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笑顔で、楽しく、笑ってバイバイ

緩和ケア病棟で最期を迎えた、ある患者さんの話です。

僕は看護師として、何度も生き死について話し合ってきました。

その方は、症状の進行とともに徐々に動けなくなり、ほぼ寝たきりの状態になっていました。


ある日、ベッドから天井を見たまま、彼は言います。

「笑顔で、楽しく、笑ってバイバイするんだもんな…」

自分の人生に。
自分の大切な人に。
自分の命に。
笑顔で、楽しく、笑ってバイバイしたい。

誰かに伝えるのではなく、まるで自分に言い聞かせているようでした。


彼は命の終わりが近いことを、ハッキリと自覚していました。

それは人生最期の「のぞみ」だったのかもしれません。

僕は黙って彼の言葉を聴くしかできませんでした。


僕たち医療者は、死を前にした人に対して、何もできないことがあります。

最期の一瞬一瞬を生き切ろうとする人の思いを、ただ聴くことしかできないことだってあります。

命の最期のとき、医療者が「何かできる」なんておこがましい。

そんなことはわかっています。

それでも何かの力になれたら。少しでも支えになれたら。

そんな思いで、緩和ケアに携わってきました。


人生は一度切り。「また次の機会に……」では遅いんです。命に次の機会はありません。

だからこそ、目の前にある「その時」をできる限り大切にしたい。

僕の目の前にいる人が、笑顔で、楽しく、笑ってバイバイできるように。

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