「博学多彩の画家として 清須ゆかりの作家 太田三郎展」図録を紹介する
「博学多彩の画家として 清須ゆかりの作家 太田三郎展」が始まってて少したつが、今回は図録を紹介することにしたい。
図録はB5版45ページで、価格は1000円である。
黒の表紙であるが、光をあてるとはっきりわかるように図、表題が印刷されている(ヘッダー画像は光をあてた状態の表紙)。
表紙は、読書する女性のスケッチ画、裏表紙は『ひこばえ』の表紙画が図案として印刷されている。
図録は展示の構成にそって作成されている。
展示は2室に分かれている。
清須市はるひ美術館のXが展示の様子をポストしているのでそれをを引用したい。
現在は、全体の展示風景の撮影は可能のようだ。
第1室は、日本画、油彩画が展示されている。
写真では、日本画《沈丁花》、《祭礼》、《婦人像》、《モデルたち》、《窓辺》がならんでいる。
この向かいに《三嬌図》がおかれている。
今回の展示では、白馬会系の描法である《婦人像》から渡欧をはさんで、褐色の裸婦像に作風が変化する様子を確認できる。
また、油彩画とは異なる日本画の端正な描き方にもふれることができる。
第2室は、肉筆のスケッチ画、絵葉書、版画などが展示されている。
絵葉書や、スケッチ画はデッキを使って、視線を近づけて見られるように展示されている。
点数は多いが、図録にはすべてが網羅されていないので、少し残念ではあるが、図録によって太田の多面性を把握することができる。
図録の構成に従って、簡単に内容を紹介していこう。
「商いと文化の地に生まれて」
三郎の父、太田仙草の日本画《源右府富士野巻狩之図》や、仙草の下絵をもとにした西枇杷島祭りの山車の高欄飾りの写真が掲げられている。
「画家として」
日本画2点《少婦凭榻(沈丁花)》、《祭礼》、そして山車の全体の写真がある。
「白馬会、光風会」
油彩画《婦人像》、《窓辺》、《第14回光風会展ポスター》が掲載されている。
チラシに使われた太田の書斎写真の下部が示されていて、チラシでは見えなかった、女性を描いた2点の油彩画が映っている。同じモデルに見えるが、もう実作はうしなわれているのだろう。
「文展、帝展、新文展」
油彩画《三嬌図》、《モデルたち》を掲載。代赭色の裸婦たち。
文展3等賞の《カツフエの女》は、美術展覧会絵葉書を図版化したものが掲載。
「絵はがきブームと『ハガキ文学』」
雑誌『ハガキ文学』表紙画や絵はがきが紹介されている。
「スケッチの名手」
『スケツチ画法』の書影や、『小品画集蛇の殻』、『ひこばえ』からの作品の紹介。
「版画への挑戦」
版画《カフェーの女》とその掲載誌『現代の洋画』第23号版画号の書影。
《カフェーの女》は図版でも、バレンの跡が確認できる。
『朝霧』から版画の図版。
「お伽噺」
あまり見ることがない鹿島鳴秋『お伽図書館』(1912年、中西屋書店)の書影と挿絵の紹介。
解説文では「童画」のさきがけと評価されている。
「略画、自由自在」
絵手本である『略画の泉』(1933年、崇文堂)から略画の紹介。
太田が楽しみつつ描いたという矢田挿雲『太閤記』の挿絵の紹介。
川端康成『浅草紅団』の挿絵を『モダンTOKIO円舞曲 新興芸術派十二人(世界大都会先端ジャズ文学』(1930年、春陽堂)から紹介。
なお展示では、先進社版の『浅草紅団』(1930年)も見ることができる。
さらに、太田の絵物語の代表作『草花絵物語』(1911年、博文館・精美堂)から図版が紹介されている。
太田のサインの紹介もあり、ローマ字では「SAMURO」となっている。『日展史』の出品者一覧でも、「おおたさむろう」のルビが振ってあったのを記憶している。当人は「おおた・さむろう」と読んでほしいと考えていたのだろうか。
「愛知社と渡欧」
愛知社は1918年に結成された愛知出身の画家の集まり。
1920年からの渡欧の写真が4枚紹介されている。
モデルの女性、太田とともに、辻永、加藤静児、永地秀太が並んで映っている。
「家族への想い」
太田が編んだ、妻はまの遺作句集『厨屑』(1955年)の書影、太田夫妻の写真などが掲げられている。
「民俗学・文化人類学的関心」
太田は、武蔵野、ジャワ、戦中銃後の名古屋などを身をもって調査し、自分の画才を駆使して著作を刊行している。
『戦ふ名古屋』(1944年、名古屋市銃後奉公会)は国立国会図書館デジタルコレクションで個人送信資料として公開されている。
それぞれの調査の際に描かれた肉筆スケッチの写真図版が2ページにわたって紹介されている。
「愛知へ」
《東山動物園猛獣画廊壁画No.1》が見開きで紹介されている。
「愛知県文化会館」
美術館の設立に力を注いだ太田の活動を解説し、『愛知県文化会館美術館ニュース 窓口』第1号掲載のエッセイ「この美術館の行き方」が写真版で紹介されている。
ここまで、掲載図版中心に紹介してきたが、各項目の解説文が充実していることを書き添えておきたい。
巻末の論稿は2編。
山田諭氏の「太田三郎 忘れられた多能の洋画家」は、太田の画業を通観しつつ、その多面的活動を紹介している。《三嬌図》の日本画と洋画の技法が交錯、融合した技法の分析など学ぶところが多い。
拙稿の「印刷された絵画の領域で」は、絵はがきやスケッチ画など印刷された絵画における太田の活動を、具体事例を通して紹介し、『草花絵物語』や『朝霧』などは、近世以来の〈絵本〉の伝統を近代に再試行するものではないかという見方を示している。
巻末の「年譜」「主要参考文献」は労作で、今後の研究の基礎となるものである。
清須市はるひ美術館
〒452-0961 愛知県清須市春日夢の森1番地
TEL 052-401-3881 FAX 052-408-2791
*ご一読くださりありがとうございました。