何かを「する」より、そこに「いる」ことの大切さ
目の前に苦しむ人、悩む人がいるとき、僕たちはどんなことをすればよいのでしょうか。
つい「何かをしなければ」と考える人もいるでしょう。
ただし目の前にいるその人は、本当に何かをしてほしいと思っているのでしょうか。
人によっては、何かをしてもらうことではなく、誰かに側にいてもらうことが必要なことがあります。
僕が看護学生さんの実習指導をしていたときのこと。
グループの中の学生さんが、終末期の患者さんを担当していました。
その患者さんは、若い子と関わることが大好きで、担当の学生さんといつも楽しそうに話をしていました。
実習が終わってから徐々に体の状態が悪化し、数日後に娘さんに見守られながら旅立たれました。
最期の瞬間を迎えるとき、娘さんは僕に教えてくれました。
学生さんとの関わりが本当に嬉しかったこと。
お礼に手紙を書こうとしてくれていたこと。
体調が悪化したため、手紙は書けなかったこと。
「父は学生さんとのことを、嬉しそうに私に話してくれました。学生さんのおかげで、私も嬉しい気持ちになりました」と、娘さんも感謝の思いを話してくださいました。
後日、その学生さんの実習指導教員と会ったとき、患者さんと娘さんが感謝されていたことを伝えました。
驚いたことに、学生さんは「患者さんのそばにいるのに、何も出来なかった」と教員に話していたそうです。
実習中は、話をする時間は長いものの、実際のケアができなかったことに悩んでいたようでした。
それでも患者さんは、学生さんとの関わりを楽しく感じ、感謝の手紙まで書こうとされていた。
その患者さんにとっては、学生さんが何かを「する」ことが大切だったのではなく、そこに「いる」ことが最も大切な支援になっていたようです。
僕たちは、苦しむ人、悩む人のために何かをしてあげなければと思ってしまいがちです。
ただnot doing but being(することではなく、そこにいること)が大切な場面だってあります。
僕はこの出来事から、2つの大切なことを改めて学ぶことができました。
相手が望むことをちゃんと理解すること。
相手の望みにこたえられるように全力を尽くすこと。
僕たち人間が一人ひとり違うように、人が望むこともそれぞれ違います。
目の前にいる人の生き方に寄り添えるように、常に全力で関わっていきます。