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ゲッティ美術館で初めての本格的な日本人写真家二人の展覧会(2013年@LA)

ということで、師匠は昔話を語るお役目を期待されていますので、徒然に来し方を振り返りながら、本プロジェクトに関係のありそうなエピソードをご披露していきましょう。

●2013年7月22日ロサンゼルスより

 「ゲッティ美術館で現在開催中の写真展Japan’s Modern Divideに行かれましたか?」というのが、最近の私のここロサンゼルスでの挨拶になっています。
http://www.getty.edu/art/exhibitions/japans_moderndivide/

 石油王ポール・ゲッティが築いた世界一その財源が大きいと言われる財団が、1997年に14年間かかって築いたのがこの美術館です。高級住宅地ベル・エアとUCLAの広大なキャンパスが挟むかたちで通り抜けるサンセット大通が、フリーウエイ405号とぶつかるすぐ北部の丘の上に建っているので、アメリカの「アクロポリス」とも言われる所以です。レンブラントやゴッホ、セザンヌなどの名画コレクションのほか、これまでギリシャ・ローマ美術を中心に企画展をしていたゲッティ美術館ですが、今回初めて、本格的な日本人作家による展覧会を企画しました。

濱谷浩(はまや・ひろし)と山本悍介(やまもと・かんすけ)という20世紀の二人のまったく異なる写真家を扱っています。日本美術部を持たない美術館ですが、写真というメデイアだからこそ企画できたものでしょう。

海外で人気の郷愁をそそる作家と、シュールリアリストの新鮮な組み合わせ

 今回の展覧会では濱谷は、「雪国」や「裏日本」などとても情緒的な代表的作品と、1960年安保のドキュメントといった、戦後から70年代にかけての作品が展示されています。一部、濱谷の没後に作品を委託された東京の個人や美術館からの借出し作品があるものの、ゲッティがすでに購入して構築したコレクションもあります。

 また山本は、日本ではまだあまり知られていないシュールリアリストで、私もまったく今回まで知りませんでしたが、2001年に東京ステーションギャラリーで開催された個展は、このジャンルの覧会としては珍しく、展覧会図録がたくさん売れたそうです。戦前から、まだコンピューターが無かった時代に、このような実験的な写真の作品が、どのように作られたのか、学芸員もまだ解明できていない部分があるそうです。

 3月末に始まったこの二人展には、毎日平均して2,400人もの観客が押しかけているそうで、これまでの集客総数はすでに23万3千人にのぼっているそうです。ゲッティ美術館を訪問しているお客様の55パーセントが、必ずこの展覧会を見ている計算だそうです。

 広大な敷地を誇り、数々の建物が林立するかたちで様々な常設展や企画展が同時開催されているゲッティには、私もよく日本からのお客様をお連れしていきます。昨日(7月21日)に会期が終了したOverdrive: LA Constructs the Futureという話題の展覧会ですら、この日本の二人の写真展の集客人数に追いつかなかったと聞きます。これは、ロサンゼルスという街がどのように建設されたか、建築や都市計画の観点から歴史的に描かれたもので、派手にその広告が街のあちらこちらで展開されているものです。

NYレビュー・オブ・ブックでもイアン・ブルマが絶賛

 2年半前に、前任地のワシントンDCからロスにやってきたときに、何とこの町には文化芸術の話題が少ないのだろうと、私はさびしい思いをしたものです。が、このゲッティに通うようになって、少しこの街の良さを感じるようになったのは事実です。そして今、日本の芸術がこうやって脚光を浴びていること自体が、私にはとても嬉しく、この事はもっと知られてもいいのではないかと思っています。

 というのも、アメリカ国内でもこの展覧会のことを画期的なものとして取り上げてくれているのは、やはり東海岸の新聞が中心のようです。NY Review of Bookでは、あのイアン・ブルマがとても良い記事を書いています。
http://www.nybooks.com/blogs/nyrblog/2013/apr/10/japan-beneath-snow/

 他にもウオールストリートジャーナルが取り上げているほか、テレビではCNN、ラジオではNPRが取り上げています。ところが、まだ日本のメデイアはまだどこも取り上げていません。

70年代のニッポンがブーム

 とくに「具体」をはじめとして、日本の70年代アートを大規模に企画してくれたニューヨークMOMAやグッゲンハイム美術館に続けとばかりに、ようやくここ西海岸ロサンゼルスで、しかもゲッティでこの写真展が開催されたことは、大きな出来事と日本国内でも高く評価されてしかるべきと思います。これだけの集客を誇っているのですから、なおのことです。
 
 ロサンゼルスも、決してビーチとハリウッドだけの街でないことを、日本の20世紀写真家二人が教えてくれているのです。

ゲッティ美術館のプレス資料:http://news.getty.edu/japan-modern-divide-photographs-hiroshi-hamaya-and-kansuke-yamamoto.htm



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