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太田三郎の絵葉書 《もも草の》
太田三郎の絵葉書を紹介しよう。
1 雑誌『文章世界』の付録
宛名面の切手部分の表記で博文館の雑誌『文章世界』の付録であったことがわかる。『文章世界』は博文館発行の文芸投稿雑誌。明治39年3月創刊、大正9年12月まで、臨時増刊を含め全204冊を発行した。
太田は『ハガキ文学』で活躍した。『ハガキ文学』の発行元、日本葉書会は博文館の系列であり、その縁で太田は、博文館発行の『文章世界』や『女学世界』の付録絵葉書の絵を描いている。
付録絵葉書は雑誌巻頭に挟み込まれ、ミシン目で切り取って使う。
![](https://assets.st-note.com/img/1689408234270-8sKr95ElKx.jpg?width=1200)
時期は不明であるが、絵柄の季節感から秋の号の付録だと思われる。
![](https://assets.st-note.com/img/1689408350488-tB8miW9rvq.jpg?width=1200)
通信欄の罫線が3分の1のところにあるので、明治40年4月〜大正7年3月までに作られたものである。太田の洋画家としての活動が本格化する前の明治40年代の作成と考えるのがよいだろう。
2 絵柄と文字を考える
人物は、西洋人の女性のようで、摘んだ草花をたくさんいれたバスケットをもっている。
人物の背後に文字が書かれており、「もも草の/花のひもとく/秋/の/野に」と読める。
5・7・5の音数律で俳句かと思いきや、古今和歌集の和歌の一部であることがわかった。
もも草の花のひもとく秋の野に思ひたはれむ人なとがめそ
この歌での「ひもとく」は花が咲くという意味である。
「さまざまな花が咲く秋の野で花々にたわむれて遊ぼう。そんなわたしをとがめないでおくれ。」というような意味でよいだろうか。
『日本古典文学全集11 古今和歌集』(1994年11月、小学館)の注では、「ひもとく」について、「古くは下紐を解く、男女がうちとけるの意であり、その語源意識がこの歌の下の句に反映している」と指摘している(114頁)。
すなわち、「思ひたはれむ」が、男女の恋愛を連想させて、それをとがめないでほしいと懇願している、という暗示がはたらいているということになる。
西洋風の絵に、古今集の歌を合わせる太田のセンスはなかなかよいと思う。
印刷は多色石版。
部分で色を分けているところと、色を重ねているところがある。
ドレスのかげは色が重なっているし、バスケットの胴、中の草花もそうである。
![](https://assets.st-note.com/img/1689408143079-owUkguqwlk.jpg?width=1200)
印刷のコストを下げるため、紙の地色を女性の肌の色として使っている。
【付記】
2023/07/17
検索で調べたところ、「秋姫」という絵葉書が、『文章世界』第3巻第13号(博文館、明治41年10月15日)の付録にあったことがわかった。
現物で裏取りしたわけではないが、「秋姫」である可能性が高いと思う。
*ご一読くださりありがとうございました。