【北大阪環状モノレール】第5回 損益計算書を作ってみた!年間売上高は約20億円…
第4回では、投資という面から北大阪環状モノレール構想について考えてみました。第5回では、 北大阪環状モノレールの推定損益計算書を作って、経営面から北大阪環状モノレール構想について考えてみたいと思います。
1:損益計算書を作ってみた結果
年間の売上高は19.9億円。しかし、赤字額は54億円越え‼
「北大阪環状モノレール」が計画されているのと同じ北摂地域を営業エリアとして、すでに運行している大阪モノレールの経営データを参考に「北大阪環状モノレール」の収支を推計してみました。
大阪モノレールと同じモノレールシステムで茨木市内環状線を建設し、大阪モノレールと同じスキームで運営を行うと仮定した「北大阪環状モノレール」の年間の収支は、下表「北大阪環状モノレール推定損益計算書」の通りです。
結論は、大阪モノレールと同じモノレールシステムによる「北大阪環状モノレール」の収支は大幅な赤字となり、モノレール事業単体では経営が成り立たないと考えられるとなりました。
大阪モノレールと比べた場合、予想される利用者が大幅に少ない
「北大阪環状モノレール」は、営業規模(全線営業距離)が大阪モノレール(大阪国際空港~門真市・万博記念公園~彩都西)28.0㎞とほぼ同じ27.25㎞(茨木市内環状線)です。同じモノレールシステムを建設し運営すると、営業費(売上原価+販管費)は大阪モノレールとほぼ同じになると考えられます。
一方、沿線人口は北摂4市(豊中、吹田、茨木、摂津)を横断する大阪モノレールに対し、茨木市内だけで完結する「北大阪環状モノレール」は大幅に少なくなます。利用者の大半が沿線住民だと考えると、利用者数も沿線人口に比例すると考えられ、営業収益(売上高)は大阪モノレールと比べると大幅に少ないとの結果になりました。
北摂4市(池田、箕面、茨木、高槻)を結ぶ東西線の建設で収支は改善するか?
前回も触れましたが、茨木市内環状線に加えて「北大阪環状モノレール」東西線(池田市~高槻市)の計画が発表されました。
この線により、茨木市に加え、池田市、箕面市、高槻市の人口が沿線人口として増えます。東西線の沿線人口は4市合計で879,165人となり、茨木市の人口の3倍となります。そのため、今回の推計方法では収益は単純増加となります。しかし、営業規模(営業距離)が大きくなり、その分営業費用が増加することになります。
東西線の想定距離は、今のところ準備室より公表されていないため、東西線を含めた損益を今回は算定していませんが、上記の推定損益計算では、営業費が営業収益の3.5倍と沿線人口の増加分を上回っており、営業費が変わらないとしても黒字にはならないと考えられます。
また、前回も述べた通り、東西線は既設の大阪モノレールの平行線(競合線)と捉えることができます。今後、マクロ的には人口が減少していく流れの中、大阪モノレールの利用者減につながる可能性もあり、関係者間で合意が得られない可能性があります。
2:損益計算書の結果をどのように考えるか?
これまで述べてきた計画地域(駅候補予定場所)のポテンシャルと、今回作ってみた推定損益計算書の捉え方が、「北大阪環状モノレール構想」の成否を大きく分けると筆者は考えています。
結論1:収益を見込むこどころか、巨額赤字となるため計画は中止する
収益19.9億円に対し、営業費73.8億円。赤字額54.2億円
巨額の赤字が見積もられるこの事業は、運営不可能、成立しないと考えることができます。
今回の損益計算書で営業係数(経費÷収益×100)を算出すると、370となります。一方、大阪モノレールの営業係数を同社の損益計算書をもとに算出すると約80です。
同じ北摂を営業基盤としても「北大阪環状モノレール」は100円の収益を得るために370円かけなければならない可能性があるのに対し、大阪モノレールは100円の収益を得るのに80円で済んでいるという状況です。
大阪都心部の地下鉄も路線別にみると巨額赤字を出している。しかし、事業が成り立っているのはドル箱を持っているから
少し古い資料ですが、2017(平成29)年度の大阪市営地下鉄(現・大阪メトロ)の線別営業係数を見てみました(下表参照)。
大阪都心部の市内の地下鉄と新交通システム(ニュートラム)では、9路線中5路線が黒字ですが、4路線が赤字である(営業係数が100より大きい)ことが示されています。2017(平成29)年度において赤字となっている路線の赤字額はそれぞれ次の通りです。
千日前線 ▲23億4,900万円
長堀鶴見緑地線 ▲35億1,900万円
今里筋線 ▲37億9,700万円
南港ポートタウン線(新交通システム) ▲17億4,200万円
4路線の赤字額合計 ▲114億700万円
路線ごとに見ていくと、大阪都心部の地下鉄も巨額の赤字を出していますが、大阪の地下鉄には、路線単独で年間371億7,500万円(2017年度)という巨額の黒字を生み出す御堂筋線という全国トップクラスのドル箱路線があり、この赤字をすべて吸収してしまっています。
「北大阪環状モノレール」事業を進めるためには、御堂筋線のような存在の事業を別に生み出すか、すでに持っている事業体が運営の主体にならなければならないといえます。
結論2・・・。ここからが本題!
結論1を受けて「北大阪環状モノレール」の議論は基本的には終わりというのが大方の見方、常識的な考えではないかと思います。
しかし、今回の連載「北大阪環状モノレール構想への提案」の主な目的は結論1で終わらせないということで、ここからが本題です。
そこで、ここから結論2として書き進めていきたいところですが、長くなりそうなので、今回はひとまずここまでとします。続きは次回以降にしたいと思います。
3:19.9億円の売り上げが立つチャンスを活かす!
今回の推定損益計算書で、これまでの大阪モノールと同じモノレールシステムによる事業では、大幅な赤字となりました。しかし、見方を変えれば、年間19.9億円の売り上げが立つ交通事業のポテンシャルがあるともいえます。さらに、主要な沿線である茨木市は人口が微増し、彩都を中心に開発も進めらてます。
この金額は、少なくとも、中小事業者や個人にとっては巨額なものであり、何かしらのチャンスを感じさせます。
巨額投資を避け、黒字となる営業費で人々の移動ニーズを満たす方法は?
沿線のポテンシャルを踏まえた新しいニーズの発掘、創出ができないか?
この点が北大阪環状モノレール構想を実現させるポイントだと、筆者は考えています。
4:まとめ
今回は「北大阪環状モノレール推定損益計算書」を作って、経営面から北大阪環状モノレール構想について考えてみました。
同じ北摂地域を主な営業エリアとしてすでに運行している大阪モノレールと、同じモノレールシステムで茨木市内環状線を建設し経営すると仮定すると最初の結論(結論1)は次のようになりました。
年間の売上高は19.9億円。しかし、赤字額は54.2億円とモノレール事業単体では、経営が成り立たないと考えられる。推定損益計算書を見る限り、結論1として計画(構想)の中止が考えられる。
結論1からすると、この構想の中止もやむなしとなりますが、この連載の目的は、これで終わらせないということです。その点については、結論2ということで次回以降、書いていきたいと思います。
今回の推定損益計算書で、北摂地域で年間19.9億の売り上げが立つ交通事業の可能性が見えてきました。構想の中心である茨木市では人口が微増し、彩都を中心に開発も進めれています。
「このポテンシャルを、チャンスとして活かせないか?」
筆者はこのように考えています。
5:推定損益計算書に用いた数字の内容(算出プロセス)の説明
今回、作成した「北大阪環状モノレール推定損益計算書」の各項目とその数字の算出プロセスは次の通りです。
1:営業収益
計算式:年間の推定利用客数×推定客単価(利用客一人当たり運賃)
①年間推定利用客数の算出
地域交通機関であるのモノレールの利用客は、その大部分が地域住民と考えられます。そこで、同じ北摂の地域交通として運行している大阪モノレールの北摂各市内別各駅の1日あたり乗車人数(図1)が、大阪モノレールが通過する北摂各市(豊中、吹田、茨木、摂津)の人口のどれくらいの割合(何%)か各市毎に算出し、その割合の平均を求めました(図2)。
北摂では、各市の人口の8.92%(図2の(C)値)に当たる人数が、毎日モノレールを利用していると考えました。
したがって、茨木市内で完結する「北大阪環状モノレール」の1日あたり利用者(乗車人員)は、茨木市の人口の8.92%になると考えました。
290,223人×8.92%=25,888人
年間利用客数はこの値に365日を乗じたものです。
25,888人×365日=9,449,120人=年間の推定利用客数
②推定客単価(利用客一人当たり運賃)の算出
同じ北摂の地域交通機関として運行している、大阪モノレールの乗客一人当たり運賃(客単価)と同じ額にしました。
大阪モノレールの2022年度の年間輸送人員は44,326,122人、合計運輸収入は9,358,088,000円でした。したがって大阪モノレールの乗客一人当たり運賃は次の通りです。
9,358,088,000円÷44,326,122人=211円=推定客単価
以上から、年間の営業収益を次のよう算出しました。
9,449,120人×211円=1,993,764(千円)
2:営業費
営業費は営業規模(全線営業距離)に比例するすると考えました。また、既存の大阪モノレールと同じモノレールシステムで茨木市内環状線を建設し、大阪モノレールと同じスキームで運営を行うと仮定しました。
営業費は次のように算出しました(図3)。
3:営業外収益・営業外費用
大阪モノレールと同じモノレールシステムで茨木市内環状線を建設し、大阪モノレールと同じスキームで運営を行うと仮定ています。営業外収益、営業外費用の対営業収益率は大阪モノレールと同じ考えました。
大阪モノレールの売上高営業外収益率:0.93%
大阪モノレールの売上高営業外費用比率:2.83%
推定営業収益×0.93%=「北大阪環状モノレール」推定営業外収益
推定営業収益×2.83%=「北大阪環状モノレール」推定営業外費用