製品開発の「当たり前」を可視化する - なぜ今、機能展開が重要なのか

製品開発の現場で、「この製品の機能を整理してください」と言われたとき、皆さんはどのように対応されているでしょうか。経験豊富な設計者であれば、頭の中で製品の機能を整理して図や表にまとめることができるでしょう。しかし、これは果たして効率的なアプローチでしょうか。


1. はじめに:製品開発現場の「暗黙知」問題

製品開発の現場は常に多くの課題に直面しています。近年、焦点となっているのが、製品全体を把握できる人材の減少です。かつては、一人の設計者が製品の機械的な構造から電気的な制御まで、製品全体を理解していました。しかし、製品の高度化・複雑化とともに、開発の分業が進み、「製品全体を見渡せる視点」を持つ人材は減少しています。

さらに、グローバル開発の加速により、ODM(相手先設計製造)やOEM(相手先ブランド製造)の活用が一般的になり、関係者間での正確な情報共有は重要さを増すと同時に困難さが増す状況になっています。

開発スピードの向上は昔から常に強く求められており、IT技術の進化によりそのペースは加速する一方です。このような状況下で、開発現場はいかに効率を高められるかが常に問われています。

2. 機能展開とは何か

「機能展開」とは、製品が持つべき機能を体系的に整理・展開する手法です。ここで重要なのは、「機能」という視点です。例えば、扇風機を例に考えてみましょう。

- 物理的な構造:モーター、羽根、支柱、台座...
- 機能的な視点:空気を送る、風向きを変える、風量を調節する...

機能的な視点で整理することで、「なぜその部品が必要なのか」「どのような価値を提供しているのか」が明確になります。

実は、機能展開は設計者が設計するときに、誰しもが頭の中で行っていることです。しかしながら、明文化し、共有できている人は少ないです。ましてやそれを関係者が各々持ち寄って製品全体の機能展開を構築するということができている開発現場はかなり少ないでしょう。

また、機能展開について、よくある誤解もあります。「単に部品を機能的な言葉で書き換えればよい」というものです。実際の機能展開では、ユーザーにとっての価値から始まり、それを実現するための下位機能へと展開していく必要があります。

具体例として、自動車のワイパーシステムを見てみましょう。ある大手自動車メーカーの特許公報(特許第6316467号)では、以下のような機能展開が示されています:

  • 視界を確保する(最上位機能)

    • 雨滴を検知する

    • ワイパーの作動速度を制御する

      • 雨量に応じて速度を変更する

      • バッテリー消費を最適化する

    • ワイパーブレードを往復運動させる

このように、機能を階層的に整理することで、製品の本質的な目的から具体的な実現手段までを明確に把握することができます。

3. なぜ今、改めて機能展開なのか

製品開発を取り巻く環境は、大きく変化しています。特に以下の3つの変化が、機能展開の重要性を高めています。

製品の複雑化(スマート化・コネクテッド化)

従来の製品に、センサーやネットワーク機能が付加されることで、製品の機能は急速に複雑化しています。例えば、一般的な家電製品でも:

  • 従来機能:基本的な動作制御

  • スマート機能:スマートフォンとの連携、AI制御

  • ネットワーク機能:リモート操作、ソフトウェアアップデート

機能同士が深く連携するようになり、影響範囲を正確に把握することが不可欠になっています。

多様化する顧客ニーズへの対応

マスカスタマイゼーションやパーソナライゼーションの要求が高まる中、製品のバリエーション管理が重要な課題となっています:

  • 基本機能とオプション機能の明確な区別

  • 異なるバリエーション間での機能の共通化

  • カスタマイズ可能な範囲の定義

機能展開を活用することで、これらの整理を効率的に行うことができます。

DXと機能展開の相性の良さ

近年の大規模言語モデル(LLM)の発展により、機能展開のプロセスを大幅に効率化できる可能性が出てきました。例えば以下のように漠然とした仕様書から具体的な機能を抽出できます。

【製品仕様書の記述例】
「本製品は省エネ性能を向上させた新型エアコンである」

【LLMによる機能抽出例】

  • 室温を検知する

  • 設定温度と比較する

  • コンプレッサー出力を制御する

  • 消費電力を監視する

これにより、設計者は機能展開を作る工程が省略でき、いきなり活用するところから始められます。

 4. デジタルツールによる機能展開の効率化

機能展開はホワイトボードやExcelなどでももちろん可能です。しかし、効果的に活用するためには、デジタルツールの活用が強く望まれます。

1. 既存文書資産のAIを通じた活用

  • 仕様書・設計書からの自動機能抽出

  • 過去の設計資産の再利用

2. 遠隔チーム間でのリアルタイムの共有・レビュー

  • オンラインでの機能ツリーの共有

  • リアルタイムでのレビュー・コメント

3. PLMやCADと連携した製品バリエーション管理

  • 共通機能の特定

  • バリエーション間の差異の明確化

5. まとめ:これからの製品開発に求められること

製品開発の現場では、設計者の頭の中にある「機能についての理解」を、「構造化された見える形」にしてチームで活用することが、ますます重要になっています。

デジタルツールを効果的に活用することで、この「見える化」のプロセスを効率的に進めることができます。それにより、チーム全体での知識共有、設計品質の向上、開発期間の短縮を実現することが可能になるのです。

次回は、「FMEAの効果的な実施方法」について解説します。機能展開を基礎として、どのように効果的なFMEAを実施できるのか、具体例を交えて説明していく予定です。

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