第1回:イントロダクション──AIが変える「設計開発」の新時代へ
本シリーズ「製品設計の当たり前を変える──AI設計支援ツールG-FASSが実現する開発現場の革新」では、
設計開発の課題を整理し、
AI活用の具体像を知り、
実践に向けたステップを学ぶ
という3つのポイントを軸にお届けします。
1. 設計開発が直面する3つの本質的課題
製品開発の現場は常に効率化を求められ、そのプレッシャーは加速度的に増しています。製品は機械・電気・ソフトウェア・ネットワークといった複数分野の融合が進み、市場競争の激化によりますます開発期間は短縮化が求められています。加えて、製品開発のアウトプットは図面だけにとどまらず、多種多様な設計説明資料の作成や管理も必要になっています。
こうした背景の中、設計開発の現場では次の3つの本質的課題が浮き彫りになっています。
1.1 人間の認知能力の限界との戦い
製品の複雑化によって、要素同士の相互作用の範囲が大きく広がっています。これら広範囲な影響をあらゆる観点から完全に把握し、設計へ反映することは、人間の認知能力だけでは限界に近づきつつあります。
1.2 全体最適の困難さ
開発期間の短縮に対応するため、機械・電気・ソフトウェアなど各専門領域での分業が進められてきました。しかし、専門ごとに分業を進めるほど、最終的に製品として統合する際に大きな労力や調整コストがかかり、全体最適を図ることが難しくなるジレンマが生じています。
たとえば、ソフトウェア担当が機能追加を決めたものの、機械設計側との調整が不足していたため、後から大きな仕様変更が必要になる……といった事態は開発現場でよく見受けられます。
1.3 設計意図の伝達の困難さ
メーカーとサプライヤーが共同で設計データを共有する協調設計(※1)が増加しつつあり、開発の上流段階で設計意図を正確に共有し、すり合わせる必要性が高まっています。ところが、3D CADや図面、仕様書以外にも、ベテランの経験則や制約条件など文章化しづらい情報が多く、これらを抜け漏れなく伝えるのは容易ではありません。
さらに、グローバルな水平分業(※2)が加速する中、地理的・文化的な距離を越えて一貫した設計品質を保つことは大きな課題です。垂直統合型(※3)のものづくりにおいても、設計部門と製造部門の連携が難しくなっており、設計者の製造プロセスへの理解不足や、製造現場での設計意図の汲み取りの難しさが顕在化しています。こうしたギャップを埋めるためのコンカレント開発(※4)体制の構築が急務となっています。
※1 協調設計:メーカーやサプライヤーが設計データを一つのプラットフォームに持ち寄って開発を進める(欧州企業での取り組みが顕著)
※2 水平分業:設計や製造の各工程を、得意分野を持つ複数企業で分担する開発体制(Appleと鴻海の関係が有名)
※3 垂直統合:企画から設計、製造まで一貫して自社で行う開発体制(トヨタやTeslaが代表例)
※4 コンカレント開発:製品設計と工程設計を同時並行で進める開発方式
2. AI導入への期待
2.1 大量の情報から“抜け漏れ”を補完し、知識を体系化
AIは膨大な設計情報を処理し、人間が見落としがちな要素や相互関係を抽出することが可能です。これによって設計プロセスの網羅性が高まるだけでなく、組織内に蓄積されている暗黙知(※5)を形式知(※6)として取り込み、体系化する糸口が得られます。
※5 暗黙知:経験的・感覚的に使われる知識(例:「この寸法がちょうどよい」というベテランの勘)
※6 形式知:文書やデータとして明確に表現可能な知識(例:設計基準や計算式)
2.2 リードタイム短縮・品質向上・コスト削減の可能性
検討項目の自動生成や影響分析の効率化により、設計プロセスを大幅に短縮できる見込みがあります。また、AIによる網羅的なチェックは手戻りや不具合を未然に防ぎ、開発コストの削減と品質向上を同時に実現する可能性を秘めています。
2.3 「未知」領域への挑戦に設計者が集中できる環境づくり
「既知」領域をAIがサポートすることで、設計者は新たな価値創造や技術的イノベーションなど、より創造的な業務にリソースを割くことが可能になります。製品の差別化や競争力強化に直結する「未知」領域へ、より多くの知恵と時間を注げるようになるのです。
3. G-FASS:AI時代の設計支援の新しいカタチ
これらの課題を解決する一つのアプローチとして、G-FASSは「人間の創造性とAIの網羅性を組み合わせ、より良い設計プロセスを実現する」ことをめざしています。単なる“設計の自動化”ではなく、設計者が重要な判断や価値創造に集中できる基盤を整えるのが狙いです。
3.1 設計ドキュメント生成の“叩き台”から始まるワークフロー
G-FASSでは、設計資料や検討項目をAIが“叩き台”として初稿を自動生成し、それを基に設計者が判断や改善を加える流れを実現しています。AIは膨大な情報を整理し、網羅的な観点を提示する役割を担い、人間はその中から最も重要なポイントを見極め、新たな発想を付加することで付加価値を生み出す――これがG-FASSのコンセプトです。
3.2 提供される3つの主要機能
現在、G-FASSで一般公開されている主要機能は以下の3つです。
機能ツリー生成:製品の機能構造を自動的に階層化し、全体像を可視化
故障モード分析:潜在的な故障モードや影響・原因を網羅的に洗い出し、リスクを先読み
パラメータダイアグラム:入力−処理−出力−ノイズ−コントロールといった因子間の関係を整理し、設計論理を明確化
これらの機能をさらに拡張し、新しい設計支援のカタチを実現すべく、継続的なアップデートを進めてまいります。
4. 三段階で進める段階的な変革
G-FASSでは、以下の3つのステップを通じて設計開発の在り方を段階的に変革していくことを想定しています。
第一段階
既存の設計プロセスをAIで下支えし、従来どおりの時間・リソースでも網羅性と一貫性を大幅に高める。設計者が主導し、AIは補助的な立場で準備作業を担うイメージです。第二段階
AIに任せる部分と人間の役割を再定義し、プロセスを最適化。設計者は“デザインレビュー”に集中し、効率的な標準化や技術開発が進むことで、設計時間や手戻りを削減できます。第三段階
AIならではの能力を軸に、設計開発プロセス全体を再構築。AI自動設計を創り出す仕組みと、それを活用する新たなビジネスモデルへ展開し、付加価値向上を狙います。
例として、大量の設計案をAIが同時並行で生成し自動検証することで、顧客ごとの好みに合わせたパーソナライズド製品を迅速に展開できる未来像が考えられます。
5. 本連載の構成
今後の連載では、G-FASSの具体的な活用法から組織変革に至るまでを、以下の流れで解説していきます。
Part 1: イントロダクション(本稿)
Part 2: 各ツールの具体的な使い方と活用事例
Part 3: 3段階アプローチによる組織変革の進め方
Part 4: 実務的な導入方法と運用のポイント
読者の立場によって、注目すべきポイントが異なります。
現場エンジニアの方:Part 2の具体的なツールの使い方が中心
管理職・リーダー層の方:Part 3の組織変革の進め方がメイン
経営層・DX推進の方:Part 1・3・4を通じて、全体最適や投資価値を把握
特にお読みいただきたいのは、機械系メーカー、自動車部品、家電、産業機器などの製造業で設計開発や品質保証、技術管理に携わる皆様です。開発リーダー、プロジェクトマネージャー、CTO、設計部門管理職など、多くのステークホルダーが新しい設計開発の可能性を感じ取っていただければと思います。
6. 次回予告:機能ツリーの活用へ
次回は、G-FASSの主要機能の一つ「機能ツリー」を取り上げ、具体的な画面イメージとともに活用法を詳しく解説します。製品全体の機能構造を俯瞰し、設計時の抜け漏れを防ぐための実践的アプローチをぜひご覧ください。
本連載を通じて、AIを活用した設計開発の新しい姿を具体的にイメージしていただき、皆様の組織での実践へとつなげていただければ幸いです。ご質問やご意見がございましたら、ぜひコメント欄にお寄せください。一緒に、より良い設計開発の未来を考えていきましょう。