【北大阪環状モノレール】第7回 第一期工事区間(案)で駅ができる北千里について
第6回では、2024年7月下旬に北大阪環状モノレール準備室より発表された、第一期工事区間(案)の中で、駅ができる場所として示された万博記念公園周辺の状況を見ました。
第7回では、引き続き、同じく第一期工事区間の中で、駅ができる場所として示された千里ニュータウン北地区の中心、北千里の状況を見ていくとともに、北大阪環状モノレールができた場合、これからの北千里にどのように貢献できるかを考えてみたいと思います。
1:第一期工事区間(案)で駅ができるとして示された北千里の状況
北千里について
千里ニュータウン北地区の中心、また阪急千里線の終点として、1967(昭和42)年に北地区センターと北千里駅が開業しました。以来、北千里は千里ニュータウン北地区の中心として機能しています。
北千里には、開業時よりショッピングセンターがあります。また、バスターミナルも整備されており、千里ニュータウン内はじめ、箕面市の粟生団地、間谷住宅などを結ぶ路線バスが発着しています。
ショッピングセンターは、1994年に「ビブレ北千里」(現在の「イオン北千里」)を中核店とした「ディオス北千里」としてリニューアルし、既存施設も含めた大型ショッピングモールへと変貌しています。
北千里駅は、大阪大学吹田キャンパス、府立北千里高校、金蘭千里大学、金蘭千里高校・中学の最寄り駅であるほか、茨木市にある梅花女子大学、関西大倉中学・高等学校、早稲田摂陵高校などのスクルールバスが発着し、学生の利用が多いのも特徴のひとつです。
【コラム1】千里ニュータウン
千里ニュータウンは大阪市中心部から北へ約12㎞、北摂の豊中市と吹田市にまたがる地域にあります。面積は1,160ha。人口は約10万3千人(2021年現在)です。
その歴史は、高度経済成長が始まった1950年代後半、顕著になり始めた都市部への人口集中とそれによる住宅不足、また無秩序な宅地開発に対応するため、大阪府が中心となり計画がスタートしたところまでさかのぼります。
ニュータウン建設に当たっては、1920年代にアメリカのクラレンス・ペリーが提唱した近隣住区理論(neighborhood unit)を取り入れました。この理論は、幹線道路で区切られた地区(小学校区)をひとつのコミュニティと位置づけ、日常生活に必要な施設をコミュニティに計画的に配置することで、近隣どうしのつながりを保ちつつ、秩序だった住宅地を形成するというものです。
このようなまちづくりは日本初の試みで、千里ニュータウンは日本初の「ニュータウン」として、以後の日本のまちづくりに大きな影響を与えてきました。
千里ニュータウンでは1962年に最初の入居が始まったこともあり、2000年頃から住民の高齢化と建物の老朽化が見られるようになりました。その様子をさして「オールドタウン」と呼ばれることもありました。しかし、開発から数十年を経て、開発地に根付いた緑と調和した街並みに愛着を持ち、住み続ける住民も多くいます。
この街並みを次世代につないでいこうと吹田・豊中両市の行政と地域住民によるニュータウン再生の取り組みが続けられています。
2:北千里の再整備
北地区センターと北千里駅の開業から半世紀以上、さらに施設のリニューアル(「ディオス北千里」のオープン)から30年が経過し、施設の老朽化が目立ち始めました。また、時代が移り変わる中で人々のニーズも多様化してきています。
このような状況を踏まえ吹田市は、2016(平成28)年に「北千里駅周辺活性化ビジョン」を公表しました。
北千里駅周辺活性化ビジョン
「北千里駅周辺活性化ビジョン」は2014年から2015年にかけて、基調講演、ワークショップ、活性化ビジョン検討会議、アンケート調査、パブリックコメントを行い、市民、専門家、事業者、地権者などの意見を反映し取りまとめたものです。
吹田市はこの活性化ビジョンを市民や事業者と協働してまちづくりを進める際の指針として活用するとしています。
北千里再整備が目指すところ
少子高齢化や社会全体では人口減少が進む中、北千里が暮らしやすいまちであり続けるために、活性化ビジョンではまちづくりの目標として、次のようなことを掲げています。
「人と人を結ぶ」:北千里を人々が交流し豊かな生活を育む場所にする
「多様性の魅力」:個性的なお店やサービスが集まり、多様な人々が集まる魅力的なエリアにする
「新しい交流の場」:図書館やカフェなど、様々な目的を持った人々が集まる新しい交流の場を提供する
「多世代交流」:高齢者や子育て世代など、異なる世代が交流し、地域コミュニティを活性化する
動き始めた北千里の再整備
2017年に吹田市は、民間施行による市街地再開発事業を視野に入れた再整備手法の検討を開始しました。
検討の結果、事業性を見込めるとして、2022年に民間施行の市街地再開発事業として北千里の再整備を行うことになりました。同年には今後、再整備の事業主体となる、北千里駅前地区市街地再開発準備組合が地権者によって設立されています。
【コラム2】市街地再開発事業とは
市街地再開発事業は、都市再開発法に基づく事業で、土地の合理的な高度利用と都市機能の更新を目的に行われます。
対象となる地区は、市街地において、細分化した土地利用がされているところ、老朽木造建築が密集しているところ、公共施設の不足などによる都市機能低下がみられるところなどです。
事業内容は、地区内建物の全面的な撤去、細分化された敷地の統合、不燃化共同建築物の建築、公園、緑地、街路などの公共施設の整備です。
事業方式には、第一種事業(権利交換方式)と、公共性・緊急性が著しく高い場所での事業を対象とした第二種事業(用地買収方式)の2種類があり、収支方式や施行者に違いがあります。
第一種事業では、これまでの権利者は従前の資産評価に見合う新しい再開発ビル等の床(権利床)を受け取ります。事業費は、土地の高度利用によって新たに生まれた床(保留床)を新たな入居者へ売却することによって賄います。
第二種事業では、対象地区内の建物・土地を事業者がすべて買収して行います。第一種事業同様、事業費は土地の高度利用によって新たに生まれた床(保留床)を新たな入居者へ売却することによって賄います。
<参考資料:国土交通省ホームページ>
地域住民から出された高層建築物に対する懸念
2022年10月には、市街地再開発事業等の都市計画決定に先立ち実施された環境影響評価による「(仮称)北千里駅前地区第一種市街地再開発事業に係る環境影響評価提案書」が公表され、具体的な再開発の内容も示されました。
ただ、ここで示された具体的な内容の中で地上36階、高さ123m、計画住戸700戸の高層住宅、商業棟が示されたため、地域住民の中からは、保留床の売却により事業費を賄うということに理解を示しつつも、環境悪化や事業性などを懸念する次のような声が上がりました。
環境保全への懸念:高層建築物により、青空が失われ、住環境が悪化するのではないか
空室問題: 周辺の既存のマンションでは空室率も高いようだ。新たなマンションを建てても販売が振るわないのではないか
景観と安全性:高層建築物により景観が損なわれる。また、地震時の安全性に疑問がある
説明不足:計画の詳細が住民に十分に説明されていないのではないか
このような声を受け、北千里駅前地区市街地再開発準備組合は計画の見直し行い、2024年6月に行われた「北千里駅前まちづくり意見交換会」で、住宅・商業棟の高さを事業成立のバランスを検討し、計画を地上28階、高さ約98m、住戸数を500戸に変更したことを説明しています。
北千里再整備の事業概要と今後の予定
北千里駅前地区市街地再開発準備組合が2024年6月に示した事業の概要は次の通りです。
事業名:北千里駅前地区第一種市街地再開発事業
開発面積:約3.5ha
予定事業費:約545億円
事業予定期間:2025年~2037年(事業予定期間は都市計画決定後)
事業スケジュールは2025年度中に都市計画決定を受けた後、2028年度から既存建物の解体など工事を開始し、グランドオープンは2037年を予定しています。
3:北大阪環状モノレール構想と北千里
これまでのところ北千里再整備事業の中に北大阪環状モノレール構想に関することは入っておらず、両プロジェクトの間に接点はありません。
ここでは、北千里再整備プロジェクトの内容を踏まえ、北千里に北大阪環状モノレールが仮に乗り入れることになった場合、どのようなメリットがもたらされるのかを考えてみたいと思います。
北千里を取り巻く環境を把握する
先に紹介した「北千里駅周辺活性化ビジョン」では北千里を取り巻く環境をSWOT分析を使って把握しています。
SWOT分析とは分析対象が置かれた現在の環境を外部環境と内部環境に分け、さらに内部環境を強みと弱み、外部環境を機会と脅威に整理していくものです。なお、SWOT分析については下記の【コラム3】で紹介しています。
「北千里駅周辺活性化ビジョン」で示されたSWOT分析の結果を、当チャンネルでまとめたものが下の図です。
北千里の再整備はこの分析結果など「北千里駅周辺活性化ビジョン」で示された内容をベースとして、北千里の強みと機会を活かし、弱みや脅威による影響を最小限にする方向で進められています。
北大阪環状モノレールが北千里に乗り入れる場合、この方向性に貢献できるものである必要があります。
北千里がこれから取るべき戦略に北大阪環状モノレールはどのように貢献できるか
SWOT分析はクロス分析を行うことにより、現状把握だけでなく、これから取るべき戦略を考える材料を提供してくれます。なお、クロス分析についても下記の下記の【コラム3】で紹介しています。
そこで、当チャンネルでは独自に上図の分析結果をもとにクロス分析を行い、その結果から、北大阪環状モノレールが北千里のこれからにどのように貢献できるか考えてみました。
◆北千里の強みを、取り巻く機会(チャンス)で活かすために
北大阪環状モノレールは、北千里の強みを持続可能なものにすることができます。そして、年齢を問わず、すべての人にとって利用しやすい交通アクセスを持続的に提供することで、北千里をより魅力的で住みやすい場所にすることができます。
◆北千里にとっての脅威を機会に変え、有利に脅威を切り抜けるために
北大阪環状モノレールによって北摂内の回遊性を高めることで、北千里ならではの魅力を求め人が来街しやすくなります。また、脅威となっている万博や茨木など北摂の他の商業エリアとシームレスで結ぶことによって北千里の利便性がさらに高まります。
◆北千里を取り巻く機会を活かすために、何を補強するべきか
再整備された北千里に必要なものは、年齢を問わず、すべての人にとって利用しやすい持続可能な交通アクセスです。北大阪環状モノレールは公共交通の課題に対応した誰もが利用できるものです。新しい北千里のまちに多くの人を呼び込むことができ、さらなる賑わいをもたらします。
◆北千里の持続可能性を高めるために、何を切り離すのか
北大阪環状モノレールによって北摂の他の商業エリアとシームレスに結ばれます。これにより大型ショッピングセンターなど他と類似の商業施設をなくせます。そして、例えば高等教育機関が集積している北千里の特色を活かしたまちづくりを追及でき、「北千里らしさ」を生み出すことができます。
北大阪環状モノレールには、北千里がこれから取るべき戦略を補うポテンシャルがあると考えられます。
【コラム3】SWOT分析とは
SWOT(スウォット)分析とは、企業において、自社の現状を把握するとともに、今後の事業戦略を策定するための分析手法です。
分析手順は、まず自社の置かれている状況を内部環境(社内の要因)と外部環境(社外の要因)に分け、さらに内部環境を自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)、外部環境を機会(Opportunity)と脅威(Threat)に整理していきます。
このように整理することによって、事業を進める上で自社の活かすべき強み、克服すべき弱み、また自社を取り巻く環境の中で生かすべき機会と、避けるべき脅威を可視化するとことができます。さらに関係者の間で分析結果を共有することで、組織としての意思決定をスムーズにすることができます。
さらに、クロス分析を行うことで、これからの事業戦略をより明確にすることができます。クロス分析によって下図の視点を得ることができます。
このようなSWOT分析は、企業分析に限らず組織全般の分析に利用されています。このほか、今回の北千里の例に使ったように、一つの地域を組織と見立て、地域の現状把握や今後の方向性を考えたりする際に使われたりするなど、様々な形で活用することもできます。
今回は、第一期工事区間の中で、駅ができる場所として示された北千里の状況を見るとともに、北大阪環状モノレール北千里に乗り入れた場合、こらからの北千里にどのように貢献できるか考えました。
次回は、引き続き、第一期工事区間で駅ができる場所として示された箕面市の状況について見ていきたいと思います。
<参考情報>
北大阪環状モノレール準備室ホームページ
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