スシロー泰葉コミュ

読みながら感想を書き連ねました。
文字だけ。既に読んだ人向け。
ネタバレ満載なので、気にする人は先にコミュを読もう!

目次
・コミュ1
・コミュ2
・コミュ3
・コミュ4
・コミュ5
・全体を読んで

コミュ1

 演劇の場面の一つからコミュが始まります。少女に、音楽が上手だ、「キラキラしていて、すごくきれい!」と言われ、「でも、それだけだ」、私にはフルートをただ上手く吹くことしか、と返答する泰葉さん。

 これ、面白いですよね。外から見ると「キラキラしていて、すごくきれい」なのに、本人からすると「でも、それだけ」。
 表現技術はあるのに肝心の「芸術表現」は不足している、という状況は綾瀬穂乃香さんのメモリアルコミュやピルエットオペレッタの営業コミュに通ずるところがありますね。表現技術があるだけで素晴らしく、羨ましいことなのですが、自分が満足できなければ仕方がない。
 それとも、外の人はその価値に気がついているが知らぬは本人ばかり、という状況なのでしょうか。

 ところで最初から脱線しますが、フルートは「絵になる」「知名度が高い」という大きな特徴を持ち、高音域の響きも美しく、ソロ演奏では非常に映える楽器です。主旋律が比較的多い楽器で、他の楽器をサポートすることもありますが、どちらかというと「他の楽器のサポートを受けて演奏する」ような形が多いです。
 個人的な見解ですが、泰葉さんはサポートを受けて主役に、というより、他をサポートしつつもキッチリと主役的な働きもこなす、というイメージがあり、オーケストラ的な観点ではフルートよりもクラリネットの方が「らしい楽器」のように思えます。音も丸いし。
 でも、敢えてフルート。考え過ぎではありますが、今回は主役、主旋律で、他のサポートを受けて演奏する、の暗示と解釈できるかもしれませんね。

閑話休題。

 蓮実さん登場、そして文字だけですが「井村先輩」に「服部先生」。学園パロディの妄想が捗りますね。それにしても、長富蓮実さんはどうしてこう、裏主人公的な役が似合うのでしょうか。
(ちなみに、演劇中の岡崎さんは「私が辞めた理由を知ったところで、貴方の音は変わらない」と言っていますが、音は些細な意識の違いですごく変化することがあるので「知る」と音が変わる可能性は十分あります)

役の性格が自分に近いから演じやすい
フルートが上手だけど部を辞めた、という役の、まさに部を辞めた場面が描写されました。役者として実力がありながらも、その価値が分からなくなり、役者から離れてアイドルになった、という泰葉さんの経歴と重なるように思えます。ただし、現在の場面は演劇の場面よりもずっと先、役者からアイドルに転向して色々な経験を積んだところと思われます。

 蓮実さんが「役を他人事とは思えない」ことについては、蓮実さんの勉強不足で、詳しいことは分からず。精進します。

 子役の子にサインをせがまれ、快く受諾しつつ「貴方は、お仕事楽しい?」と訊く泰葉さん。なんだか象徴的な場面ですね。演劇の場面がちょうど「楽しさが分からなくなった」ところに対応しているのでしょうから、タイムリーな問いです。
 子役の子の「すっごく楽しいです!」に対する泰葉さんの返答「その気持ち、忘れないようにね」や、監督の「時の流れを感じる」「泰葉ちゃんが前よりのびのびと演技してくれる」といった台詞は、過去に一段落した物語があったことを示します。

 ここまでの話はメモリアルコミュの要約というか、映画作品とかで言えば、二作目の映画の冒頭で一作目に何があったのかをそれとなく示す、というような役割になっているみたいですね。泰葉さんのメモリアルコミュも面白かったなぁ。

 さて、泰葉さんの回想と共に、泰葉さんの物語、第二部が始まります。
今回の題材は「ファンミーティング」です。
 ファンの方々と直接お話できる機会のようで、泰葉さんもやる気満々の様子。向こうの世界の住民は泰葉さんと直接お話できるらしい。いいなー。

 事務所で台本の「初稿」を受け取る泰葉さん。「初稿」が強調されているということは、これが始まりであり、台本が書き換わることが物語の肝になる、ということなのですかね。

 台本の内容は「定番」と描写される。「初稿」が「定番」、破天荒なキャラクターの物語では定番を大きく崩すような最終稿に至りそうですが、今回の主役は真面目な泰葉さん。どうなるかなぁ。

 最後の司会の人の質問「これからどんなアイドルになりたいですか?」を、Pが言う。泰葉さんではなく、泰葉さんをアイドルへ導いたPに、この質問を言わせているのです。この問いが今回のコミュの主題のようですね。楽しみ。

コミュ2

 さっそく登場するGBNSの面々。「みんなで泰葉ちゃんの相談に乗っていたところ」、みんなとはGBNSを指す。Fooooooo!

 ファンのため、企画段階から関わる泰葉さん。決めることが多いので「みんなに相談する」。コミュ1の演劇では「みんなから離れる」という場面が描写されていましたし、その演劇が過去の泰葉さんの暗示ならば、メモリアルコミュの頃は「みんなに相談する」という選択肢は存在しなかったことでしょう。交友関係も含めて、泰葉さんの成長や変化が伺えます。
 これがメモリアルコミュとかだと他のアイドルを登場させるのが難しいので、「GBNSのみんなに相談する」の描写が淡白になるのですよね。スシローコミュならでは。スシローコミュよ増えよ。

 蓮実さんにも助言を求めるGBNS。なるほど、あの岡崎先輩に対して、先輩らしく導くような振る舞いが素でできる数少ない人物の一人が、長富蓮実さんなのか。

 蓮実さんに連れられてスイーツフェスに参加する泰葉さん。

桃井あずき!

 失礼しました。休憩中のあずきに連れられて、楽しくお仕事をこなすアイドルたちを外から見て回る「お仕事成功大作戦」を決行する一行。見て回りながら様々なことを学びます。

 槙原志保さんの仕事場では、売り場という「舞台」の外の、待ち行列に注目することを通して、今は自分が「外」にいること、「外からお仕事を眺める」が良い勉強になることを自覚します。
 海老原菜穂さんからは、「外」にいる自分は「お客さん」の一人で、楽しませられる側であることを教えてもらいます。

「お仕事成功大作戦」から意識を切り替えて、「美味しいもの食べて見学大作戦」です!

「美味しいもの食べて見学大作戦」では、甘味を食べて幸せ空間が形成されます。この場面では泰葉さんの年相応の振る舞いが見られます。
 年の割にはやたら経験を積んでいそうな岡崎泰葉さん、長富蓮実さんと、年の割にはやや振る舞いが幼く見える桃井あずきが、ちゃんと同級生か一つ違いかくらいに見えます(年齢は16、16、15です)。
 (食べ物を介することで人間味を表現する、これはきっと界隈でも囁かれているフード理論というものですね)

 お客さんの気持ちになり「幸せを分け合う」という考えを実感する泰葉さん。分け合うには、自分一人では足りず、相手が必要になる。「自分のことばかりだったけれど、他の子にも話を聞けば……」という新しい方策が浮かんだところで、画面が暗くなり……

これからどんなアイドルになりたいですか?

事務所が映り、質問が現れ、そして現実に帰る。この描写、ちょっと怖い。ドラマとかだったら、場面転換の瞬間にそれまでの楽しい音楽がフェードアウトして、セピア調で事務所にいるPを、目がはっきりとは映らないように何か喋り出す動きを映してから、今度は文字だけを映して、Pの声で「これからどんなアイドルになりたいですか?」って言ったりするんですよ。ひえー。

 なぜか質問が頭を過ぎり、振り払うかのように移動する泰葉さん。どう物語が転がっていくのか。

コミュ3

 数日後、クイズ番組の場面。お笑い軍団(矢口美羽さん、難波笑美さん、キャシー、上田鈴穂さん、赤西瑛梨華さん)に囲まれながらもキッチリと仕事をこなす岡崎さん。さすが。

 他のアイドルがどのように仕事をしているのか、観察したり話を聞いたりして勉強する泰葉さん。「考えるよりもまずやってみる」という新しい考え方とともに、他のアイドルは「自分のやりたいこと」が明確であることを知ります。

「やりたいこと」が自覚的でない子もいると思いますが、でも泰葉さん視点で見ると、どのアイドルも「やりたいこと」が明確にあるように見えそうです。質問の深みに嵌っていく泰葉さん……

 演劇の場面に転換し、演技中の蓮実さんが意味深な台詞を言います。

本当は迷っているんじゃないですか?
本当に貴方が進みたいのは……

そんなことない!
私は、私がやりたいのはーー

ここで台詞が頭から飛ぶ。泰葉さんの心中を表しています。

 満を持して、瞳子さん登場。アイドルの前歴を持つ、泰葉さんに対して堂々と先輩として振る舞える貴重な人物です。

 瞳子さんに胸中を明かす泰葉さん。
私、アイドルとしてどうなりたいんだろう

コミュ4

私は……誰かの笑っている顔を見るのが楽しかった
泰葉さんの芸能活動の根幹です。

昔は、望まれたことをすれば叶えられました
役者の仕事は作品の歯車になること。歯車になることに徹するうちに自分を見失い、アイドル活動を通して自分の根幹を思い出す、という泰葉さんのメモリアルコミュは良かったなぁ。

でも、アイドルってそれだけじゃないですよね
役者は作品の歯車だけど、アイドルはアイドル単体で一つの作品。役者は監督の望みに応えれば良い(それができるのもすごい)けど、アイドルは不特定多数のファンの望みに応える必要があり、難度は段違い。
 アイドルの舵取りはPと一緒に進めることになるだろうけど、Pに任せきりではいけない。そういえば、コミュ2冒頭だったか、にも似たような発言がありましたね。あれは伏線だったのか。

 自分のために、もう一度アイドルになった瞳子さんの言葉。
なりたいものって、無理に探さなくてもいいんだ
瞳子さんだからこそ、響く言葉なのでしょう……。

 ショックを受ける泰葉さん。
でもそれじゃあ、ファンのみんなになんて言ったら……

 ここでちょっと思索

 メモリアルコミュを読んだときの感想ではありますが、泰葉さんは「他人の望むこと」を察して応える能力が高いように思います。そして、だいたいのことはそれでうまくいく。それ故に、「他人の望みに応えること」に思考が縛られているのでしょう。
 今回の場合は「例の質問に良い答えを出すこと」=「アイドルとしての姿勢をファンに明確に提示すること」に囚われている。アイドルとファンは切っても切り離せない関係ではありますが、しかし「アイドルとしての自分のあり方」という問答は、極めて私的なものです。そのはずなのに、問答の途中に「ファンのみんなになんて言ったら」という言葉が出てくる。未だに、泰葉さんは自身を、「他人(ファン)の望みに応える存在」と思っているところがあり、「自分の望み」にあまり注目できていないようです。
 泰葉さんの望みは「他人を喜ばせること」でした。泰葉さんは、他人を喜ばせる方法論として、「他人の望みに応える」を中心に据えています。この方法論は対症療法的で、事態が発生してからの対応が命です。逆に言えば、将来のことについてはあまり考えなくて良いのです。しかし例の質問は、「これからの自分の望み」に対するものです。
 今後も、泰葉さんの望みは「他人を喜ばせること」であり続けるのでしょう。「現在の自分」に対する質問なら「ほら、こんなふうに」と今の自分を見せることでなんとかなるのでしょう。しかし、方法論を対症療法に縛っている限りは、「これからの自分」の具体的な答えは出しようもないです。でも、対症療法を重んじるからには、事態が発生した=質問されるからには答えを出さないといけません。答えられない質問。これは困った。ピンポイントにクリティカルなところに刺さった。
 対応するには「目の前の人々の望みに応える」という対症療法以外の方法論を確立せねばなりません。しかし、生き方にまで沁み込んだこの方法論以外の方法論を確立するのは、一朝一夕にはできません。
 結局、「これからどんなアイドルになりたい?」に対する具体的な答えは、現状では出せないのです。今後の、新しい課題というやつですね。

 本編に戻ります

 瞳子さんが泰葉さんを優しく諭します。
「なりたい」って気持ちは、他の誰かのためじゃなく、泰葉ちゃんのためにあるの
答えが出ないからって誰もガッカリしないし……
ファンを信じてみましょう?

 答えを今すぐに出さなくても良いこと、「ファンの望みに応える」と「質問に答える」がイコールではないことを認識したことで、泰葉さんに少し余裕ができたようです。

 事務所にて、ファンミーティングでやってみたいこと、「泰葉さんの望み」をPに打ち明けるようです。先が気になる……。

 ファンミーティング当日、泰葉さんを心配するGBNS一同。GBNSはやっぱり3対1の構図になりやすいのかな……?

 さあ、いよいよファンミーティングだ!

コミュ5

 最後の質問は「演技をする際に気をつけていることはありますか?」
あれ、「これからどんなアイドルになりたい?」は……?

 周りから浮かないために「オーバーに演技しすぎないこと」と答える泰葉さん。これは……深読みせず、(泰葉さん特有ではあるが)普通の質問を普通に答えた、と思えばいいのかな……?

 スシローコミュ読んだ人、みんなが思ったのではないだろうか。ファン、もうちょっと穏やかだと思ってた。

 最後の質問後、今後の意気込みや将来の目標について訊かれる。おお、ちゃんと「これからどんなアイドルになりたい?」があった。

どんなアイドルになりたいかなんて、今まで考えたことなかったんです
昔に比べたら見えるものも昔より広くて、たくさんあって
だから今は、まだみんなに「こうなります」なんて、将来を語ったりすることなんてできません
ひとつだけ、確かに言えることがあります。「みんなを笑顔にしたい」。それだけは、この業界に入った頃から変わらない気持ちです。

これまでのすべてを正直に言う、という答えでした。現状の集大成ですよ。最高じゃないですか。

 質問に答え終わった泰葉さん、ファンのエールを受けてから、逆にファンへ質問するようです。「みんなのなりたいこと、聞いてもいいですか?

 「有名になりたい」「なりたいことを探している」といった答えが返る。なりたいことなんて具体的に考えて答えられる人の方が少ないようなぁ。
 ここで「女の子」が登場。

わたし、泰葉ちゃんみたいになりたいです!
 これは、すごい。コミュ1は伏線だったのか。最初から答えは提示されていた、ってやつですよ。構成良いなぁ。

私も、なりたいって思い続けてもらえるように頑張るね!
そう、これが、現状の泰葉さんが出せる「なりたいもの」の答え。具体的な答えは出せない泰葉さんだけど、「ファンの望み」に応えながら自分を良い方向に変化させ続ける、という、将来の結果ではなく、将来の過程については答えられる。おお。

 ファンミーティング終了後、控え室で瞳子さん、蓮実さん、雪菜さんと会話する泰葉さん。

なんていうか……全部、私の考えすぎでしたね
 振り返ってみると確かに、正直に自分のことを話しただけで、アイドルに対する姿勢もコミュの前後で大して変わっていない。客観視すると、変化はあまりないんですよね。

泰葉さんらしい言葉でコミュが締め括られる。
ひとつ仕事が終わっても、気は抜きませんよ。次の仕事もよろしくお願いします。

全体を読んで

 面白かった〜。泰葉さんの小さな大冒険でした。

 振り返ると、問題提起のコミュ1内の「サインください」で、結論のコミュ5の「泰葉ちゃんになりたい」が先取りされていた、というのは楽しい構図ですよね。
 泰葉さんのキャラクターに関してはコミュ4が一番大事なんですけれど、コミュ5で伏線も物語も綺麗に回収されて、スッキリ満足です。
 瞳子さんがすごく良い味を出していた。瞳子さん、蓮実さん、泰葉さんの貫禄トリオでユニット作られたりしないかな。

 今回のコミュは、「これからどんなアイドルになりたい?」の質問に始まり、「今まで通り頑張り続ける」という答えを返す物語でした。
 トータルで見ると、得た知見は「なりたいものを無理に探さなくて良い」「質問に具体的な答えが出せなくても良い」「ファンを信じてみよう」くらいのもの。大きな意識の変化はありません。新たな知見は一般によく言われる、当たり前とも言えるようなことです。
 迷子になって不安になって散々道を聞いたりしたけれど、抜け出してみると、いつも知っている道から一本路地に入っただけだった、という類の、よくある話です。客観視して結論を聞くと、それだけ?と言われかねない話。
 でも、そういう、当たり前のことをより深く理解することって、すごく、すっごく重要なことだと思うのです。言葉の重さが変わっていくのです。

 今後の泰葉さんはどうなっていくのでしょうか。新たな方法論とともに「なりたいアイドル」の具体的な答えを見つけるのでしょうか。これまで通り、具体的な答えはなくとも「なりたいアイドル」の姿勢を大事に抱えて歩み続けるのでしょうか。今後が楽しみです。

 感想は以上です。ここまでお読みくださった方、駄文に付き合っていただき、ありがとうございました。

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