太田三郎の雑誌口絵の切り抜き
知人から、太田三郎の雑誌口絵の切り抜きをいただいた。当方が太田のことを調べていることをご存じで、古書市で見つけて送ってくださったのである。
多色石版である。高精細画像なので、木の幹を拡大していただくと、石版特有の紋様が見出されるだろう。
太田は雑誌(『女学世界』や『少女画報』など)の表紙画や口絵を多数描いている。
これは女性像から見て、女学生対象の雑誌ではなく、成人女性を読者とするいわゆる婦人雑誌に掲載されたのではないかと推測される。
「社頭の杉」という語で、ある検索サービスで調べてみると、大正3年に口絵が何点か見つかったが、国立国会図書館デジタルコレクションのリンクにとぶと、惜しいかな別の絵であった。残念。
切り抜きは、出典を確定するのがむずかしい。
雑誌の総目録は、その雑誌の目次を元に作成される。表紙画、口絵は題が目次に記されている場合が多いが、挿絵は数が多い場合は、作者名のみが記される。
明治大正期の雑誌の掲載図版の一覧があれば便利だと思うが、作るのはたいへんだろう。
線のノイズが入っているのが気にかかる。
木版画では、彫りが不十分で、摺った色が乱れを生じることを「けつ」という語であらわしている。
凸版印刷でも版面の乱れ、汚れを「けつ」、「ケツ」と言っているので、石版にも応用してよいだろう。
さて、「けつ」はどこにあるかというと、2本の水平線が入っているところである。ヘッダー画像をみていただければ、女性の顔を横切るように線が入っているのがわかるだろう。
もう1本、着物の裾模様のあたりに線が入っている。
これって、インクジェットのプリンターをしばらく使わないと起きる現象に似ている。ヘッドクリーニングをすると改善する。回転部にたまったゴミなどを取り除くのだろう。
もしかして、多色石版は大きなローラーを使っていたのだろうか。
以下の拙ブログで紹介した《「アルチンボルドに触発された14の色版のリトグラフ オルドリッチ・イェーレン、ピーター・コルベラー」》という動画は、複雑な多色石版の工程をていねいに追っていて感心した。オフセットの原理に近い、ローラーの転写を行っている。
さて、太田の口絵もローラーを使っていたのだろうか。わからない。
印刷のことを調べていて、思うのは、その工程をよく知っているのは職人、労働者だけで、技術が変更されると、その工程についての知識も消えてしまうことが多いということである。
*ご一読くださりありがとうございました。
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