形骸化したFMEAに新しい息吹を - 機能展開を活用した効果的なFMEA実施法
製品開発現場で「また FMEA ですか…」というため息が聞こえてきませんか?
品質保証の基本ツールであるはずの FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析) が、多くの現場で「やらなければいけないから行う」という形骸化した実施にとどまっています。本来、FMEAは技術資産として蓄積され、設計を効率化できる強力なツールのはずです。本記事では、なぜそのような状況になっているのか、そしてどうすれば本来の価値を引き出せるのかについて考えていきます。
1. はじめに:FMEAの現状と課題
多くの開発現場で、FMEAは次のような形で形骸化している状況が見られます:
過去の類似製品のFMEAをコピー&ペースト
チェックリストのような機械的な実施
前任者から引き継いだ表の項目を埋めるだけ
このような形骸化が起こる背景には、「客観的に故障モードを抽出することの難しさ」があります。頭の中では理解していることを文章化する作業は多大な労力を必要とします。
また、よく見られる誤りとして「FMEAを行っているつもりでFTA(Fault Tree Analysis:故障の木解析)になっている」という例があります。
FTAは「特定の望ましくない事象(トップイベント)が発生すると想定し、その原因を論理的に分解する」トップダウンアプローチであるのに対し、FMEAは「ある機能や部品に起こりうる故障を予測し、その影響を分析する」ボトムアップアプローチである、という違いがあります。技術者は往々にして故障の影響をユーザー視点で先に考えてしまい、系統的な分析が疎かになります。これでは、本来のFMEAの価値である「予断を排してロジカルに積み上げることで、想定していない問題に気付く」という効果が得られません。
2. FMEAの基本的アプローチ
効果的なFMEAを実施するための基本的なアプローチとして、7stepFMEAがあります:
準備:対象製品の範囲と目的の明確化
構造分析:製品の構造的な関係性の理解
機能分析:機能の関係性の明確化
故障モード分析:起こりうる故障モードと故障影響、故障原因の列挙
リスク分析:影響度、発生度、検出度の評価
対策検討:高リスク要因に対する必要な改善策の立案と再リスク分析
結果のまとめ:分析結果の文書化と共有
各ステップで重要なのは、「なぜそうなるのか」という論理的な検討です。特に準備段階での対象範囲の明確化と、最後の結果活用のフェーズは軽視されがちですが、FMEAの価値を最大化するために重要です。
3. 機能展開を活用したFMEA
7step FMEAで機能分析を故障モード分析の前に行う理由は明確です。ある機能の故障影響は、その上位機能の故障モードとなるというカスケード構造を持っているためです。
例えば、スクーターのリコール届出を例に故障モードのカスケードとして紐解いてみましょう。
リコール届出番号5569(リコール届出日:令和6年10月31日)の事例では、制動灯スイッチの不具合により以下のような故障の連鎖が発生しています:
下位機能:制動灯を点灯する
下位機能の故障モード:点灯する機能を永続的に喪失する
故障影響:エンジンが始動しない = 上位の機能の故障モード(機能の意図しない作動)
上位機能:エンジン始動時に安全を確保する機能(ブレーキを握ることでエンジン始動を可能にする)
故障影響:ユーザーがスクーターを使用できない
このように、機能展開をしなければロジカルに積み上げることはできないのです。
4. 効果的な実施のポイント
準備段階での叩き台作成
FMEAのチーム討議を実りあるものにするためには、事前の準備が重要です。特に故障モードの抽出をゼロベースからはじめようとすると、冒頭に述べたように議論が迷走し、エキスパートの知見が活かすべき故障影響や故障原因の推定を適切に行えません。
構想設計段階からの実施
FMEAは製品の要求を実現するための構想設計の段階から実施することが推奨されます。この段階で実施することで、全体像を把握することができ、詳細設計段階での設計漏れを防ぐことができます。
検討負荷の適正化
チーム討議においてリスク要因を挙げるだけ挙げて、対策検討を全て設計部門に丸投げしていては設計部門の負担が増す一方で、設計部門は疲弊し、最終的にはFMEAの形骸化へと至ります。評価部門や生産技術部門、製造部門においても発生度や検出度を改善するための検討を担うなどして、負荷を分散することが持続的にFMEAを行うために必要です。
5. デジタルツールによる可能性
近年のデジタル技術の発展により、FMEAの実施方法も進化しています:
モジュール化された分析結果の活用
評価済みの故障モード分析、リスク分析結果をモジュールとして保存し、類似の機能や部品に対して再利用することができます。これにより、新しいリスクにより多くのリソースを割くことができます。
類似事例からの学習
過去の類似製品のFMEA結果を、単なるコピー&ペーストではなく、知識ベースとして活用することができます。デジタルツールを使用することで、類似の機能や構造を持つ製品の故障モードを効率的に参照できます。
リアルタイムでの情報共有
チーム討議の内容をリアルタイムで共有、更新することで、より効果的な分析が可能になります。また、遠隔地のメンバーとも効率的に協業できます。
まとめ:これからのFMEA
FMEAを実効性のあるものにするには、機能展開を基礎とした系統的なアプローチと、デジタルツールの効果的な活用が鍵となります。これにより、分析結果を再利用可能な技術資産として蓄積し、設計を加速度的に効率化することができます。今までFMEAを行ううえでボトルネックとなっていた要因の多くは機能展開を筆頭にデジタルツールを効果的に取り入れることで解消することが望めます。
次回は「設計変更の影響範囲把握のベストプラクティス」について解説します。設計変更時にどのように影響範囲を特定し、適切に管理していくか、具体例を交えて説明していく予定です。
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