【北大阪環状モノレール】第6回 第一期工事区間(案)を発表!万博新アリーナへのアクセスとしてデビューするという戦略‼
2024年7月下旬、北大阪環状モノレール準備室は第一期工事区間(案)として、茨木市中心部から万博記念公園を経て吹田市の阪急北千里駅までの区間と、箕面市の北大阪急行(地下鉄御堂筋線)箕面萱野から阪急箕面駅までの区間を第1期工事区間の案として発表しました。
北大阪環状モノレール準備室は、「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」が動き出す中で、より顕在化した万博記念公園の交通課題の解決に貢献することで、構想実現に向けての第一歩を踏み出すという戦略を打ち出しました。
第6回ではこの「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」、万博記念公園が抱える交通課題、そして、準備室の戦略について見ていきたいと思います。
1:北大阪環状モノレール準備室、第一期工事区間(案)を発表!
建設区間は茨木市中心部~万博記念公園~阪急北千里と箕面萱野~阪急箕面の2区間
北大阪環状モノレール準備室は2024年7月下旬、北大阪環状モノレールの第一期工事区間(案)を発表しました。
それによると、第一期工事区間として2区間が示されています。
1区間目は、環状線の茨木シティー駅から、南茨木、JR茨木を経て、当初計画にはなかった吹田市の万博新アリーナ(万博記念公園)さらに同市の阪急北千里駅までの10.15㎞です。
2区間目は、東西線の北大阪急行(地下鉄御堂筋線)箕面萱野駅から阪急箕面駅までの2.5㎞です。
2:第一期工事区間(案)の背景にある「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」
大阪府が進める「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」
茨木シティー駅から北千里までの区間を第一期工事区間とした背景には、大阪府が進めている「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」があります。
「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」とは、大阪府が2015(平成27)年11月に策定した「日本万国博覧会記念公園の活性化に向けた将来ビジョン」を実現するための事業の一つです。
「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」では、以下に詳述しますが、最大収容人数18,000人の大規模スタジアム建設がメインの事業となっています。
「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」の内容
「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業」の主な内容は、大阪モノレールの万博記念公園駅前周辺地区に「大規模アリーナを中核とした大阪・関西を代表する新たなスポーツ・文化の拠点」と「周辺施設との相乗効果も考慮しつつ、ホテル等を一体的に整備」するものです。
なぜ大規模アリーナが整備されることになったのか?その理由として、次の点があげられています。
近年、スポーツ観戦やコンサート等を通じて生の感動を味わいたい人が増え、大規模アリーナへの需要が高まっていること
首都圏などでは行政が主体となって大規模なアリーナの整備が進められてきたが、大阪・関西圏ではその動きに乏しく、このままでは大阪・関西圏が大規模なスポーツ大会や音楽イベントの開催地として選ばれなくなってしまう可能性があること
事業実施に当たって大阪府は、民間事業者からの事業提案を公募しました。
2021年5月に、応募があった2者のうち、三菱商事都市開発株式会社、Anschutz Entertainment Group,Inc.(AEG/アンシュッツ エンターテインメント グループ)、関電不動産開発株式会社からなる共同企業体による事業提案が選ばれました。
計画されている万博記念公園 新アリーナの概要
三菱商事都市開、AEG、関電不動産開発の企業体が提案したアリーナの概要は次の通りです。
最大収容人数:18,000人(固定観客席13,400席)
延床面積:69,550㎡
想定年間イベント:165回(2日に1回開催)
想定来館者数:約180万人/年(イベントあたり来場者は平均10,909人)
このほか、5Gなどを活用した通信環境を整備し、タッチレス、キャッシュレスによる決済環境を充実させ、快適なイベント観覧を実現するとしています。
この万博記念公園駅前に計画されているアリーナは、他のアリーナと比べてどのくらいの規模なのか?国内で最大規模を誇る「さいたまスーパーアリーナ」、大阪市の「大阪城ホール」とスペックや稼働実績を比較してみました。
【コラム】共同企業体の中に入っているAEGとはどんな会社なのか?
AEGは、アメリカに拠点を置く世界的なエンターテインメント企業です。大阪府の資料では、同社について次のように説明されています。
「世界有数のアリーナ、エンターテインメント・ディストリクト開発、スポーツ、音楽興行の総合企業。ローリング・ストーンズ、テイラー・スウィフト、セリーヌ・ディオン等の世界ツアーを手がけ、欧米でプロ・スポーツチーム(ロサンゼルス・レイカーズ等)を所有。5大陸で数多くのアリーナ、大型劇場を所有・運営」
AEGは日本国内ではほかに、名古屋市で事業が進められているIGアリーナ(愛知県新体育館)の整備・運営等事業に構成企業の1社として参画しています。
3:万博記念公園の交通課題
輸送力不足によって生じる大都市部の公共交通空白地帯
大阪モノレールの万博記念公園駅は、現在、万博記念公園、日本最大級の大型複合施設「EXPOCITY」、Jリーグ「ガンバ大阪」のホームスタジアム「パナソニックスタジアム吹田」の最寄り駅です。
しかし、これら集客力がある施設が集まっているにもかかわらず、アクセスに利用できる公共交通機関が大阪モノレールと休日のみ運行される路線バスしかありません。さらに、2024年夏にはJR茨木駅からの路線バスが運転手不足により全便休止され、茨木方面から万博記念公園へ路線バスによるアクセスが無い状態になってしまいました。
輸送力不足によって生じる、大都市部における公共交通機関の空白地帯ともいえる状況です。
このような交通状況のまま新アリーナとその関連施設が加わると、大阪モノレールだけでは万博記念公園周辺施設への来訪者を輸送しきれなくなることが十分に考えられます。
また、万博記念公園を取り巻くように通る万博外周道路(大阪府道1号線)では渋滞が頻発し、周辺住民からは緊急自動車の走行に懸念が示されています。さらに、休日や行楽シーズンは駐車場も満車となるなるなど、自動車によるアクセスも限界に近い状態になっています。
コロナ前の万博記念公園周辺の主な施設の年間来場者数
万博記念公園 自然文化園
来場者数
2019年度:約237万人
1日あたり来場者数:6,493人(237万人÷365日)
「EXPOCITY」(エキスポシティ)
来場者数
2015年度(開業初年):約2,400万人
1日あたり来場者数:65,753人(2,400万人÷365日)
市立吹田サッカースタジアム(パナソニックスタジアム吹田)
総入場者数(Jリーグ試合)
2019年度:約48.3万人
1試合あたり来場者数:13,054人(48.3万人÷37試合(2019年度試合数))
4:北大阪環状モノレール準備室の戦略
北大阪環状モノレールを万博記念公園が抱える交通課題解決の切り札に!
万博記念公園エリアは、集客力のある施設が集まっているにもかかわらず、輸送力不足が懸念され、指摘もされています。そして新アリーナが加わることになりました。
北大阪環状モノレール準備室は、モノレール建設を通じて、万博記念公園が抱えている交通課題の解消に貢献するとともに、大きなニーズがある万記念公園エリアを沿線に取り込むことで、北摂地域全体の発展に寄与する北大阪環状モノレールの全体構想実現に向けて、その経済的基盤を強化するとしています。
「吹田万博記念公園駅周辺地区活性化事業に伴い新たなモノレールで(中略)それら来場者の移動の流れを整備して収益を得ることにより、以後の工事準備資金を減らすことができます。このことによる北摂地域への経済効果は非常に大きなものになります。」
(北大阪環状モノレール準備室ホームページより)
上述の通り、万博記念公園は自動車によるアクセスも限界に達している状況です。そのせいか万博記念公園へのアクセスにモノレールを利用する人も増加しています。
茨木市中心部からの路線バスの運行休止などの状況と合わせて考えると、北大阪環状モノレールによるアクセス整備は、求められている事業だと考えられます。
5:万博記念公園への新たなアクセス整備を求めるその他の声
新アリーナ建設計画なども踏まえ、万博記念公園への新たなアクセスを求める声として、北大阪環状モノレールのほか、次の2つの案がネット上などで示されています。
北大阪環状モノレール以外の主な2案
(1)大阪モノレールの輸送力増強案
車両数の増加(増結や列車編成の増備)、JR京都線との接続改善など
(2)大阪メトロ今里筋線の延伸案
現在の終点、井高野駅(大阪市東淀川区)から、阪急京都線正雀駅、JR京都線岸部駅を経て万博記念公園までの延伸
2つの案の問題点・課題
1案目の大阪モノレールの輸送力増強は、先述の通り大阪モノレールは現在、東大阪市への延伸工事を進めています。しかし工事費が当初見込みから大幅な増額となり、工期も延長となってしまいました。現状、この事業推進が最優先課題となっており、新規事業を追加できる状況ではありません。
また、JR京都線との接続改善は、JR京都線上にモノレール宇野辺駅と連絡する形で新駅を建設するか、北大阪環状モノレールのJR茨木、南茨木間を建設することになります。
2案目の大阪メトロ今里筋線の延伸については、大阪府は採算性に問題があり現状では難しいとの見解を示しています。また、先述の通り、今里筋線は単体では赤字路線となっている状況もあります。
一方で、今里筋線を延伸すると大阪市東淀川区から阪急京都線正雀駅、JR京都線岸部駅への新しいアクセスとなるほか、旧国鉄吹田操車場跡地を再開発し国立循環器病センターが移転してきた「健都」(北大阪健康医療都市)のアクセス性も向上します。潜在的な需要は大きいのではないかと考えられます。
ただ、地下鉄の場合は建設費が高額になることや、工期が長期にわたることが想定されます。このためこの区間(地下鉄井高野~JR岸部~阪急正雀~万博記念公園)をモノレールとすることも考えられます。
次回は、今回の第一期建設区間で新たに駅が計画された吹田市の北千里駅の状況についてみていきたいと思います。
<参考情報>
北大阪環状モノレール準備室ホームページ
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