価値【大西一郎『ある視点』第29回】
「女優の価値は、見ていたいか、見ていたくないか。」昔、よく通ってくれた劇団員のお客さんから聞いた言葉に、ひどく納得したおぼえがある。それは、演劇の世界の通説なのか、それともその人の個人的な考えだったのかはよくわからないけど、本当にその通りだと思った。
「映画とかドラマとかを見ていて、演技が上手い、下手っていうのが、いまいちよくわからない。」というようなことを私が言ったのだと思う。それに対する返事だった。「あー!」とか言って叫んだ気がする。
それは例えばこういうことかと、具体的に何人かの女優さんの名前を出して、さらに聞いてみると、「そうそう!」と答えてくれた。
確かに、お芝居の良し悪しが判らない私の目から見ても、けっして演技が上手なわけではない、あるいは顔が美しいわけでもなくても、なぜか目を引かれる、この人好きだな、この人が出ている映画観たいな、と思う人はいる。
演技が上手いとか、下手とか、容姿がきれいとかきれいじゃないとか、それだけで女優や俳優の価値が決まるわけではないのだ。私がその人を劇の中で観たいと思ったら、その人は私にとって価値のある役者なのだ。と、なぜそんな単純なことに今まで気が付かなかったのだろうか、とも思った。
そして私はその後、今でも時々、その言葉を何度も思い出すことになる。なにもずっと「女優の価値」について考えているわけではなく、これは演劇に限らず、どんなことにも当てはまることだったからだ。
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