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「一度目、あなたを欺く。二度目、真実が見える。」 裏切りのサーカス評


皆様いかがお過ごしでしょうか。
早いもので、前回「パルプフィクション」についての考察を書いてからはや一年近くが経ちました。
引き続き予断を許さない状況下ではありますが、少しだけ未来のことが考えられるようになってきました石引はチョム林です。

2回目の映画紹介ですが、なんの映画にするかすごく迷ったんですよね。

折角ならお祭りわっしょいみたいな映画にしようと思って、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で書き始めてみたり。
本当に良いんですよね、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」のお馬鹿な乱痴気騒ぎとディカプリオ。

でも書いていてやっぱりなんか違うなあ、と思ってしまいました。
状況とは逆の映画でもなく、状況に即した映画でもなく、状況がどうであれ信念を持って自分の仕事を全うすることが改めて大切だと感じられるような映画がいいな、と。

というわけで、今回はザ難解映画の一つに数えられる「裏切りのサーカス(2011年、イギリス、フランス、ドイツ合作)」を紹介したいと思います。

時は東西冷戦下のイギリス。
「サーカス」と呼ばれるイギリスの諜報機関(MI6)に潜り込んだソ連情報部(KGB)通称「モスクワ・センター」の二重スパイ、「もぐら」を巡り熾烈な諜報合戦を繰り広げるスパイ映画です。


原作はジョン・ル・カレが1974年に発表した「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」というスパイ小説。

メガホンはスウェーデン人映画監督のトーマス・アルフレッドソン。

キャストには、主人公のジョージ・スマイリーを演じるゲイリー・オールドマンをはじめ、コリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズにベネディクト・カンバーバッチと、イギリスを代表する名優がずらりと並びます。

さて、あらすじをと思ったのですが、ネタバレ必死の上に淡々とあらすじを綴っても、なんの面白みもないんですよね、この映画。
はっきり言って、見せ場らしい見せ場はありませんし、007シリーズみたいに派手な銃撃戦や肉体的なコンタクトがあるわけでもない。

でも、決して退屈な映画ではなく、僕的には過去にみた映画の中でも自信を持って一番と言っていい映画なんです。(「裏切りのサーカス」もなんだかんだで5回見てます。)
シークエンス、音楽、台詞回し、小道具。全部いい!
全てにおいて最高の映画!

僕にとって、まさに映画の中の映画です!

と言うわけで、あらすじは他の記事に譲るとして、個人的に「裏切りのサーカス」のどこがそんなに良いのかを、スマイリーを演じるゲイリー・オールドマンを中心に置いてちょっと前のめりに書いていきたいと思います。(今回は完全に「裏切りのサーカス」を鑑賞した人でないとちんぷんかんぷんな内容になります。あらかじめご容赦下さいませ。)

この映画、とりわけ主人公のスマイリーを演じるゲイリー・オールドマンが抜群にいいんですね。
初見の時は素直にスマイリーの仕事ぶりに感心したのですが、2回目の観賞以降、スマイリーとソ連諜報部のリーダーであるカーラとの見えない信頼関係にゾクゾクしていて。

かなり序盤にサーカスのリーダーであるコントロール(ジョン・ハート)が死んだ際、残された黒いチェスの駒に「ベガーマン(乞食)」のコードをつけられ、スマイリー自身が「もぐら」である可能性を疑われていたことが窺えるシーンがあります。
その駒を見つけたスマイリーは正面を向いている駒をそっと後ろ向きにするんですね。
ちなみに、白のキングには「カーラ」と貼られています。

たびたび画面に登場するソ連諜報部のリーダーであるカーラですが、彼の顔は画面に映ることはありません。
カーラを示す小道具は、中盤に語られるスマイリーが過去に一度だけカーラに接触した時の名残。

スマイリーの妻であるアンから贈られたライターが大写しになることから、カーラの存在が窺えるのみです。


そう、KGBのリーダーであるカーラとスマイリーは過去に一度だけ相対したことがあります。
サーカスの連中で実際にカーラと相対したことがあるのはただ一人スマイリーだけなんですね(その後、サーカスの別の諜報員もカーラと相対します)。



カーラの仕掛けた「もぐら」を追っていく過程で、スマイリーは図らずもカーラの思考と現在のカーラを辿ることになります。


初見では気づかなかったのですが、この作品の中でカーラとスマイリー以外の登場人物というのは大なり小なり変わっていく状況に翻弄されます。
その状況というのは「裏切りのサーカス」の作中では、ある種、象徴的に「愛」という形として描かれます。

あるものは仲間への愛、あるものは敵スパイへの愛、そしてまた別の登場人物はかつての組織への愛。
作中でそれらは全て、成就しなかったり、形が変わってしまったり、なくなってしまったりします。

ただ、スマイリーだけが目の前の状況ではなく過去に一度相対したカーラという遠い存在の思考を辿ることで状況に翻弄されることを免れることができているように感じられます。(ギラムがそれを追体験することになります)
敵であるはずのカーラとスマイリーの間に生まれそれぞれの胸の奥に残り続けている、お互いへの「敬意」とある種の「信頼」

変わりゆく状況の中で、ずっと変わらないような信頼に足るものが、実の所お互いの想像の中にだけ成立するような、朧げなものだとわかります。

信頼というのは、案外そんな儚いものだと気付かされると同時に、儚いものだからこそずっと大切に持ち続けて信じ続けなければなくなってしまうことに気付かされます。

状況の変化が早く、何かを信じ続けることが難しい昨今だからこそ、書きながら改めて秋の夜長に見返したいと思いました。

何度見ても圧巻のラストシーン!めちゃくちゃカタルシス!

というわけで、今回は「裏切りのサーカス(2011年、イギリス、フランス、ドイツ合作)」の紹介でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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