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【税金逃れ?それとも合法的な節税?非居住者判定の最新判例を解説】

こんにちは、りこです。

今回は、わたしのところへもよくご質問のある
「非居住者の判定」
に関する最新の判例をご紹介します。

海外で働く方や、国際的な資産運用をされている方にとって、この問題は避けて通れない重要なトピックです。
非居住者とは何か、そして判例から見る非居住者判定についての解像度を高めて頂ければ幸いです。


1. 非居住者って何?なぜ重要なの?

まず、基本中の基本から。
非居住者とは、簡単に言えば「日本に住所を持たない人」のことです。
ただ、この「住所」という概念が曲者なんです。
単に住民票を抜くなどでは「日本に住所を持たない」とは認められません。

税法では、民法の概念を借りて「生活の本拠」と定義しています。
つまり、日常生活を主に送る場所のことです。
そしてこれが重要なのは、居住者と非居住者では課税される所得の範囲が大きく異なるからです。

居住者は全世界所得に課税されますが、非居住者は日本国内で得た所得にのみ課税されます。
つまり、非居住者と認定されれば、海外で得た所得に日本の税金がかからなくなるのです。

では、具体的に非居住者と認められるにはどのような実態が必要なのでしょうか。
過去の判例に沿って見ていきます。

2. 武富士事件:最高裁が示した判断基準

事件の概要

2011年、最高裁で判決が下された武富士事件。
これは、消費者金融大手の創業者一族をめぐる贈与税の事案です。

長男(納税者)は、香港の子会社に駐在する役員として香港に住所を構えていました。
そんな彼に、父親がオランダ法人の出資持分を贈与しました。

問題は、この「贈与時」に長男が日本の居住者だったか、それとも非居住者だったかということです。

最高裁の判断

最高裁は、以下の要素を総合的に判断して決めるべきだと示しました。

  1. 住居

  2. 滞在期間

  3. 職業

  4. 生計を一にする配偶者その他の親族の存否

  5. 資産の所在

そして、本件に関し、以下のような判断を下しました。

  • 滞在日数:香港滞在が約65.8%、日本滞在が約26.2%。これは香港に生活の本拠があることを示す重要な証拠。

  • 住居:香港で2年契約のアパートを借りていた。日本では出国前と同じ自宅を使用。

  • 職業:香港の現地法人の取締役。日本の会社の取締役会にも月1回参加。

  • 親族:独身で親族なし。

  • 資産:日本に大部分の資産(株式、預金)があったが、これは決定的な要因ではない。

つまり「日本に生活の本拠はない」との判断を下したのです。

最高裁の重要な指摘

  1. 租税回避の意図があっても、客観的な生活実態が消えるわけではない。

  2. 資産の所在は、国際化の時代には生活の本拠と密接不可分とは言えない。

  3. 租税回避の意図だけで居住者認定はできない。法律で明確に規定する必要がある。

3. ユニマット事件:東京高裁の判断

事件の概要

2008年の東京高裁判決。
ユニマットホールディングの創業者が、シンガポールに移住後、日本法人の株式を譲渡した事案です。

納税者は、シンガポール法人の特別顧問としてシンガポールに渡航。
その後、保有する日本法人の株式を譲渡しました。
彼は非居住者として申告しなかったのですが、税務署は彼を居住者とみなして課税。これに対して納税者が訴訟を起こしました。

高裁の判断

東京高裁は、以下の点を重視して判断しました。

  1. 住居:

    • 日本:特定の住居なし。ホテルやスポーツクラブを利用。

    • シンガポール:サービスアパートメントを賃貸。

  2. 滞在日数: シンガポールの滞在日数がわずかに日本を上回っていた。

  3. 職業活動:

    • 日本:内国法人の取締役として活動。ただし業績不調。

    • シンガポール:特別顧問。具体的活動は不明確だが、将来の収益期待大。

  4. 親族: 日本に両親と長女がいたが、独立した生計を営んでいた。 判断:経済的支援があっても、直ちに日本に住所があるとは言えない。

  5. 資産の所在: 日本に多くの資産があったが、必ずしも日本居住が必要な資産ではなかった。 判断:資産の所在だけで日本に住所があるとは言えない。

以上を鑑み、日本の非居住者との判断を下したのです。

高裁の重要な指摘

  1. 租税回避の意図があっても、客観的事実に基づいて総合的に判断する。

  2. 事実に仮装や偽装がない限り、主観的意思(租税回避目的)は考慮しない。

4. 両判例から学ぶこと

  1. 客観的事実が重要: 租税回避の意図があっても、客観的な生活実態が重視されます。つまり、単に「税金を減らしたい」という思いだけでは、非居住者として認められません。逆を言えば租税回避の意図があっても、生活の実態が外国であれば非居住者と認定される場合もあるということです。

  2. 総合的判断: 滞在日数、住居、職業、家族の状況、資産の所在など、様々な要素を総合的に判断します。一つの要素だけで決まるわけではありません。

  3. 資産の所在は決定的要因ではない: 国際化が進む現代では、資産が日本にあるからといって、必ずしも日本に住所があるとは言えません。

  4. 法的根拠の重要性: 租税回避を理由に課税するには、明確な法律の根拠が必要です。

  5. 実態の重視: 形式的な契約や書類よりも、実際の生活や活動の実態が重視されます。

5. まとめ:非居住者判定のポイント

以上の判例から、非居住者となるには以下の要素を満たす必要があります。

  1. 生活の中心地はどこか?

  2. 滞在日数の比較

  3. 職業活動の実態

  4. 家族の状況

  5. 資産の所在(ただし決定的ではない)

これらの要素を総合的に判断して、「生活の本拠」がどこにあるかを決定します。
重要なのは、単なる形式ではなく、実際の生活実態です。

国際的な人材移動が活発化する中、この問題はますます重要になってくるでしょう。
海外赴任や国際的な資産運用を考えている方は、これらの判例を参考に、慎重に計画を立てることをおすすめします。

税金の問題は複雑です。
迷った時は、必ず専門家に相談しましょう。
適切なアドバイスを得ることで、合法的かつ効果的な節税が可能になるかもしれません。

自分は非居住者に該当するの?これから外国へ赴任する際に気を付けることは?などの疑問がおありでしたらお気軽に下記よりご予約ください。
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