設計変更の影響範囲把握 - 機能展開を活用した包括的アプローチ
製品開発において、設計変更は避けられない日常業務の一部です。その多くは問題なく完了します。しかし、変更に伴う影響が予期できず、製造や品質に想定外の問題を引き起こすケースが起きると非常に苦労します。特に厄介なのは、変更の影響が発覚したときには既に製造が進んでしまっていて、変更前の状態に戻すことすら困難になっているケースです。そのたびに設計者は忸怩たる思いに駆られているかと思います。「なぜこの影響がでることが予見できなったのか…」
本記事では、このような設計変更の影響範囲把握の課題に対して、機能展開を活用したアプローチを提案します。
設計変更管理の現状と課題
設計変更管理において、よく見られる失敗のパターンがいくつかあります:
直接的な接続部分のみの確認で終わってしまう
担当者の経験と勘に依存した影響確認
部分最適による全体への悪影響の見落とし
これらは一見、個人の注意力や経験の問題のように見えます。しかし、実際にはより構造的な課題が背景にあります。
設計変更影響の把握が難しい理由
設計変更影響を正確に把握することが難しい理由として、以下のような技術的・組織的な課題が挙げられます。
技術的な課題
並行動作する機能間の干渉
例えば、ある機能の動作タイミングを変更したことで、他の機能との同期がずれる
単体では問題ない変更が、システム全体では想定外の相互作用を引き起こす
共有リソースへの影響
消費電力や発熱などの物理的な制約が予想以上に厳しくなる
構造材が担っていた荷重や振動を負担する機能が形状変更と干渉する
上位機能への予期せぬ影響
安全機能や監視機能など、製品全体に関わる機能への影響
複数の下位機能の変更が複数積み重なって、上位機能に影響を及ぼす
現場での実務的な課題
設計現場では、以下のような実務的な制約も影響範囲の把握を難しくしています:
制約条件下での設計空間の見極め
変更可能な範囲の特定が難しい
過度に安全側に倒すと設計の自由度が失われる
時間的制約
全面的な検証を行う時間的な猶予がない
重要度の判断を短時間で行う必要がある
コミュニケーションの課題
技術者以外の広範な関係者への説明が必要
複合的な因果関係を単純化して説明するプレッシャー
従来の技術見解からの転換が組織として難しい
機能展開による影響範囲把握のポイント
機能展開を活用することで、設計変更の影響範囲を網羅的に把握できます。
まず重要なのは、変更箇所と影響経路を明確化することです。機能ツリーを用いることで、変更が及ぼす影響を階層的に整理でき、上位機能や並列機能への影響、さらにはリソース競合の可能性まで体系的に検証することができます。
また、機能展開はチーム間の共通言語としても有効です。機能間の関係性を視覚化することで、部門間の認識ギャップを解消し、技術者以外のメンバーにもわかりやすい形で説明することができます。
さらに、AIを活用することで、過去の類似事例からの学習に基づいて潜在的なリスクを抽出することも可能です。影響範囲を自動で予測することで、人が見落としがちな項目も含めてより網羅的な検証を実現できます。
デジタルツールによる支援
こうした機能展開を活用した影響範囲の把握は、デジタルツール、特にAIの活用によってさらに効果的になります。
AIを用いることで、機能ツリー全体に対する影響確認や変更箇所から派生する影響の追跡を自動的に行うことができます。
また、過去の類似事例から学習することで、見落としやすいパターンを指摘することも可能です。 従来のPDM/PLMシステムが設計変更の承認・管理を主眼としているのに対し、機能展開を活用したアプローチでは、より早期の段階から変更の影響を評価できます。企画段階での影響評価が可能になり、早期の問題発見と対策立案を実現できます。
さらに、機能的な視点での分析により、構造的な把握が難しい影響を可視化し、新しい気づきを得ることができます。
実務での活用
実務での活用において重要なのは、できるだけ早期の段階から影響分析を開始することです。構想設計段階から機能展開を活用することで、変更の自由度が高いうちに様々な検討を行うことができます。
また、機能ツリーを共通の参照点とすることで、部門横断的な検討も容易になります。
ただし、AIによる分析結果は必ず人間の目で検証する必要があります。分析結果の妥当性を確認し、誤検出の可能性も考慮に入れながら、経験則や現場知識と組み合わせて判断を行うことが重要です。
まとめ:これからの設計変更管理
設計変更影響の把握は、製品の複雑化と短納期化が進む現代の開発現場で、ますます重要な課題となっています。本記事で紹介した機能展開を活用したアプローチは、変更の影響範囲を網羅的に可視化し、問題発生リスクを未然に防ぐための有力な手法です。特に、以下の3点が鍵となります:
上位・並列機能への影響を構造的に把握
チーム全体での認識共有を促進
AIを活用した効率的な分析との組み合わせ
次回は「パラメータ設計入門」と題して、製品の安定性向上のための体系的なアプローチについて解説します。ぜひご期待ください。
※ 本記事で触れた設計変更影響分析については、G-FASSの設計変更影響分析機能でより詳しく体験いただけます。