メモリアルコミュ感想 -八神マキノ-

注意書き
・メモリアルコミュ1-4の感想です。
・実況部と感想部が交互に入ります。
・ちょくちょく深読みが入ります。
・読後のまとめは最後にあるので、実況がどうでもいい方はそちらへ。
・読み前の知識:ほぼなし。データの子。理系っぽい考え方らしい?
・メモリアルコミュ以上の情報は入れていないので、現在の成長した姿等には触れられません。

目次
・コミュ1
・コミュ2
・コミュ3
・コミュ4
・まとめ等

コミュ1

街角にて、不審者(P)の目に止まる八神マキノさん。訝しげに訊ねます。
「先ほどから視線を感じるのだけど……何か?」

スカウトなのでしょうか。スカウトならば、受動的なきっかけでアイドルになる、ということになりますね。

Pの行動が単刀直入に描かれる。「スカウトする」

随分と展開が早いですね。まだ1回しか台詞を言っていないのに、突然のスカウト。スカウト過程を限りなく短くして『データを与えない』のは,劇中のポイントの一つになるかも?

八神マキノさんは、不審者(P)にも丁寧に対応します。
「……アイドルのスカウト? 冗談を。……私でなければならない、その根拠は?

ふむ。理系っぽい、というのはそういうことか。なるほど。

スカウトとは、不特定多数から一人の人間を取り出し『特別』というラベルを貼りつけることで、有象無象とスカウト相手を区別する行為。だから、有象無象と自分を区別した動機は重要になる。「私でなければならない、その根拠」を訊ねることは、『ランダムに選んだだけならば話を聞かない』ことを仄めかしつつも、「アイドルスカウト」に関する核心を問う、実に効率的な質問です(深読み気味)。

Pは根拠を言語化できません。そんな不審者(P)を見て呆れる八神マキノさん。
「説明できないの? はぁ……それなのに、私にアイドルを要求するのは理不尽というものでしょう。」

読む人次第では『なんて冷たい人間だ』と誤解されかねない台詞かもしれませんね。Pに対するこの返答は、ゴリゴリの効率主義の理系人間という人種の中では、けっこう暖かい対応なんですよ。ちょっと書きます。

まず、普通は興味のない不審者を見たらサヨナラバイバイですよね。こんな不審者に対しても、提示された議題についてちゃんと話し合おうとしています。優しい。
しかし、話し合いの第一歩の、検討材料が提示されない。そうなると八神マキノさんとしては、検討のしようがない。話し掛けられたのに、話題の膨らましようがない、という状況です。
「アイドルスカウト」の性質上、議論の決着には八神マキノさんの検討が不可欠です。Pの不手際で検討自体ができない。話の落とし所がない。そんな議題を一方的に押し付けられる。

これは、理不尽としか言いようがない。八神マキノさん側はこの要求に対して良い反応も悪い反応も返しようがなく、何もアクションできません。

八神マキノさんとしては、Pの理屈と自分の都合を検討して話し合った上で、互いが、少なくとも自分が『合理的だ』と納得した上で、結論を出したいと思っている様子です。
つまり、よくわからない不審者(P)のことを軽視することなく、対等な交渉相手として対応しようとしている、少なくともそのように対応しようとしていたのですよ。(まぁ、下手な理屈を提示するとボコボコにするでしょうが……)

いわゆる理詰めの人間がこんなPの応答を受けると、じゃあさようなら、と見限ってもおかしくない。そんな極端なケースと比べると、理詰めの人間にしては、「困ったな」と言いつつも話し合いを続けようとする姿勢は、暖かい対応と言えなくもない、はず。

不審者(P)は論理でぼこぼこにされます。
「まるで必然性がない。論理性を欠いている。演繹もなく、帰納もない。貴方が声をかけるのは私である必要がない。違う?」

思わず弁護しちゃうよ。これ、Pをボコボコにしていますが、Pを攻撃したいわけではないんですよ。ただ、自分の立場から、現状の事実確認をしているだけ、のつもりなんですよ (近年はロジハラという言葉もあり、その一歩手前にあることは否定できませんが……。)

不審者(P)は疑問文で返事します。
そう?

はぁ?お前ちゃんと話しろや。
っと失礼しました。筆者も理系の端くれなので、八神マキノさん側に感情移入して読んでしまいました。

んー、でも、この一幕、話し掛けたのはPでも、「論理的な議論」をふっかけたのは八神マキノさんなんですよね。『背景も分からない見ず知らずの人間に対して論理的な議論をふっかけた』、そんな八神マキノさんにもよろしくない面がある。
ロジカルな話し合いを楽しめる人間はそれほど多くないのに、結果的には、そういう話し合いを強制しようとしたことになりますし、八神マキノさんのPに対する質問がコンパクトすぎる。本質的な質問は近道だけど、相手が自分の中で答えを整理できていないこともあります。答えやすい質問を使って遠回りする方が結果として早いかもしれません。急がば回れですね。ちょっと相手の能力を過信しちゃってます。

うーん、『世の中では単純なロジックでは説明できないこともあるよ』というのがこの手の物語の鉄板ですが、そういう話になっちゃうのかなぁ……。

八神マキノさんは、呆れ果てます。
「はぁ……話にならないわ。プロなら論理性を持ってスカウトするべきではないの? ……それとも、そうお思わないから声をかけているのか。」

Pの身なりや、描写はありませんが、名刺を受け取った上での対応だったのでしょうか。プロ相手だから論理的な話し合いになるだろう、と思っての対応だったのかもしれません。

なんにせよ、やっぱり他人に期待し過ぎですね。突き詰めると世の中は全て論理的ですが(強めの思想)、『交渉ごとでは論理的なやりとりが第一優先である』という論は、非論理的でしょう。もちろん、スカウト相手の質問にも答えられないPにもよろしくないところはあります。まぁ、巡り合わせが悪かった、という話なのでしょう。

『論理的ではないスカウト』の可能性が提示されました。伏線ですね。

Pは言葉を掛けます。
興味はない?

うーーーーーーん、お前さぁ……。もうちょっと、論理的に話してくれよぅ。いや、でも、よく分からない現象に興味が惹かれる、という話はよくあって、人によってはクリティカルになりうる……。

一刀両断。
無いわ。このくだらないお喋りにも、貴方の論理的必然性のない口説き文句にも。他に何か?」

カッコいいなー。
それにしても、「無い」、か。興味で動く人間ではないらしい。

論理で動く人間は、(本当はそうである必要はないのですが)理系に多く、そして特に自然科学等を好む理系には、興味で動く人間が一定数います。興味で動く人間は、自分の興味に合わないとそっけなくなることもあります。一ノ瀬志希なんかは、極端ですが、分かりやすい例です。でも、その場合はそもそも話し合いをしようとすらしない。興味が持てないと判断した瞬間にやんわりと断って逃げます。

八神マキノさんは、情報数理とか、コンピュータサイエンスとかに近いかもですね。理系というか、プログラマー的。プログラムは自然科学の題材よりもずっと論理的に動きますし、できた、できなかった、という結果が明瞭に出るから、思考が論理に侵されやすいですし、そっちっぽい。人格形成の段階でプログラミングがちょっと楽しいと思えた類の人間かな?

Pは言葉を続けます。
アイドルを知ってる?

なんだか象徴的な、重要な台詞に思えます。アイドルの物語としては既に絶望的な状況ですが、ここからどう巻き返すのでしょうか。

質問には回答を。
「知っているわ。いえ、あぁ、そういうと語弊があるわね。一般大衆レベルの知識として そういう職業がこの世に存在することは知っている、くらい。」

もしかしたら、少し芝居がかった言葉に感じる人もいるのかな。この台詞は完全に理系の言い回しです。自分の考えを、自分の意図を、過不足なく正確に相手に伝えたいから、自分の知ってる範囲の言葉を最大限活用する。そうするとこういう言い回しになっちゃうんです。

Pのコメント。
つまりよく知らない?

うるせぇ笑 いや、それで合ってるんですけどね。
だって「よく知らない」なんて答えたら、何をどのレベルまで知っていて、何をどのレベルまで知らないのか、が伝わないじゃないか。
でもそんなこと言ってるから『めんどくさい』って言われるんですよね、別にいいですけどね、うう。

Pの言葉に反論を返します。
「まぁ、そう言い換えることもできるわね。それがなに? 世の中に知らないことなんていくらでもあるわ。」

ちょっとムキになってるようにも見えますねー。
「世の中に知らないことなんていくらでもあるわ」には、『知らないことは無数にあって、その中の一つでしかないアイドルを特別扱いする理由はない』という主張が裏にありますね。

Pは畳み掛けます。
知りたくない?

『知る』が物語のテーマなのかな。

八神マキノさんはにっこり笑って答えます。
「なに、論理性では落とせないと思ったら別の手? あいにくと知的好奇心しか満たしたいものはないの。でも、対応を変えたわね。貴方の分析力はほめてあげるわ。」

知的好奇心があることは認めた。ポイントですね。

八神マキノさんの「それから?」という言葉を皮切りに、しばらく話し合いが行われます。
「貴方もなかなかに折れない人ね。それに、手を変え品を変え、よくもそれだけ人を口説けるものだわ。論理的かどうかなんて、どうでもいいじゃない。」

知的好奇心よりも、「対応を変えた」ことの方が重要だったようです。
Pのスカウトには論理的な言葉が介在しない。交渉における『論理の必要性』を『八神マキノさん自身に否定させた』ことが重要なのでしょう。

ここで、八神マキノさんは気付きます。
「……そうか、やられたわ。つまり、私のこの反応も予想済み?」
Pは「頷く」
負けたわ。論理では図れないその行動力、いや、情熱というべきか……。」

ちょっと難しい、というか分かりにくいかもしれないやりとりですね。
八神マキノさんの最初の質問に対して、論理的な言葉ではなく、行動で答えた、ということでしょうか。

Pは、初めから「……私でなければならない、その根拠は?」という八神マキノさんの質問に答えを返していた。ただし、論理が明快な言葉ではなく、『手を変え品を変え口説き続ける』という論理が曖昧な行動で。
そんな非論理的とも言えるPなりの答えを、八神マキノさんは『察して』しまった。質問の答えを、自分の好む論理とは異なる言葉で理解してしまった、いや、Pに反応を読まれていたわけだから、理解『させられて』しまった。
だから、「負けた」、ということでしょうか。まぁ、そんな深読みではなく、ただ単に『根負けした』くらいの意味かもしれませんが。

Pの話を聞くことにしたマキノさんは、一つ、質問をします。
ただ一つ教えて。私に声をかけた、本当の理由を。」

ワクワク。

地の文「理由を伝えた……」
「そんな理由で……? 全く、度し難いな……。」
ここでコミュ1が終わる。

理由を教えてくれないんかい!
んー、この「理由」が物語の根幹で、物語の最後の方で明かされる展開ですかね。それとも、コミュ1を通して、論理的な言葉を使わずに示した内容だから、言葉にするのは野暮、ということでしょうか。先が気になります。

コミュ2

レッスンルームにて
「今日のメニューは、ダンスレッスン。そうでしょう?」

歌や演技は論理的に詰めやすい一方で、ダンスは体を動かす芸術表現だから、比較的論理が明快でない題材、それを今回の物語で展開するのでしょうか。

なぜ知って?」とPは返します。

ん?Pの先回りをしたということ?

これくらいの情報を得るのは何でもないわ。それよりも、このレッスンの必要性について疑問を覚えるのだけれど。」
「振り付けは、動画を観ることで既に記憶している。だとしたら、バックダンサーと合わせたりするのが妥当では?」
「それなのに、私だけでレッスンをする意味は? 答えてくれるかしら?」

問題行動ー。いや、守秘義務を守っている限りは大丈夫、なのか?

あー、んー、「記憶している」、かー。でもそれは『身体を意のままに操れるほどに卓越した運動能力がある』という前提がないと通らないロジックだから……。これまでの八神マキノさんの描写からすると、ちょっと軽率すぎるロジックというか、八神マキノさんの格を低く見積もられた描写に見えてしまう……。

いや、ここの質問の本質は『仕事上の八神マキノさんの質問に対して、Pがどのように答えるか』なので、そこに注目していれば良いですね。論理的な言葉を返すか、それ以外の手段で答えるのか。

とりあえずやってみて」とPはレッスンを促します。

論理的な言葉ではない回答でした。まあ、わざわざ『ダンス』という、非言語的表現が題材なんだから、当然、非言語的な答えを返しますよね。

八神マキノさんは食い下がります。
「非論理的だし、回答になっていないな。私の質問に答えて。このレッスンに何の意味があるの?」
Pは「やればわかる」と答えます。
「そう。到底納得できる回答ではないけれど……私が納得するためにこのレッスンが必要というなら……やるわよ。」

Pの回答は明快な論理ではありませんが、「やればわかる」とは「やること自体がその後の議論の材料になる」という意味にもなります。
八神マキノさんは『回答としては不十分だけど、論理的な帰結を得るのに必要なプロセスなら、やってもよい』と判断したのですね。

レッスンを始めてから数時間が経過します。
息切れをする八神マキノさん。
「通常のメニューをこなすのが、これほどきついなんて。まったくの想定外だわ。」

然るべき展開です。しかしこの物語では話の展開よりも、問答の方が重要です。

八神マキノさんは原因を分析します。
「こんな結果になった原因は……。」
選択肢は「調査不足?」「能力不足?」
「調査不足?」には「リサーチは完璧」「見誤っていたのは、自分の力量」
「能力不足?」には「否定できない」「自己分析が甘かった
どちらも「悔しいわ……。こんな屈辱的な気分は久しぶりよ。」に収束します。

あー、八神マキノさんは、『身体を意のままに操れるほど卓越した運動能力がある』という前提を満たしているつもりだったのね。

うーん、「リサーチは完璧」というのは、ちょっと間違いと言わざるを得ないかなぁ。本当に完璧なら、ダンスに必要な運動能力が適切に割り出せていたはずで、それは特別に鍛える必要のある技能だと分かり、少し前までは一般人だった自分は要求を満たしているとは言えない、という帰結に自然とたどり着くと考えられます……。

それでも「リサーチは完璧」の論理を通そうとするなら、八神マキノさんは『自分にはダンスが実践レベルにある』と誤認するほどに、自身の身体能力に自信があった、ということになりますね。学校のダンスの授業とかで、優上、の成績をとっていたのでしょうか。

八神マキノさんは補足します。
「……間違えないで。悔しいのは、レッスンができなかったことじゃない。自分を分析しきれていなかったことよ。」

データ収集とその解析に自信があるから、「レッスンができなかった」という身体能力の不足より、十分なデータがあったはずなのに「レッスンができない」という帰結を出せなかった、というデータ解析の怠慢の方が悔しいですよね。

「自分自身のことなのに、出会ったばかりの貴方よりも理解できていないなんて……。貴方はどうして、私のことがわかったの?」
質問する八神マキノさんに、Pは答えます。
「プロデューサーだから」

君さぁ。もう少しちゃんと言葉を……いや、まあ、そういう人間だし、そういう物語だから仕方がない。

「また非論理的な回答をする……。じゃあ、訊き方を変えるわ。どうやって、私の情報を入手したの?」

今回の失敗は、自己分析の甘さに起因する。だから、自分よりも自分の能力を正確に予測したPが、何のデータを使って予測したのかを参考にしたい。という動機での質問ですね。

Pは「それは極秘」と答えます。
「そう簡単には教えてもらえないか……。また未知が増えたわ。プロデューサーにも、私自身にもね。」

貴重なデータだから、非公開なのは仕方なし。八神マキノさんだって、同じ立場なら同じように答えるだろうから、追求はしない。

「それに……貴方の言ったとおり、やってみてわかることもあるみたいね。……これも情報に加えておかなければ。」
ここでコミュ2が終わります。

仄めかされていましたが、「やってみてわかること」に関する認識や理解が甘かったようです。まだまだ経験が浅いらしいですね。

ところで、「これも情報に加えておかなければ」という台詞について。
「これ『も』情報に」という発言ではありますが、多分ですが、実際には「これ『こそ』情報に」と解釈する方が良いかもしれません。
これはもはや筆者の感覚みたいなもので説明が難しいのですが、八神マキノさん、たぶん自分のデータベースの中に『汎用』とか『データ収集用のデータ』とか、そういうラベルのボックスがあるんですよ。そこに記載されている情報は、通常のデータよりも価値が高い。そういうデータは色々なデータに紐づいて、他のデータに付随する形で見つかることが多くて、だから他のデータにくっついてきたそれほど価値の高くない情報のように見えるので、「これも情報に〜」と独りごつんですけど、独り言を言いながら、やっぱりこれって意外と重要じゃない?と遅延評価が起こるんですよ、って類の発言だと思います。分かりにくい?ごめんね。

コミュ3

撮影スタジオにて
「宣材写真……。売り込むための見本作り、か。いいわ、これでも表情をつくるのは得意なの。」
私のたしなみは諜報。つまり秘密を盗むこと。そして諜報の基本は、ソーシャルハッキングよ。思うままの表情ができなければ、話にならないわ。」

あー。うん。いますね。こういう人。外から見るとちょっと幼いというか、ロマン志向の内容に思えるのですが、なんやかんやで能力があって、それらしいことができちゃって、しかもできちゃう内容は結構すごい、って人。
周りから『何じゃそりゃ』と奇異な目で見られるけど、実際にできちゃうし、何なら証拠も提示できちゃって、本当にすごいことやってるから、周りも納得せざるを得ない、って人。友人にすると楽しいですよ。適当に話をふっかけると自分にはない目線で面白い答えが返ってきますし、しっかりとした自己を持っているから、逆に自分の考えが整頓されるんですよね。閑話休題。

「……ソーシャルハッキングの意味、わかる?

自分の専門分野だから専門用語が染み付いていて、つい、ぽろっと専門用語が出てしまうんですよ。でも、専門用語をひけらかしたいわけじゃなくて、「あっ、ごめん、補足いるよね……?」と訊ねる。よく見る光景です。

八神マキノさんの質問に対し、Pの回答は「原始的な方法?」「ハイテクな方法?」
正解は「原始的な方法」、「誰かと仲良くなって聞き出したり、恋人のフリをして情報を引き出したり……。昔からよくある、原始的な方法ね。」

そういう意味なんだ。勉強になりました。

「取引先が笑顔を望むなら、それを与えて、こちらも望むものをいただく。ギブアンドテイクよ。はい、どうぞ。」
得意げに撮影を済ませる八神マキノさん。
「フフ、板についたものでしょ。私の表情は、論理的に構築されている。一部のスキもないわ。」

だいぶ愉快な子ですね。論理的に構築された表情って何やねん。

Pは横槍を入れます。
もう1枚!
やや不満げな八神マキノさん。
「……リテイク? なにが悪かったというのか。まぁ、機材の不調もあるか。予備が欲しいというなら……はい、いいわよ。」
その撮影後にもPはさらに要求します。
別の顔もほしい
この指示には流石に不安を覚え、八神マキノさんは質問します。
「なぜ? 私の笑顔に不備はないはず。一切、気にさわることのない理想的な表情をしているのに、何が不満?」

この話は『アイドルのリサーチ不足』に関する話になるのかな。
Pは基本的に『繕われた表情』を好まないからなぁ。

Pは答えます。
本当の顔が見えない

本当の顔、かあ。八神マキノさんは常に理論武装して動いているような人間だろうから、本当の顔が見えなくて当たり前な子のように思います。
だからこそ、本当の顔が武器になる、とPは判断したのかもしれませんね。

「本当の顔って……見せないようにしているんだから、当たり前でしょう。それとも……つくり笑顔だと、見透かされているとでも?」
「でも今まで、人に取り入る時はこの顔でうまくいっていた。なのに、どうして……?」

ダンスレッスンの時もそうでしたが、この子の自己評価の高さは、過去の成功体験に由来しているようですね。実際に汎用性のある高い能力を持っているのでしょうが、特殊技能が物を言うアイドルの世界で通用するほどではない、と。

アイドルの壁は高いから」とPは答えます。
「アイドルの壁……。規定の条件を満たすだけじゃなく、その上をいく表情をしなければダメだ、と?」
「でも私には……そんな経験がない。どうしたら……。経験以前に、情報不足にも、程が……。」

諜報は情報が集約されたところにひっそりとアクセスすること。一人の人間とか、サーバーとか、そういう単一の相手には強いのですが、『アイドル』は、アイドルの一人一人がそれぞれの個性に合わせたオーダーメイドの特殊技能の塊ですし、ファンも不特定多数で情報も散り散りになっているから、諜報でアイドル活動をサポートするのは、なかなかに難しそうというか、単純に相性が悪そう。

困り果てた八神マキノさんをパシャリと撮影。素の姿を撮影され続けます。
待ちなさい、私、なんの準備も……。」
困惑する八神マキノさんにPは語り掛けます。
しなくていい。君を見せて

ここで語られている『準備』こそ、諜報活動であり、リサーチであり、論理であり、八神マキノの自信であり、「本当の顔」を隠すマスクなのだと思われます。

Pの撮影ラッシュに対応できず、腹を括ることにしたようです。
「くっ……対処……できない。こんなに連続で撮られたら。」
「いいわ、意図はわからないけど、好きにして。そのかわり、演技なんてできないから、期待しないで。」

やや完璧主義なところがあり、プライドもあるから弱みを見せたくなくて、そういう性質が論理とか諜報とかとして発露していたのかもしれませんね。

撮影が終わり、Pに話し掛けます。
「それで……結果は? 使えそうなものは、あったのかしら。」
Pは答えます。「最後のは良かったよ」
「よく言うわ。私がよかったわけじゃない。翻弄して巻き込む、貴方の手腕が優れていただけよ。……このソーシャルハッカー。」

綺麗な筋書きですねー。ソーシャルハッキングは『対象とのやりとりで自分の欲しい情報を引き出す』ことで、コミュ1からずっと、Pとのやりとりで翻弄された挙句、Pの望む状況になっていますから、やられっぱなしですね。

私の理論武装を粉々にして、不用意な顔を撮りまくって、結果を出した。私には、不本意なプロセスでも、ね。」
「覚えていなさい。仮面をはがされた借りは、きっちり返させてもらう。貴方のことも、根掘り葉掘り調べた上でね。」
ここでコミュ3が終わります。

この内容も、コミュ3に限らず、コミュ1とコミュ2にも当てはまりますね。データ屋さんだから、過程は何であれ、出てきた結果は真摯に受け止める。忌々しいと思いつつ、いつか見てろよ、ちくしょーと内心では思いつつ、認めはする。

ここまでの展開は、八神マキノさんの仮面が崩されていく物語で、テーマは、うーん、なんでしょうか、一言にまとめるのが難しい。コミュ4はコミュ1からコミュ3までの総決算ですが、この物語をどのように着陸させるのか……。

コミュ4

八神マキノ・ファーストLIVEに関する情報分析レポート
                       八神マキノ

個性的な始まり方。これは楽しそうだ。データであれこれする人は、程度の差はあれ、気に入った内容を誰に言われるでもなくレポートにすることがあったりなかったり。

1. サマリー
本レポートは、現在活動中であるアイドルを観測した中で得られた情報を分解・解析を行うことで、成功への道筋を示すものである。
まず、成功の定義とはなにか。
今回のLIVEに置いて、八神マキノはアイドルデビューとなる。
プロとして、興行的成功を収める必要は当然あるが……………………

この調子だと、「2」に『アイドルについて』、「3」に『データ』とか、そんな感じの構成になるのかな。読んでみたいものだ。

事務所に場面が変わる
「……報告は以上。初LIVEに向けた調査は万全。一分のスキもないわ。」

「調査は万全。一分のスキもない」が決め台詞なのかしら。昔見たテレビドラマの台詞に影響されている、とかの可愛らしいエピソードがありそう。

「報告書にもあるように、客層の予想もできている。ターゲットが明確だから、ニーズの分析も完璧よ。あぁそれと、こちらにも目を通してちょうだい。」
「レッスン計画も私で立てておいたわ。この通りにレッスンを進めていけば、なにも問題ない。つまりこれで、LIVEの成功は約束されたということよ。

コミュ3でも書きましたが、アイドルと諜報ってあんまり相性が良いものではないと思うけれど、大丈夫かなぁ。人任せにしない意識はとても大事ですが、プロに任せるのもまた重要……。

報告書と計画書を見て、感嘆するP。
「……驚いた。こんなに行動が早いなんて」
苦い思い出を振り返るように話す八神マキノさん。
「前に言ったはずよ。借りは返す、ってね。そして初めての仕事となれば、借りを返すには絶好の機会。」

早速、コミュ3の伏線が回収されます。伏線回収を遅らせて、最後の最後に借りを返すことでカタルシスにする、という話作りもあったでしょうが、そうはしない。……八神マキノさんはとてもテキパキしているようです。

「私がこれまで想定外のことに巻き込まれたのは、経験不足と情報不足が原因。ただし、経験不足はすぐに解決できる問題ではないわ。」
「だからこそ、その経験を補えるだけの情報を集めていったのよ。今の私には、不安も問題もない。だからプロデューサーは、他の仕事をしていていいわ。」

コミュ2、コミュ3の失敗は、自己分析の甘さに起因するものです。悔しい思いをしたから、リベンジにしっかりと自己分析をしたのでしょう。しかし、アイドルの仕事は、一人でなんとかなるようなものなのでしょうか。いや、初めての仕事の段階なら、仕事量もそれほど多くはないでしょうし、一人でもできる範囲なのか……?

Pは、八神マキノさんの提案を受け入れます。
そうさせてもらうよ
八神マキノさんは冷静に、しかし気合の入った様子で答えます。
「えぇ、それで構わないわ。そして……LIVEでは見せてあげる。貴方の想定を超えたパフォーマンスをね。」

コミュで描写されたPの姿勢は、基本的には『好きにやらせる』というもの。それでいて、やりたいことがあったり問題があったりすると、少々強引な交渉術で話の展開を誘導する。曲者です。今回はどうなることか……。

LIVE当日、スタッフに何かを頼むP。暗躍しています。

曲者Pが動く。何を考えている……?

控室にて、普段とあまり変わらない様子の八神マキノさん。
「さて、そろそろ時間ね。行ってくるわ、プロデューサー。」
「期待している」と声を掛けるPに対し、気合の滲み出る返事を返します。
「問題ないわ。準備は万全、不安要素などひとつもないもの。貴方が抱いている私への期待、私はそれを上回って見せるわ。」

準備は万全、決め台詞です。さぁ、どうなる、ドキドキ。

舞台にて、
「はじめまして、八神マキノです。今日は私のデビューLIVEに来てくれて、ありがとう。」
俺も分析してー!!などと応援するファンに、八神マキノさんは応えます。
「フフ、ありがとう。計算し尽くされたステージで、必ず楽しませてみせるわ。」

デレステを開いて見てみてください。八神マキノさん、衣装が良いですね。これは人気が出ますよ。舞台も良い感じに進められている様子です。

応援するファンを見て、八神マキノさんは気づきます。
「……? 全員、同じ色のサインライトを振ってる……。デビューLIVEなのに、こんなことが起こるなんて……?」
「フフ……この会場の一体感。……これが、LIVE……正直、予想外ね。」
「フフ……ならば、私がすることはひとつ。想定外にはさらなる想定外を……。期待以上のLIVEを見せてあげるわ!

『期待』というものは、データや経験からの予想に基づいています。だから、八神マキノさんにとって、『相手の期待』を想定すること、そしてそれを上回ることは、一つの重要な在り方です。コミュ4のこの時点まで、『Pの期待を上回る』というフレーズが何度か出てきましたが、『期待を上回る』という言葉は、八神マキノさんだからこそ、特別な重みがあるのでしょう。

そして……このサインライトが『Pの暗躍』の正体でしょうか。もしそうなら、八神マキノさん、また見事に乗せられていることになります。でも、これはこれで。

LIVE終了後、控室にてプロデューサーを探す八神マキノさん。
「ふぅ……プロデューサーはどこかしら。……控え室にいると思ったけれど、いなかったか。」
しばらく待ってもプロデューサーが来ない様子です。
「……なかなか来ないわね。LIVE直後だし、挨拶回りをしているのかしら。」

『Pの魔法』の種明かしの時間でしょうか。それにしても、LIVE後のアイドルを労わないだなんて、悪いPだ……!

スタッフと挨拶を交わすP。八神マキノさんはそれを発見します。
「あそこにいるのは……プロデューサーとスタッフさん?」

やっぱり、会場の一体感の裏には、Pの暗躍があったようです。

LIVE前の回想シーン。
八神マキノさんのファーストLIVEのビラ配りをするP。
「事務所期待の新人アイドルです!」と張り切って挨拶をします。
そして、やっぱり暗躍していました。
応援するときは、これをどうぞ!」と言ってサインライトを手渡します。

Pがすげえ頑張ってる描写……うう、悔しいけれど、Pのキャラが良いな……。

回想が終わり、スタッフはPの働きを絶賛します。
「プロデューサーさんにあそこまでされたら、オレたちも頑張らないとってなりますよ!」
その言葉に、Pは答えます。
彼女の魅力を伝えるためです。

このPは曲者だから、スタッフがそう思うことも計算尽くのはず。ついでにコミュの読者がいいやつだと思ってしまうのも計算尽くのはず。やっぱりPは悪いやつ!こいつー

Pとスタッフの話を立ち聞きした八神マキノさんは、複雑な表情で立ち去ります

あー、『自分の力でやり遂げた』と思っていたのに、背後に大きな尽力があって、それに気付けなかったというのは、八神マキノさん的には、すごく悔しいはず……。助け自体はすごくありがたいのですが、『Pの期待を上回る』ことはできなかった、むしろ『自分の期待を上回る』演出をされたことになるから、敗北感を抱いていても不思議ではない……。

でも同時に、八神マキノさんは、「準備は万全」と言うくらいには、やれるだけのことをやっていて、実際に、LIVEまでの過程は八神マキノさん主導でできていて、だから今回のPの暗躍は、一人でやるよりも、他の人と助け合いながらやる方が大きな成果が出せる、と気づくきっかけにもなっていて……。助け合いながら云々は、すごく当たり前のことのように思えますが、八神マキノさんは能力が高く、他の人の活動を助ける経験はあっても、自分が全力を尽くし、その上で自分が他者に大きく助けられた経験なんて、多分これまでなかったはず。他者のサポートが大きな力になるなんていう、当たり前のことを、初めて強く実感する……。

なんにせよ、衝撃的だった、と思われます。

八神マキノさんは、控室に帰ってきたPに話しかけます。
「プロデューサー……おかえりなさい。今日はとてもいい、想定以上のLIVEができたわ。けれど、この成功は、私だけの力では成し得なかった結果よ。

Pとスタッフの立ち聞きがなかったら、たぶん、この台詞は出てこなかった、あるいは、ここまで心がこもった言葉にならなかったんじゃないでしょうか。

Pは返事をします。
「腕のいいスタッフがいてくれたからね」
「君の努力と、スタッフさんたちの努力が上手くかみ合ったから、いいLIVEにできたんだよ。」

自身の尽力をはぐらかすP。立ち聞きしているなんて思わないだろうし、Pの視点では、リベンジに燃えていた八神マキノさんを立てての発言です、しかし……

「……なるほど? あくまで、私とスタッフさんたちの成果だと言い張るつもりなのね、貴方は……。」

八神マキノさん視点では、Pは最大の立役者で、当事者に気取られることなくきっちりと暗躍を成功させたその姿は、『諜報』を好む八神マキノさんの理想にかなり近いはず。内心はすっごく複雑でしょうね。

「どうやら、また借りを作ってしまったようね。」
「フフ……LIVEにも貴方に対しても、非論理的な感情が私の中に芽生えつつあるわ。それがどんな感情で、私にどんな影響をもたらすのか……私はそれを見極めていきたい。」

あああああ!!ここでコミュ1の伏線回収!非論理的な感情!さっきまで筆者が書いていた『衝撃』とか『複雑な内心』とか、LIVEの感慨とか、全部、『非論理的な感情』じゃないですか!

うわーやられたー……。これは見事。八神マキノさんだけでなく、読み手である筆者も、この物語を通して非論理的な感情、論理的な言葉では書けない何かを理解させられてしまった……。悔しい……。

「それに、アイドルの世界は、想像以上に私の知的好奇心を刺激してくれる場所だと判明したわ。だから、これからもよろしく。……そして、覚悟しておいて。」
いつか貴方の全てを記録してみせるわ。アイドルと、貴方という調査対象……フフ、実に興味深いわ。」

論理的な言葉で記述できない興味の対象を、論理的な言葉で記述したい、というのは大きな知的好奇心になります。
本来は、Pが記録する側、アイドルは記録される側なのですが、八神マキノさんはその関係を逆転させるのですね。いや、まあ、あれほどの曲者Pだったら、記録したいと思わせられるのも無理はない。

まとめ等

結局、この物語のテーマはなんだったのでしょうか。かっこいい言い回しはできませんが、『八神マキノの視野が拡がる物語』だと思います。

キーワードは……難しいです。『論理』や『準備』など、八神マキノさんのキーワードこそありますが、この物語を象徴する特定のキーワードなんてあるのでしょうか。うーむ。
コミュの流れはこんな感じだったと思います。

コミュ1:Pの非論理的な行動に根負けしてアイドルスカウトされる
コミュ2:『やってみないと分からないこと』を実体験する (自己分析=『準備』の甘さを反省する)
コミュ3:『準備』=『仮面』を剥がした姿でも結果が出ることを見せつけられる
コミュ4:一人では成し遂げられないことがあることを知る、非論理的な感情を実感する

コミュ2、3、4はどれも八神マキノさんの経験不足や理解不足をPがサポートして、その度に八神マキノさんは新しく学習していく、という筋立てになっていて、そして最終的に学習したモノは『非論理的感情』という、コミュ1でがっつり否定、というか価値を認めていなかったモノでした。綺麗な構成。

コミュ2は「見返してやるー」って感じの悔しさを与えて、コミュ3は真剣に自己を省みる必要性を感じさせるような、それなりにシリアスな悔しさを与え、そうやって徹底して自己を省みた後のコミュ4で『他者の助け』の大きさを見せつけられる。八神マキノさんは『(準備万端なら)一人でできるもん』という思想が根底にあったようですが、それを根本からぶっ壊された物語でしたね。今回の筋書きは八神マキノ成長物語としては、もしかしたら最も効率的というか、最大の成長が見込める物語だったのかもしれません。

そんな自己の変革を伴う学習過程でずっとPの暗躍を見つけ続けてきたのですから、そりゃ八神マキノさんからするとPはすごく興味深い観察対象になりますよ。八神マキノさんにとってはPはもう謎だらけな非論理性の象徴で、『アイドル』と並んで知りたい対象のはず。面白生物、P。

それにしても、八神マキノさん、かなり理系チックというか、筆者にちょっと馴染みのある言葉を使っていて、面白くなっちゃいました。友人の一人にでもいそうです、こんな感じの話し方をする、「自分ならかなり色々なことができる」っていう自信を持った人。プログラミングとかデータサイエンスとかの人の典型例の一つなのかしら。

あまり物語の本質を捉えきれている気がしませんが、それでも八神マキノさんがアイドルになる前まではどういう思想を持っていて、どういう性格で、どういう姿勢でアイドル活動を始めたのか、ということは少し分かった気がします。とても綺麗な物語でした。八神マキノさんの活躍を期待しつつ、この記事はここまでで筆を下させていただきます。

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