大きく配置された「AIR」の文字がアイデンティティ──であるはずが、「AIR」が「SUP」になっている。
当時のぼくはSupremeを知らなかった。それでも、SUPでブルズな赤色をカッコいいと思った。バスケ部だったというアイデンティティを身にまといたいというエゴも湧いてきた。定価は21,600円。どうしても欲しいなら買えなくはない。でも、派手すぎて、どんなふうに履けばよいのか想像がつかない。迷った末に諦めた。
それから数年の時が流れるうちにシュプテンは「プレ値」を代表するモデルになっていた。とくに、新品・未使用の「Red」は20万の値がつくほど高騰している。ただし、フェイク品があまりに多いのでネットで買うことのハードルが高い。SUPの縫い目だったり、紐の先っちょだったり、ソールの文字の彫り具合だったり、チェックポイントは箱の薄紙にまでおよぶ。
フェイク品のクオリティも無駄に高いため、どこまで調べても限界がある。結局は、売り手のライフスタイルから信頼度を想像するという本質に辿り着き、2020年に55,000円の中古を購入した。そして、届いたシュプテンを見て「本物である」と自分は信じることができている。
後にも先にも、自分史上最高額のスニーカーだ。服に合わせづらいことなど自己満が凌駕してくれる。しかし、一度は履いて出かけたものの、もったいなくてなかなか履く勇気が持てない。昔からそうだ。カードダスで集めたキラカードを筆箱に貼りたい気持ちがあったのに、もったいなくて貼る勇気が持てなかった。そうして大切にしすぎているうちに大人になり、大量のキラカードを1,000円で出品するような結末を迎える。1,000円で売るぐらいなら貼っておけばよかったなぁ、なんてかすかに憂いながら。
モアテンにも言えることだが、今やシュプテンはその主張の強いデザインからして時代遅れと揶揄されている。今さらSupremeというのも少し気恥ずかしい。しかし、いかにも加水分解が起こりやすそうなシュプテンである。早く履いておかねば、履いておけばよかったなぁ、なんて憂うことになりかねない。いや、シュプテンなら今から売っても元は取れる。それよりも、履きたい。そんな気持ちが湧いてくる。
選ぶのは、当然、赤。今こそコールドスリープから目覚めるとき。
真空のビニールに包まれた冷暗所から外の世界に連れ出そう。この時代遅れのスニーカーと一緒に現代を歩いてみよう。なにぶん古いスニーカーである。寿命はすでに差し迫っているかもしれない。それでも、棺桶のような箱の中で加水分解するより、地面の上で「太陽のせいだ」と言えたほうが、きっと最後にふさわしい。
にしても、やっぱ派手やな。
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