映画鑑賞記録202202

初見は●

映画館で観たやつ

● デモニック

ブロムカンプ、どうしちゃったのさ。

「面白くなりそうだな」「面白くなってきたぞ」と思ってるうちに煮え切らないまま終わってしまう。仮想空間に"ドロップ"するシーンの人体の撮り方、悪魔のデザイン、悪魔祓い特殊部隊のディテールなんかは超好みなのにね。

なんかマジで予算なかったっぽいですね。いつものブロムカンプなら絶対に真正面から描くであろうシーン(ハイテクエクソシズム特殊部隊の出撃シーン、激烈なゴア表現を交えての特殊部隊全滅、仮想空間での悪魔とのバトル…)が全部「暗転→場面転換→事後」の省エネ演出で片付けられちゃう。予告みてブチ上がった人ほどしょんぼりして帰ることになると思うな……

いつの日か『Neill Blomkamp's Deminic』と銘打った完全版(4時間)が公開されると信じてるからね……

● 牛首村

いやめっっっっっっちゃ良かったですね……おれは元々このシリーズは信頼していたが、樹海村で監督のやりたいことが完全に理解でき、今作では更におれの好きな方向に振り切ってきたので本当に嬉しい……

今回なんか清水崇ホラーの集大成って感じがするね。ぶっ壊れた因果や時空間、過去との感応、魂の片割れ…犬鳴村や樹海村でも扱っていた要素だけど、今作は何となく『輪廻』とかあの辺を思い出す仕上がり。場面転換のぶっ壊れ具合もすごいぞ。

犬鳴村でもやってた投身無限ループがまた見れて嬉しい。清水監督、破綻した理屈でなにかが動き続けている様子にフェチ(恐怖のツボ)があるのかな。「無いはずのものがある」よりは「在るはずのものが解らない」に重点が置かれている感じ。

冒頭のライブ配信のチャット欄に樹海村キャラクターたちがいたり、ホムンクルスの主人公(っぽい人)が背景にいたり、清水監督"その域"に達していたのか…となった。いや樹海村の方はシリーズ作品だし、何なら時系列前後してるとかで言い訳できるけどさあ。そんな手塚治虫みたいなスターシステムを……

蜃気楼のくだりがツボだったので次のヤバい村は海沿いにしてほしいな…と思った。離島とかどう?清水監督の撮る海より来たる怪異が見てえよ。

● 真・事故物件 本当に怖い住民たち

馬鹿野郎がよ!!!!超楽しかったけど、2022年にこんな映画作っていいんですか…?こんな、1980sクソ馬鹿イタリアンホラーの生き残りみたいな映画を……

ゴアホラーというのは聞いていたからどんなもんかと思っていたら、立ち上がりが思ったより真面目なJホラーで驚いたんですよね。恐怖表現は現代邦ホラーのテンプレ(の正確な再現)なんだけど、ディティールの厭さが物凄くいい。生活感の残る不潔な室内、ボロボロの畳や襖、トボけた態度のマネージャーに薄っぺらい会話しかしない同僚YouTuber達。

「言うほどでもねえのかな…」と油断してたら後半のジャンル転換の仕方がとんでもなくて爆笑してしまった。主人公だと思ってた女の子がヤバい殺人鬼に襲われ、いきなり出てきたフルチ映画っぽいゾンビジジイに口から内臓全部引っこ抜かれて眼球も飛び出して死ぬ……という。あまりにも突然すぎて受け身の取り方が分からず「正気か????」つった。その急ハンドルは観客全員振り落とされるだろ。

言うてR-15作品なので正視に耐えないようなゴア表現はそこまでなくて、惹句のPOPスラッシャーというのがまさしくその通りな感じ。後半は終始ハイテンションで血飛沫が飛び手足がモゲるけどさっぱりしてる。あの幕切れ(殺人鬼ぶっ殺してクソデカ文字で"THE END")はタランティーノの『デス・プルーフ in グラインドハウス』オマージュかな…

監督はジャッロ/イタリアンホラー大好き人間らしく、パンフレット読んだら「僕は"いかに殺すか"にしか興味がなくて、ストーリーやキャラクターはどうでもいいんです」とか言っててまた爆笑。これがソコソコの規模で全国公開されてるの本当に正気を疑うね。100%内輪ウケ映画だと思うんだけど……『カメラを止めるな』みたいな流行り方したら笑っちゃうし、『牛首村』と公開時期被ってるせいで善良(?)なJホラーファンが巻き込まれてしまうのでは…と要らん心配しちゃう。

ヒロインが内臓げぽげぽ吐き出して(引き抜かれて)死ぬのはフルチの『地獄の門』オマージュかと思ったらブルーノ・マッティの『ヘル・オブ・ザ・リビングデッド』が元ネタらしい。人間が内臓げぽげぽ吐き出して死ぬ映画って意外とたくさんあるのか??

パート2制作決定してるらしい。正気か???

● アンチャーテッド

自分でもびっくりするくらい食指が動かなかったが観に行ったら面白かった。

原作ゲームは一通りプレイ済みなんだけど、今作のストーリー(というかステージ)の「原作にありそう」さが凄い。トムホがあと20年くらいしたら原作ネイト(冗談ばっか言うマッチョのおじさん)っぽくなるのは結構想像できるし、逆にサリーは若い頃の方が落ち着きがあるんだな…というのも面白かった。

ただ原作エミュの精度の高すぎて逆にちょっと退屈に感じる場面はあったかな。飛行機から落ちるくだりは展開もゲームまんまだし、他も全体的に戦闘シーンやパルクールアクションが「ゲームだとこうなるな…」「こういうギミックがあるんでしょ」という予想の範疇から外れてこない感じ。映像はめちゃめちゃ頑張ってたと思うんだけど、どれもこれも「それ見たことあるんだよな〜!」ってなっちゃう。好みの問題かもしれないが、折角実写映画でやるなら見たことないものを見せて欲しい…と思ってしまう。

あと遺跡や洞窟の撮り方があんまり合わなかったな…ルーベン・フライシャーあんまり遺跡とか興味ないな?ってなる場面がちらほら。なんかインディジョーンズやハムナプトラに喩えるような感想をよく見かけるけど、あの辺との決定的な違いはそこかなあという感じ。

この手の「どんな時に観ても一定以上楽しめる娯楽映画」って最近逆に貴重かもしれない。ポストクレジットシーンで続編匂わせまくってたし、普通にシリーズ応援していきたい気持ちはある。今作もこれから午後ローや何やらでガンガン地上波放送してほしいね。

配信などで観たやつ

As Above, So Below 地下に潜む怪人

BDで再見。POVホラーはロケーションが何より大事で、その次に大事なのが映像の目新しさだと思っている。これはどちらも素晴らしい。あとポスターヴィジュアルとエンドクレジットが超格好いいんだよな。

● 事故物件 恐い間取り

Netflixで。勘弁してください。中田秀夫監督が何も面白くない空っぽのホラー映画を連発している有様を見ているととても悲しくなるね。

● ヴァイラス

BDで。最高の映画だ。「子供の頃に地上波で放映してたあの面白い洋画」の要素を全て兼ね備えている…人体と機械が融合した怪物たちのヴィジュアルが最高にツボ。『武器人間』もそうだけど、人体が完全に"部品"として解釈されてるクリーチャーデザインは最高。

運び屋

アマプラで。イーストウッドの主演作を遡っていこうかな…みたいな気持ちがふと。愚かな善人、みたいな役も似合うね…

ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷

アマプラで。一度みたことあるんだけどあんまり覚えてなかったので。『呪怨』のハリウッドリメイクとしては良い方だと思うな…壮絶なゴアとイヤ〜な"溜め"の描写が効いていて。

● アローン ALONE

アマプラで。砂漠のど真ん中で地雷を踏んで身動きが取れない…というワンシチュエーションの戦場スリラー。生還するための苦闘よりも極限状況下で主人公が己の人生と向き合う方に比重が置かれてた。『ザ・ウォール』の系譜かと思いきや『ジェラルドのゲーム』とかそっち方面…?わりと嫌いではないな。

クリムゾン・ピーク

アマプラで。デルトロによる超古典的ゴシックホラー。20世紀初頭の絢爛な社会、雪と赤土に沈みゆく屋敷の威容、悍ましき深紅の幽霊……美術に対する気合の入り方が凄まじくてたまに観返したくなる。

呪怨&呪怨2

Netflixで。劇場版のほう。しっかり怖いJホラーが観たいな〜という気持ちが今月は強めに出ている。改めて、我々が安全圏だと思っているところ(布団の中やシャワー中の後頭部など)をことごとくブチ破ってくる描写が超エポック。

● ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ

アマプラで。良い映画だ。ジェントリフィケーション、居場所を追われて忘れ去られゆく人々…というヘヴィになりそうなテーマなんだけど、当事者たちの友情とノスタルジアにフォーカスして描いているので不思議な味わい。黄みがかった色調の映像もよい……

主人公のジミーとモントの仲良しっぷりも楽しいし、彼らは"いかにも"な感じの人たち(ヒップホップ的というか、黒人コミュニティと聞いて真っ先に連想するちょっと怖い感じのあれ)とは少し距離を置いているけれど、決して敵対しているわけではなくて、お互いどこかで分かり合っている/繋がっている……という描き方が暖かい。

樹海村

アマプラで。そろそろ新作公開されるな…と思ったので。これやっぱホラーより幻想と怪奇/伝奇に振り切った絵作りが超良くて。前作にもあった「Jホラーとしてはどうなんだろう…?」みたいな部分の謎が解けたというか、そっちがやりたかったのね、って納得がある。牛首村も楽しみだしこのシリーズは末長く続いてほしいね。

● エクストリーム・ジョブ

すこぶる面白い韓国アクションコメディ……なのだけど。アクションのキレの悪さ・煮え切らなさでちょっとションボリしてしまった。もっとやれる筈なのにちょっとヒヨっているというか……

女優霊

DVDで。子供の頃に観て超怖かった記憶があるけど中身全然覚えてなくて。Jホラーの祖、みたいな扱いをよく目にするけど現代のJホラーとはだいぶアプローチ違う気がするな。作品そのものは怖いというより厭な映画で。作品の外側の、己の記憶と思考の中にしか存在しないはずの恐怖に形が与えられてしまう怖さというか……

高橋洋の幽霊観好きですね。必ずしも"幽霊=死んだ人間"とは限らないのではないか、どうして我々は死んだ人間がそのまま現れると思っているのか、そういったロジックが存在しない、何もないところから湧いて出た"幽霊"の方が恐ろしいのではないか…という。

● 恐怖

DVDで。これも子供の頃観てるかもしれないが。今まで知らなかったがアーサー・マッケンの『パンの大神』が下敷きになってるんですね(高橋洋監督はマッケン大好き人間らしい)。そんなん絶対好きじゃん……

内容としてはかなり難解で、監督インタビューまで見てようやくやりたいことが理解できた感じ。開頭手術で人間の霊的な進化を促す、という要素はキャッチーなのに肝心の霊的現象が視聴者にはほとんど理解できない形で描かれるので結構戸惑った。まあ我々は脳を啓かれていないので当然ですが……

その辺りのやりたいことが察せられて、チューニングが合ってくるとかなり怖い。人智を超えた存在、語りえない恐怖の表現としては完全に成功していると思う。「光は何か神聖なもの、祝福のように捉えられることが多いが、我々を支配しているものであり、本当はもっと恐ろしいのではないか?」というのは盲点だったな。

● 悪魔のいけにえ レザーフェイス・リターンズ

ネトフリで。2018年の『ハロウィン』とおんなじことやろうとしてない…?と思ったらやっぱりそうだった。ただまあ、トビー・フーパー版の邪悪さを再現しようという気概は良かったし、チェーンソーを存分に活用したタイトル通りの大殺戮massacreや各種ゴア表現も楽しい。背景美術も全体的に格好良くて好きだな。

主人公の高校で起きた銃乱射事件の生存者だって設定は今っぽくて良かったと思うが、『悪魔のいけにえ』にそれ(レザーフェイスと戦う大義名分)は食い合わせが悪い気も。犠牲者の若者達がビジネス目的で田舎に移住してくるって導入もイマドキっぽくて良かったんだけど、「そういう人たちにしては愚かすぎない…?」と思ってしまって。

あと初代ヒロイン再登板、あんな扱いになるなら別にいらなかったんじゃないかな。ローリーに執着してたブギーマンと違ってレザーフェイスくんは別にその辺興味ないしな…「どこに逃げても追ってくるかもしれない」ってブギーマンの恐怖と違って、レザーフェイスは「踏み入ってしまったら最後」って感じなので単純にテキサスを離れてれば良かったのでは…?という。

● 博士と狂人

Netflixで。オックスフォード英語辞典の編纂にまつわる伝記映画。英国中のあらゆる人々から英単語と用例を募り、学者達がそれを集約する…という途方もない事業のロマンと狂気。終盤結構ゴチャっとするんだけど、熱い志と美しい友情の物語で結構好き。

天才学者の髭もじゃメル・ギブソンと精神病の殺人犯ショーン・ペンを筆頭に俳優達の顔がとにかく良い。二人とも天才であり狂人で、我々凡人には理解し難いジョークで笑い合ってたりするのがラブリー。お互いの知らなそうな単語言い合うゲームはともかく、「ドキドキする英単語といえば…?」みたいなあるある何なんだよ。commotrixってなに……

● 夢の丘

U-NEXTで。高橋洋の短編。タイトルはマッケンの小説から?雨に閉ざされた丘の一軒家、妻を殺そうとする男と明らかに様子のおかしい義姉。雨、窓、金網といった境界のモチーフ。死んだはずの妻は布団から姿を消し、わざわざ窓の外からこちらに"踏み込んで"くる。

いやめっちゃ怖い。高橋洋の絶対的恐怖の探求が結実してる。どう見ても"幽霊"の撮り方じゃないんだけど、その正体を語る術を我々は持っていない…

● 邪願霊

U-NEXTで。『心霊マスターテープ』で言及されてたJホラー/心霊モノの元祖らしい。1980s日本の描写に気を取られてる隙にどんどん大変なことになっていく。

モキュメンタリーホラーというジャンルは「まさかそこまでしないだろう」という我々の侮りをいかに突き破ってくれるかが大事なので、ジャンル黎明期にこれが出てきていたというのは本当に凄いと思う。平凡な「恨みを持った女の霊」が車を爆発炎上させたりするとは思わないじゃん……

てけてけ

U-NEXTで。あんまり言うことねえな……白石晃士、すっかり"昔好きだった映画監督"になってしまった。

● ファブリック

アマプラで。呪われたドレス、奇妙な百貨店、不愉快な人々……嫌悪感を催すモチーフの羅列が2時間続く。ジャッロがやりたいのかな…と思ったらその割には人間が惨殺される場面は全然なく。唐突な崩壊で完全に視聴者を突き放して終わる様はある意味美しいと思うけど……何、この……何???

セントラル・インテリジェンス

U-NEXTで。高校時代のいじめられっ子が成長したらドウェイン・ジョンソンになってて、冴えないサラリーマンになっちゃった高校時代のヒーローと組んで悪の組織に立ち向かう…って絶対面白いやつ。「ドウェインジョンソンがCIAの裏切り者なのでは…」って展開を「でもロック様がそんなことするワケなくない?」の一点でねじ伏せる潔さ。

ドウェイン・ジョンソンは自分がやったらウケることを100%理解した上でそれを100%提供してくれるし、毎回「必要なときにちょっとだけ勇気を出せるヤツが真のヒーローなんだぜ」みたいな真っ直ぐすぎるメッセージを突きつけてくるのでリスペクトしかないね……

● デモンズ'95

BDで。マケプレで新品定価品を奇跡的に見つけたので…デモンズ'95と言いつつ1995年の映画でもないのがかなり謎。原題"Dellamorte, Dellamore死の,愛の"って良すぎる。

最高のホラー…というより怪奇幻想映画だったな。この手の映画に欲しい成分が全部あった。倦んだ日常としてのゾンビ退治、孤独な男が狂気と悲哀の深みにハマっていく展開、詩情と美意識の詰まった映像……何よりラストシーンが凄すぎる。悪夢じみた惨劇の末に目撃する世界の果て。最後のあのスノードームのキマり方よ。

ただまあ、この辺のイタリアン・ホラーのお約束なのかヘンな描写もゾロゾロ出てくる。「バイクと融合して勢いよく墓穴から飛び出してくるゾンビ」「セックス恐怖症の女に惚れて即座にちんちん切除を決断する主人公」みたいな、それはどう受け止めれば……?となるやつ。後者に関してはその後の展開(「他の男にレイプされてセックス恐怖症治ったからあなたとは結婚できないわ」とか言われる)含めるとかなりつらい場面ではあるが……


今月は以上です。

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