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funny bunnyを聴かないで、君 #1(仮)

 ぼくの町では常に、the pillowsの「funny bunny」が流れている。

 朝も昼も夜も、平日も土日も、冠婚葬祭も関係ない。町中にある、油を差しすぎたスピーカーから、爆音で流れている。
 加えて、駅のホーム、耳鼻科の待合室、学校のチャイムまでthe pillowsの「funny bunny」なのだから、たまらない。オルゴールバージョンであろうが、ピコピコ電子バージョンだろうが、the pillowsの「funny bunny」はthe pillowsの「funny bunny」だ。


 ほら、こうして家のトイレから君たちに語りかけている間も、the pillowsの「funny bunny」が流れているんだよ。
 格子のついた小窓から、消臭剤のシトラスグリーンと母さんのタンポンと混じって、全身に入り込んでくる。


 なんでこんなことになったかって?
 この町の大人が努力をするのをやめたからさ。
 上がらない給料と上がり続ける物価、社会保障費(あってる?)。 
 とにかく働いたって無駄だから、皆仕事をやめるか、なんとか続けている人でも、こちらが見てわかるほどダラダラと仕事をしているんだ。
 ぼくの父さんだって会社の書類をわざと左手で書いているらしいし、母さんはレジ打ちのパート中に小型ナイフで小銭を傷つけて、ギザ10を作って遊んでいるらしい。
 ちなみに働いていない大人たちは、全員漏れなくそこら辺の道路に寝転んで、眠ることもせずに呆けているよ。
 そんな感じ。

 だからね、町はthe pillowsの「funny bunny」を聴かせて、啓蒙しているんだよ。
 頑張れ、落ちぶれるなって。

 ねぇ、君の好きな音楽を教えてよ。 

 ぼく、the pillowsの「funny bunny」しか知らないんだ。
 君の好きな音楽が、the pillowsの「funny bunny」だったらどうしようもないね。

 ねぇ、ぼく助けてほしいんだ。